上の続きです。
12月14日、「アナスタシア」大劇場千秋楽のライブ配信を見てから、頭の中で「Once upon a december」と「The Neva Flows」が鳴り響いて、なにも手につきません。
なんとしてでも東宝公演に行きたい! と思うのですけれども。
360 Video: On-Stage at Broadway’s “Anastasia”
ほんとに、楽曲がいいんです。映画になったら見に行きます! たとえ、キキちゃんがでていなくても(笑) いや、映画のグレブは、ぜひ、ラミン・カリムルーでお願いしたいです。
上において、「アナスタシア」は、2017年、ブロードウェイでアニメをもとにミュージカル化されたこと、そのアニメは、1956年の映画「追想」に着想を得ていたことは、書きました。
アニメと映画は見ていたのですが、ミュージカルは未見でしたから、いったいどの程度、史実離れしたファンタジーなのかは、知りませんでした。
今回、宝塚版を見て、さすがに、アニメよりはかなり、史実に近づけていたことがわかりました。
上に書きましたが、ニコライ2世とその一家が惨殺されましたのは、ウラル地方のエカテリンブルグ、イパチェフ館の地下室です。
星風アーニャは、ウラル地方の病院で気づいたときには、記憶を失っていて、徒歩でペテルスブルク(レニングラード)へたどり着いたと言い、途中の地名で、ペルミを挙げていました。ペルミはエカテリンブルグからペテルスブルクへ向かう途上にあります。
しかもアーニャは、出国許可証を得るために、「下着に縫い付けられていたダイアモンド」を取り出します。
実は、公女たちが即死しないで苦しんだのは、下着に多量のダイアモンドが縫い込まれていたため、といわれているんです。
そして、末娘のアナスタシア生存説が流れた原因の一つには、一家を殺害した警護兵の中に、一家に同情的で、殺害に加わらなかったものがいく名かいて、逃亡に手を貸したのではないか、と推測されたことがあります。
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チェーカー(秘密警察)の将校らしいキキちゃんグレブの「The Neva Flows」は、以下のようなことを歌います。
グレブの父親が皇帝一家の銃殺隊に加わっていたこと、少年だったグレブは、イパチェフ館にいた「誇らしげな少女」(アナスタシア)を見たこと、父親が夜中にピストルを持って出ていき、一家が殺された銃声と叫び声を聞いたこと、しかしグレブの記憶に深く刻まれたのは、その後の静寂であったこと。
この歌より後に、上官の言葉で、グレブの父親が、どうやらアナスタシアを殺せず、逃がしたらしいことがわかるのですが、とすれば、「母は父が恥じて死んだと言った」とは、グレブの父は、アナスタシアに同情して逃がし、それを恥じたまま殺されたか自殺したか、だったと推測できます。
上に書いておりますが、ロシア革命は、第1次世界大戦の最中に起こっています。
交戦相手のドイツは、ロシアの混乱を見て、スイスにいたレーニン(ボルシェヴィキの指導者)のロシア帰国を認め、資金援助をしたと噂されます。
すでにニコライ二世は退位に追い込まれていましたが、革命勢力は多種多様で、大方は、連合国側に立ったままで、ドイツ・オーストリアとの交戦を続けるしかない、としていまして、最初に権力を握ったケレンスキーは、劣勢の対ドイツ、オーストリア戦線で攻勢をかけます。しかし、厭戦気分が蔓延しての革命なのですから、攻勢がうまくいこうはずもないんです。
そんな中、唯一、奮戦しましたのが、チェコスロバキア狙撃旅団でした。
チェコスロバキアは、そのころ、オーストリア・ハプスブルグ帝国の一部でしたけれども、独立気分が高まっていまして、オーストリアの一員として戦うことに、乗り気ではない者が多数いました。
徴兵で駆り出され、ロシア側の捕虜になった者のうち、ロシアの義勇軍募集に応じた人々も多かったのですが、敵国側で戦った場合、自国側に捕まれば、ただちに銃殺なんです。死に物狂いになりもします。
ところが、レーニン・ボルシェビキが政権を掌握しますと、ドイツ・オーストリアとの単独講和に踏み切るんですね。
しかしこの講和が、ロシアにとっては譲歩の上にも譲歩を重ね、現在のバルト三国、ベラルーシ、ウクライナにまたがります広大な領土をドイツに割譲するものだったので、ボルシェビキ政権は急速に求心力を失います。
で、連合国側は、チェコ軍団の無事出国をロシアに求め、ドイツ・オーストリアを通過させることはできませんから、結局、シベリア鉄道で極東ウラジオストクへ出て、太平洋を渡ってアメリカを経由し、大西洋を越えフランスへ行き、西部戦線に参加する、という、遠大な計画が立てられます。
ところが一方、ロシアは、ドイツ・オーストリアの捕虜を、早急に本国に帰さなければいけません。この多量の捕虜たちが、シベリア鉄道を東から西へ移送されていて、チェコ軍団とぶつかり、小競り合いを起こしたりしたんですね。
ただでさえ、シベリア鉄道は麻痺状態でして、足止めされたチェコ軍団はいらいら状態、だったんですが、軍事人民委員で最高軍事会議議長のレフ・トロツキーは、チェコ軍団輸送にかかわります鉄道沿線のすべてのソヴィエト(ボルシェヴィキが掌握)に、なにを血迷ったのか、「チェコ軍団を武装解除し、逆らえばその場で銃殺しろ」というとんでもない命令を発したんです。
しかし、このときのソヴィエト政権にそんな力はなく、反対に各地のソヴィエト政権が、チェコ軍団に倒されました。
ここで、反ボルシェヴィキだった人々が勢いづきます。反ボルシェヴィキといっても、様々な勢力の混合体で、結束力は弱かったのですが、一応彼らは、白軍と呼ばれました。
ニコライ二世一家が、監禁されておりましたエカテリンブルクにおいて、1918年7月16日、ボルシェビキのチェーカー(秘密警察)指揮で惨殺されましたことも、チェコ軍団の蜂起と関係があります。
なにしろ、ごく近くのチェリャビンスクで、チェコ軍団によってソビエトが倒され、白軍が勢いを得ていましたので、元皇帝一家が白軍に奪われ、反ボルシェビキ運動にさらなる拍車がかかることを、ボルシェビキは、怖れずにいられなかったわけなのです。
そして実際、エカテリンブルクはまもなく、白軍の支配下に入るんですね。
ボルシェビキは、「ニコライ二世は処刑したが、家族は他の場所へ移した」と公表してまして、当然のことながら、イパチェフ館には白軍の調査が入り、聞き取りも行われました。しかし結局、確かなことはなにもわからずじまいで、アナスタシア生存説が、長らくささやかれることとなります。
で、再び「The Neva Flows」。
「父の誇りを信じている」という言葉なんですが、英語では「But I believe he did a proud and vital task」なんですね。「父は誇りにかけて使命を果たした」ということでしょうけれども、ボルシェビキの将官になっているらしいグレブにとって、それはやはり、「父はアナスタシアに同情して逃がしたりはしていない」ということなのでしょうか。
しかし、ひと目見て忘れられなかった「誇り高い少女」、「噂話」と「夢」には気をつけなければならない、というわけですから、どこかに、虐殺に加担しなかった父を肯定したい思いも、抱いている感じがあります。
♪流れるネヴァ川 春は近い 王族は潰えた
革命に感情はいらない(A revolution is a simple thing)♪
ネヴァ川は流れ、春が巡り来て 王族は消えた。
革命とは、そういった単純なもので、よけいな感傷はいらない
と、あるいはグレブは、自分に言い聞かせているのでしょうか。
そしてつまり、ですね。
グレブはペテルスブルクで掃除婦をしていたアーニャに一目惚れしたようなのですが、これね、ひと目見て「あの誇り高かったアナスタシアに似ている!」と、心引かれた、ってことなんじゃないでしょうか。
真風ディミトリは、子供のころパレードでアナスタシアを見て憧れていましたが、父親がアナーキストで収容所で殺され、孤児になって、激動のロシアで詐欺師になって生きぬき、アーニャに出会います。
なにしろ、宝塚版はまだ円盤が出ていませんで、仕方なく、ブロードウェイ版をYouTubeでひろい見しているのですが、ほんとうに、くりかえしてメロディが使われる「Once upon a december」は名曲です!
Anastasia Broadway Musical Mean to be Quartet at the Ballet
アーニャとディミトリ、皇太后、グレブがそれぞれに「白鳥の湖」の舞台を見ている上の場面がまた、見事です。
オデットの踊りにアーニャの歌声、王子ジークフリートにディミトリ、三羽の白鳥に皇太后、ロットバルトにグレブの声がかぶさり、ディミトリとグレブの2重唱から、アーニャ、皇太后を交えた四重唱へ。圧巻です。
オデットは潤花ちゃん、ジークフリートは亜音有星、ロットバルトが優希しおん。踊り手は若手ですが、評判通り、ロットバルトが素敵でした。
海外ミュージカルらしく、独唱の人数が少ないのは残念で、天彩峰里ちゃん、独りの歌が聴けなかったのはさみしいかぎりでした。
リリー役の和希そらくんは、フィナーレまで娘役で、キキちゃんとのデュエダンは最高でした。なんなら、キキちゃんトップのときのトップ娘役は、そらくんで(笑)
ずんちゃん(桜木みなと)は珍しく老け役でしたが、肩の力が抜けて、楽しそうでした。
そしてアーニャは、まどかちゃんにぴったりの役でした。
アニメ声もあまり気にならず、真風ディミトリとの並びも、とてもよくって、これが最後かと思うと、やはり残念な気がします。
真風さんは明るくはじけ、キキちゃんは重厚で、しかしキキちゃん、フィナーレでは打って変わって美しい笑顔を見せてくれましたので、もう最高!
The Neva Flows reprise (RUS SUB)
泣ける場面です。
最後にグレブは、「アナスタシアは伝説になった」みたいなことを言っていたように思うのですが、ソビエト連邦が潰えて、ロマノフの美しい伝説を、ロシアは取り戻したんですよね。
最後のキキちゃんグレブは、ロシアの心を歌っているように思えました。
どうしたらいいんでしょう!
どうしても東京へ行って「アナスタシア」を見たい! という思いがつのってやみません。
見たい!!!