殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

組長・9

2010年05月31日 07時07分18秒 | 組長
組長シリーズは、任期終了と同時に終わるはずだった。

しかし、相変わらず組長もどきをやっているのはどうしたことか。


「組長さん…組長さん…」

先週は、一人暮らしのおばあちゃんがうちに来て

エアコンの室外機をいたずらされたと訴える。

組長はもう終わったと言っても、おばあちゃんを苦しめるだけなのだ。


さっそく現場検証。

配線をカバーしているホースみたいなのが切られて

中の線がむきだしになっていると言う。

確かにちょびっとむきだしになっているけど

これ、取り付けた時から、こんなだと思うよ…。


しかし、年寄りは言い出したらきかない。

水の出るホースまで「誰かが切って短くなってる」と言い出す。

ああ、そう、悪い人がいるねぇ…と合わせておく。


「それに夜、誰かが玄関のドアをガチャガチャ回すのよ」

おばあちゃんは、恐怖に怯えた顔でそう言う。

それ、ドアにぶら下げた飾りが、風に吹かれてるだけだと思うよ…。

老人会で作ったらしき、かわいげのないマスコット人形だ。

人形の手足の先に付いている金属製のオモリが

揺れるとドアに当たって、音を立てるのだ。


    「縁起が悪いから、ドアには何も下げないほうがいいよ」

と、適当なことを言ってはずさせる。

どう縁起が悪いのか、私にもわからん。

真面目に昭和を生きてきた老人は、勘違い=恥をかいたことになってしまう。

その思いは、若い頃のように日々のせわしさの彼方へ、なかなか消えない。

こっちも老人に近くなってきているので、なんとなくそう思う。

一応気を使ったつもりなのだ。


とにかく室外機の線が出ているのが気に入らないようなので

家からクッション付きのテープを持って来て

形だけ、ちょろっと巻いてやる。

私は機械に詳しくないので、本格的には取り組めない。

ほんのおしるし。

それでもおばあちゃん、すごく喜ぶ。


     「怖いことがあったら、夜中でもいいから、電話して。

      すぐ行くから。

      これを電話のそばに貼っておくのよ」

と電話番号を大きく書いて、渡しておく。


     「しばらくは夜、うちの旦那に見廻りさせるから」 

などと、かなりいい加減なことも言う。

嘘ではない。

ゴミを出したり、散歩したり、夫は毎晩1回はおばあちゃんちの前を通る。


翌日は、道ばたに花を植えようと約束していたおばちゃんが、誘いに来る。

こないだ、そんなことを企てた気もするが、すっかり冷めていた私よ。

しかたなく、一緒に種なんぞまく。


そこへ、若いお母さんが二人来る。

「Sさんが去年、街路樹をバンバン切ってたんです。

 幹を切ってるから、今年は花が咲かないの。

 子供が楽しみにしていたのに」


去年の秋だったか、Sじじいがまだ威勢の良かった頃、街路樹を刈る姿は見た。

脚立に登って、電動ノコギリなんぞ振り回していたっけ。

「ああして、自分をアピールしたいのよ」

「落ちろ」

「あんまり見てたら、注目されてると勘違いして喜ぶから、よそう」

我々はささやき合ったものだ。


今回改めてよく見ると、枝落としじゃなくて

どれも真ん中の太い幹をちょん切っている。

    「あれれ、いかにもって感じだったから

     庭師の経験でもあるのかと思ってたよ」

「あるもんですか!高い所に登りたいだけよ!」

「ほら、ナントカと煙は…って言うじゃない」

しばらく悪口で盛り上がる。


彼が自治会長の座を狙って暗躍していた頃

巻き舌から繰り出される意味不明の主張には

「子供達のために」のフレーズが、多く混入されていた。

それさえ言えば、格好がつくと思い込んでいるらしい。


その口で、夏休みのラジオ体操がうるさいとネチネチ言う。

一貫性が無いにもほどがある。

この一件で彼は、それまで無関心だった

子供会の若い親達まで敵に回したのだった。


共通の敵というのは、結束を深める。

この次に見たら止めようということになったが

バッサリいっちゃってるので、何年後になるやら。


その日の夕方、ごく初期にSじじいの一味だった男が

我々夫婦に近付いて来て、いきなり言った。

「土建屋アツシって、知っとるか?」


このあたりで“誰それを知っているか”と話しかけるのは

教養乏しき人間が行う、威嚇を含んだ挨拶の一種である。

こんにちは…いい天気ですね…と話しかければよいものを

出来ない人間というのは、案外多いのだ。


この類の生物は、口うるさそうな者の名前を出し、どちらがより近いかを探る。

その遠近によって、本格的な威嚇になったり、自分なりの友好手段になったりする。


この人は酒好きが高じて

一時期、Sじじいの白昼夢につきあって活動した過去から

いまだに周囲に避けられていた。

このまま残党として生きるか否か、進退を見極めたいのだと察する。


     「ああ、知ってますよ」

「俺はアツシの同級生で仲がいいんだ。

 あんたら、親戚か何かか?」

     「父ですけど、何か?」

呆然として、きびすを返すおじさんを見送り

我々はいつも通り、夕食を持って両親の家に向かう。


     「ねえねえ、お義父さん、Yさんって知ってる?

      同級生で、仲がいいって言ってたよ」

アツシの反応は鈍かった。

「さあ…知らん、覚えてない」

これはアツシの記憶力の問題ではない。

幼少期をこの町で過ごしていないため、同級生に対する印象が薄いのである。


この日曜日は、年に一度の総会があった。

今年は何を言い出すか、楽しみにしていたんだけど

人数もいないし、おとなしかった。

待っていたのに…とても残念だった。

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25 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
みりこんさんやさしい! (婆姫)
2010-05-31 08:48:44
やさしい・・・
なんと私にもそんな優しい人の時代もあったのです。
色々と対応していた。
なぜ 私?・・・
とは思っていた。

ある日私がやってくれないとか
勝手にしたとか言いまわるようになった

やばいとと思いさりげなく逃げた・・・
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婆姫さんは… (みりこん~婆姫さんへ)
2010-05-31 10:25:56
世話好きで優しい人だと思いますよ。

いろんなことを言う人は、甘えの裏返しですもんね。
さりげなく逃げるのは技術がいるし、正しい判断だと思います。

私にはたまたまヒマがあり、家族の人数があり
一緒に動ける近所の仲間がいるので、今出来ることを
やってますけど、仕事をしていたら難しかったと思いますね。
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可愛くない(笑) (営業1課 課長!)
2010-05-31 12:40:37
みりこんさんの持つ人形、かわいくない!

横目でにらむ人形、可愛くないよ~(爆)

どれだけ時間があるとしても、テープを巻いてあげるなんて出来ることではありません。

こんなみりこんさんの日常を知ると、夫の馬鹿な行動は妻の性格や人格にに関係無いのだと思います。

老人になると丸くなるというのは正しくないそうです。
脳の老化は前頭葉が縮む事だそうで、前頭葉は感情を司るので、縮むことにより感情のコントロールが出来なくなって、怒りっぽくなるのだそうです。
逆に、泣く、笑うという感情が薄くなるのも老前頭葉の萎縮の所為だそうです。

木をぶった切ったおじいさん、目立ちたいのも有るけど、意味不明の怒りの処理が出来ないのかもですね。


前頭葉が無くなってたりして(笑)




そういえば箸が転がってもってのは無くなったな・・・(汗)

箸頃がしてみようかな・・・

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お優しい… (たらこ)
2010-05-31 14:37:09
みりこん姉様 お優しいです。

お役目が終わっても 周りから頼られ 人が集まって来られるのは みりこん姉様のお人柄を表していると思います。私もそうなりたいと思いました。尊敬いたします♪

Sジィさん 老若男女を敵に回してしまってるんですね…。怒鳴ったりして強さを表現してるんでしょうが ザンネンさんなんですね。Sジィさんのようにならないよう気を付けようと思います。

話は変わりますが、あれから…義父母宅に電話をし お礼と子供たちと電話を代わり『お菓子ありがとう』と話をしました。
義母は泣いていたようです。息子は電話をしながら舌を出してました…。

返信する
こんにちわ (ナナ)
2010-05-31 14:46:52
うちの町内にも、みりこんさんみたいな人がいるといいな~♪実は私、世話好きで、すぐ首を突っ込みたくなります。野次馬で一番に外に出ます。誰にでもすぐ話しかけるし(笑)話し変わりますが、今日のY新聞の相談内容。旦那がテレビをずっと観てますだって!うちは一日中テレビ付けてて、逆にテレビ以外に何するの?ってくらい当たり前の事なので、驚きました。同棲してた時も、ずっとテレビ観てましたよ~みなさんは家で何をするんだろ?新聞に相談された方は、よほど悩みがないんだろうな~幸せな人だな~なんて思いました。今日はテニスとゴルフをしてきました。働きもせず、期間限定セレブです(笑)
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またまた! (かずかず)
2010-05-31 15:26:48
また近所の方に『ご奉仕』されたんですね!
いつもながら みりこんさんの懐の深さに 感心致します。
読みながら思ったのですが・・・
地域で求められているものは 『思いやり』『行動力』、 
そして・・・『口撃力』 なのかもしれません(笑)

3拍子揃った みりこんさんに ピッタリ合います

お年寄りには、 ご無理の無い程度に・・・
付き合ってあげてくださいねっ
返信する
相変わらずの組長さん (おかよ)
2010-05-31 19:28:37
いや~、相変わらずSお爺様元気そうでなにより・・・・

ってゆーか、その地域にはおもしろい人が結構いるのね

でもね、お年寄りに親切にするのは
いいことよ

いつか私達も行く道だからね~

返信する
人形(笑) (みりこん~営業一課 課長さんへ)
2010-05-31 21:01:58
だって、私だもん…かわいくないわよ~(笑)

妻の性格や人格…(汗)
関係あって、無い…って感じですかね。
若い頃の私は、こうではありませんでした。
人に何かしてあげたら見返りを期待し、評判や成果を気にし
何かしないといけないことがあったら
「何で私がやらなきゃならないの」と思ってましたね(笑)

それはおそらく、みんなだと思うんです。
でも、今確かに言えることは、そう思っていた時は
夫の浮気がつらかったですね。

Sじじいの脳の劣化、確かに言動と関係あると思います!
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いやいや(汗) (みりこん~たらこさんへ)
2010-05-31 21:10:23
楽しんでやってるだけですからね…
こういうことって、つい独りよがりになっちゃって
自分は良かれと思って突き進んでしまうことがありますから
気を付けたいとも思って、書き残しています。

お義母様、喜ばれたでしょうね。
よく電話してくれました。
息子さん、本当は嬉しいんですよ。
本当にイヤだったら、あれぐらいの子はテコでも動きません。
舌を出すのは、照れもあると思います。
素直でいいお子さんです。



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見た、見た(笑) (みりこん~ナナさんへ)
2010-05-31 21:16:22
旦那さんがテレビ見てるのが、何が気に入らないんでしょうね(笑)
自分の理想形にはめ込みたいんでしょうね。

幸せな人は幸せなりに、そんなことを新聞に相談するほどの
自分なりの立派な不幸を作るあげないと、気がすまないんだと思います。
こういう人の方が、本当は気の毒だと思います。

テニスにゴルフ、素敵じゃ~ん♪
期間限定セレブ(笑)
テニスもゴルフも、お金も元気な体ももちろんですけど
一緒にプレーしてくれる仲間も、ありがたい授かり物ですね♪
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