殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お稲荷ショック

2011年12月31日 19時56分51秒 | みりこんぐらし
               「干支(えと)キューピー」

かわゆいでしょ?

これ、瓶詰めのマヨネーズ。

この子達は、来年用の辰キューピーちゃん。





半年ほど前、友人が近くの町に、エステの店を出した。

彼女は小熊のぬいぐるみのような子で、愛称はこぐちゃんである。

つまるところ、細い部分が無いという意味。

10才年下の彼女は心優しい人柄で、私も好きだが

顧客も技術やサービスより、その人柄を慕って集まっている様子だ。


顧客の中で、開店以来ダントツのワーストワンは

無職のハイミス、Aさんだと言う。

こぐちゃんは最初、ちょっと変わり者のお客さんだとは思いつつ

Aさんの自慢話や、霊関係の不思議話を愛想良く聞いていた。


訪れるたび、Aさんの話は進化していった。

アドバイスと称して、店のインテリアや仕事の仕方

子供の育て方や旦那への接し方を厳しく批判し始め

果ては「あんたの子供は自閉症だ」と言われたそうである。


Aさんは、最初からこうだったのではないらしい。

こぐちゃんがいちいち感心したり驚いたりするため

どんどん勘違いしていったと思われる。

無防備な純粋は、こぐちゃんの大きな魅力であるが

極端に会話に飢えた者にとっては、毒となるのかもしれない。


「おととい来た時は“この店は東の結界が崩れているから、私が張ってあげる”

 と言って、何かうめきながら、東に手をかざすの。

 それでね“私をこの店のアドバイザーにしたら、すべての因縁から救われる”

 とか言い出して“謝礼は月10万でいい、来たお客さんの人生相談に

 1回5千円で乗ってあげる”ってマジで言うのよ」

当惑したこぐちゃんは、昨日、私に連絡してきた。

そして今朝、私はこぐちゃんの店に行ったのだった。


ここまで聞いて、すでに大喜びの私。

「笑い事じゃないわよ…本当に参ってるんだから」

こぐちゃんは、口をとがらせる。

「“そんな余裕は無いです”と言ったら、目ぇつり上げて

 “よくもこの私に向かってそんなことが言えたもんだ”って、怒るのなんのって。

 “あなたを救ってあげようとする私の真心が、わからないのか”って」

漫才より、よっぽど面白い。


「簡単にあきらめそうにないし、遠隔操作で人の魂を

 自由にできるようになったと言って、私にも手をかざすの。

 信じてはないけど、本当に操つられたら恐いし…」

こぐちゃんは、目に涙まで溜めている。

人に遠隔操作するより、一番近所にあるおのれの腐った魂を

どうにかすれば良いものを。


「みりこんさん、どうしたらいい?」

    「私に聞かれても…」

「会ってもらえない?」

    「嫌だよ、気色の悪い。

     会ってどうすんのよ。

     あんた変だから、もう来るなって言えばいいの?」

「それだと逆襲が恐い」

    「じゃあ、商売と割り切るのね」

「それも無理…」

この根性無しが!と言いたいところだけど

二人きりの所でツラツラと気味の悪いことを言われ続けたら

確かに恐いかもよ。


    「その人、キツネか何か憑いてるんじゃないの?

     近くにさ~、ほったらかしのお稲荷さんでもあって

     呼ばれてるんじゃない?」

…まったくのあてずっぽう発言だった。

顧客を切るかどうかは、経営者のこぐちゃんが決めることで

人に相談することではない。

面倒くさがりの私の思惑としては、これで茶化して終わる手はずになっていた。


しかしこぐちゃんの顔は、サッと蒼白になった。

無言で立ち上がり、店の奥へ向かう。

ガタコトと、天井まで積み上げた荷物を動かすと、ドアが現われた。


ドアの先には、厨房がある。

厨房スペースは大家の物置になっており

こぐちゃんは、この部屋を除いた店舗だけを借りていたのだった。


そこにあるではないか…お稲荷さんが。

見事にひからびた榊(さかき)をオブジェに

ホコリをかぶったお稲荷さんが祀られている。

こぐちゃんは震える手でそれを指さし、ぽろぽろと涙をこぼした。


これは困ったことになった…と思い、私は深く反省した。

    「い…今のはね、冗談だったのよ。

     ここは大家さんのテリトリーだから、ね、あんたには関係無いのよ。

     ささ、ドアを閉めて…はい、荷物を積みましょうね~」


急いでドアをふさぐ私に、こぐちゃんは言った。

「みりこんさんっ!

 私、あの人にもらった物、全部捨てる!」

結界女が描いて、店に飾るように強要された、へたくそな水彩画…

霊気を注入したというクッションやぬいぐるみ…

魔除けと称した手作りのおまもり…その他ガラクタが色々。

どれも粗末に扱えばタタると言われ、しぶしぶ店に置いた物である。


    「あれはどうしたと聞かれたら、どうするつもり?」
    
「雰囲気が合わないから飾れないって、はっきり言う。

 自分の店だもんね…自分で守らなきゃいけない気になってきた」

    「おお、頼もしいじゃん。

     もしかして、お稲荷ショック?」

「うん、お稲荷ショック、大きい」

    「頑張れ」

「うん、頑張る」


私はそれらのガラクタを引き受けて、持ち帰った。

泣かせた責任を感じて、これくらいはしてやろうと思ったのだ。

こぐちゃんは、とても喜んだ。


家に帰り、これから会社にお鏡餅を持って行くと言う夫に

何の説明も無く押しつける。

「なんじゃ、これ…なんか、邪悪なものを感じる」

なかなかの感性ではないか。

人間の女の邪悪は感じないのに、こういうのはわかるらしい。


こうして私の今年は終了した。

楽しい1年であった。




本年もお世話になりました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

皆様に幸せな一年が訪れますように。

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28 コメント

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真心 (シーバスと踊る男)
2011-12-31 20:22:01
あ痛~昨日年末のあいさつしたのに~^^

でも最後の最後まで笑かしてもらいました

”真心”

の安売りはいかんでしょう^^

わたしもけっこう使うフレーズなんで痛いとこ突くな~って思いました^^

しかし姉さんの周囲の登場人物はおもろいですね~^^
というか姉さんの観察眼というか芸人魂が普通の人なら感じない部分をネタに昇華するんですよね^^
ほんとに2011年も笑かせていただきました

ありがとうございました^^
2012年もみりこん姉さんの益々の飛躍をお祈りいたします^^

返信する
>真心の安売り(爆) (みりこん~シーバスと踊る男さんへ)
2011-12-31 22:17:36
真心の安売りや乱用は、いけませんね。
シーバスさんは用法用量を守って、正しくお使いだと
わかっておりますよ。

いつも周りのおもろい人や事柄を抜粋して書いてるんですけど
そこに私のつたない観察眼や芸人魂が、もしも
作用しているとしたら、とても嬉しいです。
ありがとうございます。

私もシーバスさんのコメントに、さんざん笑わせてもらいましたよ。
ありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。
返信する
ありがと~♪ (おかよ)
2012-01-01 10:21:44
ハイ。今年も素晴らしい一年でした。数々の名文に笑わせ考えさせられました。ありがとうございました!で、何かを感じとりながらも、パパさんはガラクタ?を受け取ってくださったのね。素晴らしい!!本年もどうぞよろしくお願いします~(^◇^)/
返信する
あけましておめでとうございます。 (みりこん~おかよさんへ)
2012-01-01 10:55:49
こちらこそ、旧年中はありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い致します。

>何かを感じとりながらも(爆)
そうよ…ガラクタは引き取ってくれました(笑)
会社の倉庫で分別され、ゴミになってると思います。
返信する
明けまして… (サキマ)
2012-01-01 12:58:47
おめでとうございます。
昨年は(も)本当に本当にお世話になり、有り難うございました(涙)
みりこんさんなしでは、進めない一年でした。
実際にはお会い出来ませんが、こんなにも心に染み渡る言葉をかけてくださり、感謝しても感謝しきれません。
曾祖母と義母、そして車椅子を積んで初詣に向かう車中で、今こうして打っています。
昨日は、主人と娘と一緒に義父を見舞いました。
体をさすってあげながら、涙が込み上げてきました。『お義父さん、ごめんなさい』と心中で謝りました。
いつか、みりこんさんが教えてくださいましたね…
>厄を受けてくれている

正直、はじめはこの言葉が受け入れられませんでした。 私達は義父のせいで、こんなにも辛い状況にいる…と憎んでいました。

でも、昨日は本当にそう思えました。
お義父さんなりの形で、あんなにも辛いことを受け入れる形で、私達に愛情を与えてくれていたんだと思えました。
同時に、父親がわりを背負う主人に対して、詫びているような…そんな声が聞こえてきました。『すまんな…』という声が…。


全ては、私の未熟さ故の拒絶、我が儘が世界を見えなくしていたんですね…。

そんな自分が哀れで可哀想で…でも、こうして生きていられるのは、沢山の支えがあったのですね。
見えてなかっただけなんですね。自分で自分をおとしめていたんですね…。

階段を一段ずつ、確実に上がってきたんですね、私…。途中、見たくない景色もありました。でも、そこを通らずして、この道はなかったんですね…

みりこんさん、本当に有り難うございます。
有り難うございます。
嬉しくて、泣けてきます。
有り難うございます
返信する
おけましておめでとうございます (にしき)
2012-01-01 15:01:04
初笑いさせて頂きました。
私にもこぐちゃんの様な友達がいます。
愛嬌があって人懐っこいの。
しかし騙され易いところが残念な人なんです。
なんて言うんでしょう。
・・・・・・無防備?
決して馬鹿じゃないんです。
高校時代からの旧友なので成績が良かったのも知っています。
結構好き嫌いもハッキリしてるんです。
なのに、騙される。
あ、そうだ、一途って言うのかな~
視野が狭いのかも知れないですわ。
こぐちゃんもそうなんでしょうか。
今年もどうぞよろしくお願いします。
返信する
明けましておめでとうございます! (たらこ)
2012-01-01 16:29:38
昨年も お世話になりました。
また 今年もお世話になります!どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

昨年 12月はバタバタと過ごしました!職場の一番忙しい時期を初体験しました。
夫の実家の新築祝いが行われ、子供たちがお呼ばれしてきました。
クリスマスに夫が前もって知らせず訪問したのには驚きました!子供たちへのお菓子を持って…

何も問題がない家庭なんてない!
と 最近思うようになりました。
みんな言わないだけで、何かしら不満に思う事 あると思うのです…。
不満を不満に思う事が、自分自身を苦しめる…。
不満に思いそうな時は 自分だけの事しか考えてない合図だと思って、違う方向から眺めてみたりするようになりました…。

今の私があるのは、姐さまのブログのおかげです。お返事を書いて下さる事や皆さんとのやり取りの中で 気付かせて頂きました。
ありがとうございますm(_ _)m

姐さま、お身体に気をつけて これからも執筆
よろしくお願いします(^_^)
返信する
明けまして (営業1課 課長!)
2012-01-01 18:06:41
おめでとうございます。


何だかんだとぐちぐち愚痴をこぼしたり
おせっかいにのーがきたれたり
少しは歩んだかと思えば、又すぐに後戻り
そんな私に、親切にお付き合いいただいて
心から感謝しています。

最近はすこーし成長しました(本当か?)
みりこんさんと他の方とのやり取り中から
沢山頂いております

いつまでも暇つぶしさせて頂きたいと思っていますので
みりこんさんのご健康をお祈りして
今年も宜しくお願い申し上げます。
返信する
あけましておめでとうございます。 (みりこん~サキマさんへ)
2012-01-01 21:44:08
旧年中はお世話になりました。
今年もよろしくお願い致します。
家族で初詣、良かったですね。

お舅さんに、自然に触ってあげられたのね。
えらいわ!
気づきにもタイミングがあります。
その時はわからなくても、後で必要になった時に
ひょっこりとわかるものです。
お舅さんの声は、それで合っていると思います。
こちらが耳をすませられる心境になった時に
聞こえたり、感じることが出来ます。

そうですよ…一段ずつ、一生懸命登って来たのです。
同じ風景であっても、上の階に上ると、また景色が違って見えます。
ひとたびコツがつかめれば、旅がぐんと楽になります。
ここまで大変だったけど、よく頑張りましたね。
私も嬉しいです。
穏やかな気持ちで過ごすお正月、また多くのものが
見えて来ることでしょう。

でも、つらい時は無理をしないのよ。
体調や気候の周期もありますからね。
こちらこそ、ありがとうございます。
返信する
あけましておめでとうございます。 (みりこん~にしきさんへ)
2012-01-01 22:05:11
そそ、愛嬌があって、人懐こい(笑)
バカでもない。
掛け値無しに、可愛がられて育ってるの。

これといった逆境が無い分、つけこまれたり、騙されたり
利用されたりは多い。
そしてそんな時、ちゃんと泣けるのよね。
さらに人間がいいから、必ず誰かが助けてくれる。
だから泣くだけで終われる。
学習しないから、また騙される。
そりゃもう、気持ちのいいくらいシステムが出来上がってんのよ。

今年もよろしくお願いします。
返信する

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