先週、いつもお馴染み同級生ユリちゃんの実家のお寺で
年に一度のお祭りがあった。
祭りの形態はコロナ禍により、去年と同じ分散方式。
一般の祭り客はシャットアウトし、檀家と手伝いの人
それに歌や演奏を披露する人たちとその関係者を時間差で呼ぶのだ。
去年の分散方式は、そりゃもうくたびれた。
ユリちゃんたちも初めての形だったし
我々も分散がどんなものかを知らずに臨んだので、現場は混乱した。
次から次へ食事、お茶、おやつを出し続け、準備と後片付けで台所は修羅場。
同級生の料理番、マミちゃん、モンちゃん、私の3人は
寺で地獄を見たものである。
座る暇すら無かった、あの悪夢はもうごめんだ。
今年はもっと計画的にするもんね…私は心に誓った。
が、祭りが近づくと計画どころの騒ぎじゃない。
寺はとっても不穏な空気よ。
祭りに向け、数回にわたって行われる実行委員会のミーティングに
ユリちゃんと兄嫁さんが参加できなかったため
彼女らは祭りの日時以外、何も知らないまま当日を迎えたからだ。
なぜミーティングに参加できなかったかというと
ユリちゃんの旦那モクネン君が、ミーティングの日時をわざと教えなかったから。
モクネン流のイケズである。
ユリちゃんの夫婦仲は年々順調に悪化しているが、とうとうここまで来たようだ。
そのためユリちゃんは旦那の仕打ちを嘆きつつ
手探りで祭りの準備をしなければならなかった。
およその人数や段取りなどの情報がゼロなので、我々の把握する事柄はほとんど無い。
ユリちゃんが小耳に挟んだところによれば
人数は不明だが、複数の大学生が手伝いに来るらしいという話だ。
他には先月のお寺料理の際、モクネン君が私に鶏の山賊焼きをリクエストしたことぐらい。
が、情報が少ないからと、ひるむ私ではない。
去年もやったし、さほど大きな寺でもなし、聞いて何になる。
大学生が来る=食う
山賊焼き=炭を使わせるからには少人数ではない
これで十分だ。
どの団体は食べずに帰ります…
どの団体は夜だけ召し上がってお帰りです…
この団体とあの団体は、夜と打ち上げの二食です…
それぞれの人数は何人…お出しする時間はいつ頃…
なんて、ユリちゃんからしょうもないことを聞いたところで何の参考にもならん。
料理がタダで食べられると聞けば、なぜか皆さんの予定は変わりなさって
たまげるほど人が増えるものよ。
特に、あの寺はそうだ。
たくさん用意すればいいことである。
私には秘策があった。
カレーじゃ。
去年、ユリちゃんの兄嫁さんが檀家と我々の昼食用にと
カレーをたくさん作ってくれていた。
檀家と我々だけなので尋常でない量が余ったが、あれはもったいなかった。
「これは身内用で、お客様に出す予定で作ってないから」
と謙遜だか、日頃からカレー反対派のユリちゃんを慮ってだか
兄嫁さんに釘を刺されたので、みすみす少人数にしか与えなかったのは
あまりにも残念だった。
カレーの大鍋を横目に、大量のオードブルやおむすびを作る虚しさよ。
今年はカレーを本線に、オードブルとおむすびをサイドメニューにして
昼食、夕食、打ち上げの三食をこなすんじゃ。
さすればカレーで腹を満たせるため
狂ったようにオードブルやおむすびを作らなくても3人で回せるはず。
これがうまく行けば、来年からカレーを定番にして、オードブルも同じ物にするつもり。
人数とメニューを考えなくていいとなれば、ずいぶんと気が楽だ。
食べ慣れたカレーでなく、人の作った珍しいおかずがあれこれ並ぶのを好むユリちゃんは
この案にわずかな難色を示したが
私は人数や段取りがわからないという理由をつけて押し切った。
で、今回のメニュー。
まずカレー。
マミちゃんが作りたがっていたが、分量がわからないと言うので
今年はとりあえず私が作った。

これ、直径50センチぐらいの鍋。
カレールーは、ハウスジャワカレーの業務用。
ジャワカレーの業務用大箱には、甘口辛口の区別が無いが
家でも使っていて、そこそこ辛いので採用。
ひと箱で40皿できると表示してあるやつをひと箱半、使った。
マミちゃんが、コロッケ作りで余ったと言って
味付け済みの合挽きとタマネギを持って来ていたので、それも全部つっこんだ。
カレーは大量に作ると野菜の甘みが容赦なく出て、どうしても甘くなる。
来年はもっと辛口のカレールーを使うか、カレー粉を足して調節しようと思った。
ご飯は、少なめに盛り付ける予定で2升炊いた。
自分で作ったため、味は家で食べるのと同じでちっとも面白くなかった。
カレーの盛り付けは白い円形の紙皿に、マミちゃんが例のごとく
可愛いホイルカップに入れた野菜サラダや福神漬けを飾って美しく仕上げてくれたが
写真を撮る暇が無くて残念だった。
オードブルのコロッケ、作成中。

コロッケはユリちゃんのこだわりが強いので、はずせないのだ。
子供の頃から、お祭りには買ったコロッケを出す習慣だったそう。
うちらが料理番になるまでは、彼女が肉屋さんに予約注文したコロッケが並んでいた。
そっちの方がよっぽど美味しかったが、うちらにやらせたら安くつく。
とはいえ今、ジャガイモが高い。
困ったね、と言っていたら直前になって、マミちゃんの店のお客さんがひと箱くれた。
マミちゃんの人徳か仏の慈悲か、それをコロッケとカレーに使うことができた。
コロッケはマミちゃんが家でタネを作り
モンちゃんがお寺で成形してマミちゃんが揚げた。
マミちゃんが独断でカレーコロッケにしていたので
「カレーライスに、カレーコロッケかよ」
と密かに思ったが、食べてみるとカレー味というよりエスニック調になっていて
オツな味わい。
どうやら中に入れられたコーンがカレー粉のカドを和らげ、国籍不明にしたらしい。
できあがったオードブル。


マミちゃんのコロッケとサラダ、私の海老パン…ほぼ去年と同じだ。
それからモクネン君のリクエスト、鶏の山賊焼き。
山賊焼きは炭火を起こし、台所の裏庭で焼いた。
兄嫁さんには、恒例のナスバンジャンを作ってもらった。
揚げたナスを、豆板醤入りの甘酸っぱいタレに漬けるものだ。
彼女のナスバンジャンは毎年大人気で、今年もこの味に魅せられた女子大生が
メモを片手にレシピを聞きに来た。
奥にある鯛は、鯛そうめんにするつもりで錦糸卵や椎茸煮と共に持って行った。
山賊焼きのついでに炭火で焼きはしたものの、表向きは時間が無くて…
本当はかったるくなって、マミちゃんとモンちゃんの土産にした。
《続く》
年に一度のお祭りがあった。
祭りの形態はコロナ禍により、去年と同じ分散方式。
一般の祭り客はシャットアウトし、檀家と手伝いの人
それに歌や演奏を披露する人たちとその関係者を時間差で呼ぶのだ。
去年の分散方式は、そりゃもうくたびれた。
ユリちゃんたちも初めての形だったし
我々も分散がどんなものかを知らずに臨んだので、現場は混乱した。
次から次へ食事、お茶、おやつを出し続け、準備と後片付けで台所は修羅場。
同級生の料理番、マミちゃん、モンちゃん、私の3人は
寺で地獄を見たものである。
座る暇すら無かった、あの悪夢はもうごめんだ。
今年はもっと計画的にするもんね…私は心に誓った。
が、祭りが近づくと計画どころの騒ぎじゃない。
寺はとっても不穏な空気よ。
祭りに向け、数回にわたって行われる実行委員会のミーティングに
ユリちゃんと兄嫁さんが参加できなかったため
彼女らは祭りの日時以外、何も知らないまま当日を迎えたからだ。
なぜミーティングに参加できなかったかというと
ユリちゃんの旦那モクネン君が、ミーティングの日時をわざと教えなかったから。
モクネン流のイケズである。
ユリちゃんの夫婦仲は年々順調に悪化しているが、とうとうここまで来たようだ。
そのためユリちゃんは旦那の仕打ちを嘆きつつ
手探りで祭りの準備をしなければならなかった。
およその人数や段取りなどの情報がゼロなので、我々の把握する事柄はほとんど無い。
ユリちゃんが小耳に挟んだところによれば
人数は不明だが、複数の大学生が手伝いに来るらしいという話だ。
他には先月のお寺料理の際、モクネン君が私に鶏の山賊焼きをリクエストしたことぐらい。
が、情報が少ないからと、ひるむ私ではない。
去年もやったし、さほど大きな寺でもなし、聞いて何になる。
大学生が来る=食う
山賊焼き=炭を使わせるからには少人数ではない
これで十分だ。
どの団体は食べずに帰ります…
どの団体は夜だけ召し上がってお帰りです…
この団体とあの団体は、夜と打ち上げの二食です…
それぞれの人数は何人…お出しする時間はいつ頃…
なんて、ユリちゃんからしょうもないことを聞いたところで何の参考にもならん。
料理がタダで食べられると聞けば、なぜか皆さんの予定は変わりなさって
たまげるほど人が増えるものよ。
特に、あの寺はそうだ。
たくさん用意すればいいことである。
私には秘策があった。
カレーじゃ。
去年、ユリちゃんの兄嫁さんが檀家と我々の昼食用にと
カレーをたくさん作ってくれていた。
檀家と我々だけなので尋常でない量が余ったが、あれはもったいなかった。
「これは身内用で、お客様に出す予定で作ってないから」
と謙遜だか、日頃からカレー反対派のユリちゃんを慮ってだか
兄嫁さんに釘を刺されたので、みすみす少人数にしか与えなかったのは
あまりにも残念だった。
カレーの大鍋を横目に、大量のオードブルやおむすびを作る虚しさよ。
今年はカレーを本線に、オードブルとおむすびをサイドメニューにして
昼食、夕食、打ち上げの三食をこなすんじゃ。
さすればカレーで腹を満たせるため
狂ったようにオードブルやおむすびを作らなくても3人で回せるはず。
これがうまく行けば、来年からカレーを定番にして、オードブルも同じ物にするつもり。
人数とメニューを考えなくていいとなれば、ずいぶんと気が楽だ。
食べ慣れたカレーでなく、人の作った珍しいおかずがあれこれ並ぶのを好むユリちゃんは
この案にわずかな難色を示したが
私は人数や段取りがわからないという理由をつけて押し切った。
で、今回のメニュー。
まずカレー。
マミちゃんが作りたがっていたが、分量がわからないと言うので
今年はとりあえず私が作った。

これ、直径50センチぐらいの鍋。
カレールーは、ハウスジャワカレーの業務用。
ジャワカレーの業務用大箱には、甘口辛口の区別が無いが
家でも使っていて、そこそこ辛いので採用。
ひと箱で40皿できると表示してあるやつをひと箱半、使った。
マミちゃんが、コロッケ作りで余ったと言って
味付け済みの合挽きとタマネギを持って来ていたので、それも全部つっこんだ。
カレーは大量に作ると野菜の甘みが容赦なく出て、どうしても甘くなる。
来年はもっと辛口のカレールーを使うか、カレー粉を足して調節しようと思った。
ご飯は、少なめに盛り付ける予定で2升炊いた。
自分で作ったため、味は家で食べるのと同じでちっとも面白くなかった。
カレーの盛り付けは白い円形の紙皿に、マミちゃんが例のごとく
可愛いホイルカップに入れた野菜サラダや福神漬けを飾って美しく仕上げてくれたが
写真を撮る暇が無くて残念だった。
オードブルのコロッケ、作成中。

コロッケはユリちゃんのこだわりが強いので、はずせないのだ。
子供の頃から、お祭りには買ったコロッケを出す習慣だったそう。
うちらが料理番になるまでは、彼女が肉屋さんに予約注文したコロッケが並んでいた。
そっちの方がよっぽど美味しかったが、うちらにやらせたら安くつく。
とはいえ今、ジャガイモが高い。
困ったね、と言っていたら直前になって、マミちゃんの店のお客さんがひと箱くれた。
マミちゃんの人徳か仏の慈悲か、それをコロッケとカレーに使うことができた。
コロッケはマミちゃんが家でタネを作り
モンちゃんがお寺で成形してマミちゃんが揚げた。
マミちゃんが独断でカレーコロッケにしていたので
「カレーライスに、カレーコロッケかよ」
と密かに思ったが、食べてみるとカレー味というよりエスニック調になっていて
オツな味わい。
どうやら中に入れられたコーンがカレー粉のカドを和らげ、国籍不明にしたらしい。
できあがったオードブル。


マミちゃんのコロッケとサラダ、私の海老パン…ほぼ去年と同じだ。
それからモクネン君のリクエスト、鶏の山賊焼き。
山賊焼きは炭火を起こし、台所の裏庭で焼いた。
兄嫁さんには、恒例のナスバンジャンを作ってもらった。
揚げたナスを、豆板醤入りの甘酸っぱいタレに漬けるものだ。
彼女のナスバンジャンは毎年大人気で、今年もこの味に魅せられた女子大生が
メモを片手にレシピを聞きに来た。
奥にある鯛は、鯛そうめんにするつもりで錦糸卵や椎茸煮と共に持って行った。
山賊焼きのついでに炭火で焼きはしたものの、表向きは時間が無くて…
本当はかったるくなって、マミちゃんとモンちゃんの土産にした。
《続く》