郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

宝塚キキ沼に落ちて vol15

2020年12月31日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol14 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 先日たまたま、e+のアプリを見ていましたら、2月16日「アナスタシア」東京貸し切り公演の申し込みがあったものですから、「当たって行けなかったときは、中村さまにもらっていただくとか、なんとかなるはず」と張り切って申し込みましたが、見事にはずれました。
 結局、行けない可能性の方が高いので、友の会も、一般の申し込みもやめました。
 「アナスタシア」、見たくてたまらないのですが、世の中、どうしようもないこともありますよねえ。

 今にして思えば、母が元気なうちに、玉三郎の歌舞伎とGACKTの眠狂四郎、母の望み通りに連れて行ってあげてよかった、とつくづく。生きているうちに、見たいものを見ておきたいものです。
 「エリザベート」も、死ぬまでに、どうしても一度見たいのですが、トートのイメージと歌唱力が、あんまりな舞台を見たいとは思いません。望海さんのトートは、夢で終わりました。あと見たいのは、キキちゃんのトートです。

 浅田真央(mao asada) ミュージカル 「エリザベート」 Elisabeth ~ I belong to Me 【MAD】

 「エリザベート」は英語では上演されてないと聞いたように思うのですが、「私だけに」は「I  belong to Me」という題で、英訳されていたみたいでして、今年の全日本フィギュアスケート選手権、使っている女子選手が複数いました。「オペラ座の怪人」からは、これまで、ずいぶん曲が使われてきましたので、エリザベートももっと使われると、一般の認知度が上がりそうな気がします。
 ただし、上の真央ちゃんの動画は、あるいは、もしかして、音楽を上からかぶせたもののように思います。

 「アナスタシア」は、エフゲニア・メドベージェワの「Once Upon A December 」があったんですが、これも後に音楽だけかぶせたものでしょうか。この青い衣装の当時、この曲ですべっていた覚えがないんです。雰囲気、ぴったりですけど。

Evgenia Medvedeva / Евгения Медведева - Once Upon A December

 どこで出た話か知りませんけれど、花組の「はいからさんが通る」を「ベルばら」に代わる宝塚の定番にできたら、というような話があるようなのですが、私はちょっと首をかしげてしまいます。
 そりゃあ、海外ミュージカルは版権だか上映権だかにお金がかかりますし、劇団としては、「ベルばら」に代わるものが欲しい気持ちはわかるのですが、「はいからさんが通る」ねえ。

 「はいからさん」は、原作が「ベルばら」とあまりちがわない時代のものですし、個人的には、あんまり見る気がしません。シベリア出兵を調べたときに、古いドラマやらアニメやらも見てみまして、さっぱり感心しませんでしたし。
 せめて「ベルばら」のように、「愛あればこそ」とか「青きドナウの岸辺」とか、歌い継がれる名曲があればまだしも、ですが、いい楽曲ができた、という話も聞きません。

 ただ、ですね。「日本が舞台のもの」というのは、あっている気がするんですよね。
 宝塚作品の人気で、現在ベストスリーに入るものが、ウエクミ先生の大劇場デビュー作、雪組の「星逢一夜」です。

雪組公演制作発表会『星逢一夜(ほしあいひとよ)』パフォーマンス

 いえ、宙組の天彩峰里ちゃんがカフェブレイクで、宝塚で好きな作品は?と聞かれ、「星逢一夜」です、と答えていたのが、とても印象的でした。
 私は、見てません。望海さんが二番手で出ておられるのですが、百姓一揆の話みたいで、個人的には、円盤買ってまで見たいかといいますと、ちょっと、という感じなんです。

  しかし、今年のトレンドが「鬼滅の刃」ですし、いまやはり、日本の少し昔、明治・大正あたりの話がいいのでは、とは思うんです。
 バックが動乱、というなら、やはり幕末維新でしょうか。
 鹿鳴館に維新をからめるとか、でしたら、来年の大河は渋沢栄一みたいですから、登場人物の知名度もあがりますでしょうか。

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広瀬常と森有礼 美女ありき2 - 郎女迷々日録 幕末東西

広瀬常と森有礼美女ありき1の続きです。森有礼は、奇矯な人です。えー、私が勝手に言ってるんじゃありません。徳富蘇峰が言っているんです。「若き森...

広瀬常と森有礼 美女ありき2 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 森有禮を、基本的にはモデルにして、お相手はやはり幕臣の広瀬常がモデル、二番手さんは女に手が早いイギリス紳士・アルジャーノン・バートラム・ミッドフォートをもってくるか、あるいは鮫島尚信。

 「はいからさん」ではないですけども、満州を舞台に、白系ロシア人の少女と日本の軍人の話もおもしろいかなあ、と思うんですけれども、とても筋立てがむつかしそうです。

 なにはともあれ、楽曲がよくなくては、だめです。
 「ベルばら」が定番化したのは、さまざまな工夫があったから、でしょうけれども、やはり楽曲がよかったのが一番ではないか、と思います。

 当分、生観劇は無理ですし、暗いことは考えないで、あれこれ、キキちゃんに演じてもらいたくなるような筋立てでも夢想して、新年を迎えようかと思います。夜のひとときは、紅白でBABYMETALですけれど。

 みなさま、どうぞ、良いお年をお迎えくださいませ。 

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宝塚キキ沼に落ちて vol14

2020年12月16日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol13 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 12月14日、「アナスタシア」大劇場千秋楽のライブ配信を見てから、頭の中で「Once upon a december」と「The Neva Flows」が鳴り響いて、なにも手につきません。
 なんとしてでも東宝公演に行きたい! と思うのですけれども。

360 Video: On-Stage at Broadway’s “Anastasia”

 ほんとに、楽曲がいいんです。映画になったら見に行きます! たとえ、キキちゃんがでていなくても(笑) いや、映画のグレブは、ぜひ、ラミン・カリムルーでお願いしたいです。

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宝塚キキ沼に落ちて vol9 - 郎女迷々日録 幕末東西

宝塚キキ沼に落ちてvol8-郎女迷々日録幕末東西上の続きです。【宝塚歌劇】宙組「アナスタシア」歌唱フル動画【三井住友カード公式】キキちゃんは...

宝塚キキ沼に落ちて vol9 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上において、「アナスタシア」は、2017年、ブロードウェイでアニメをもとにミュージカル化されたこと、そのアニメは、1956年の映画「追想」に着想を得ていたことは、書きました。
 アニメと映画は見ていたのですが、ミュージカルは未見でしたから、いったいどの程度、史実離れしたファンタジーなのかは、知りませんでした。

 今回、宝塚版を見て、さすがに、アニメよりはかなり、史実に近づけていたことがわかりました。

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宝塚キキ沼に落ちて vol8 - 郎女迷々日録 幕末東西

宝塚キキ沼に落ちてvol7-郎女迷々日録幕末東西上の続きです。いったいいつ、どうして、私はキキ沼に落ちたのか、実のところ、はっきり覚えてはな...

宝塚キキ沼に落ちて vol8 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上に書きましたが、ニコライ2世とその一家が惨殺されましたのは、ウラル地方のエカテリンブルグ、イパチェフ館の地下室です。
 星風アーニャは、ウラル地方の病院で気づいたときには、記憶を失っていて、徒歩でペテルスブルク(レニングラード)へたどり着いたと言い、途中の地名で、ペルミを挙げていました。ペルミはエカテリンブルグからペテルスブルクへ向かう途上にあります。
 しかもアーニャは、出国許可証を得るために、「下着に縫い付けられていたダイアモンド」を取り出します。
 実は、公女たちが即死しないで苦しんだのは、下着に多量のダイアモンドが縫い込まれていたため、といわれているんです。

 そして、末娘のアナスタシア生存説が流れた原因の一つには、一家を殺害した警護兵の中に、一家に同情的で、殺害に加わらなかったものがいく名かいて、逃亡に手を貸したのではないか、と推測されたことがあります。

【宝塚歌劇】宙組「アナスタシア」歌唱フル動画【三井住友カード公式】

 チェーカー(秘密警察)の将校らしいキキちゃんグレブの「The Neva Flows」は、以下のようなことを歌います。
 グレブの父親が皇帝一家の銃殺隊に加わっていたこと、少年だったグレブは、イパチェフ館にいた「誇らしげな少女」(アナスタシア)を見たこと、父親が夜中にピストルを持って出ていき、一家が殺された銃声と叫び声を聞いたこと、しかしグレブの記憶に深く刻まれたのは、その後の静寂であったこと。

 この歌より後に、上官の言葉で、グレブの父親が、どうやらアナスタシアを殺せず、逃がしたらしいことがわかるのですが、とすれば、「母は父が恥じて死んだと言った」とは、グレブの父は、アナスタシアに同情して逃がし、それを恥じたまま殺されたか自殺したか、だったと推測できます。

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尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.6 - 郎女迷々日録 幕末東西

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.5の続きです。日本におきまして、ロシア革命の本はけっこう多いのですけれども、ロシア内戦の...

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.6 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上に書いておりますが、ロシア革命は、第1次世界大戦の最中に起こっています。
 交戦相手のドイツは、ロシアの混乱を見て、スイスにいたレーニン(ボルシェヴィキの指導者)のロシア帰国を認め、資金援助をしたと噂されます。

 すでにニコライ二世は退位に追い込まれていましたが、革命勢力は多種多様で、大方は、連合国側に立ったままで、ドイツ・オーストリアとの交戦を続けるしかない、としていまして、最初に権力を握ったケレンスキーは、劣勢の対ドイツ、オーストリア戦線で攻勢をかけます。しかし、厭戦気分が蔓延しての革命なのですから、攻勢がうまくいこうはずもないんです。

 そんな中、唯一、奮戦しましたのが、チェコスロバキア狙撃旅団でした。
 チェコスロバキアは、そのころ、オーストリア・ハプスブルグ帝国の一部でしたけれども、独立気分が高まっていまして、オーストリアの一員として戦うことに、乗り気ではない者が多数いました。
 徴兵で駆り出され、ロシア側の捕虜になった者のうち、ロシアの義勇軍募集に応じた人々も多かったのですが、敵国側で戦った場合、自国側に捕まれば、ただちに銃殺なんです。死に物狂いになりもします。

 ところが、レーニン・ボルシェビキが政権を掌握しますと、ドイツ・オーストリアとの単独講和に踏み切るんですね。
 しかしこの講和が、ロシアにとっては譲歩の上にも譲歩を重ね、現在のバルト三国、ベラルーシ、ウクライナにまたがります広大な領土をドイツに割譲するものだったので、ボルシェビキ政権は急速に求心力を失います。

 で、連合国側は、チェコ軍団の無事出国をロシアに求め、ドイツ・オーストリアを通過させることはできませんから、結局、シベリア鉄道で極東ウラジオストクへ出て、太平洋を渡ってアメリカを経由し、大西洋を越えフランスへ行き、西部戦線に参加する、という、遠大な計画が立てられます。

 ところが一方、ロシアは、ドイツ・オーストリアの捕虜を、早急に本国に帰さなければいけません。この多量の捕虜たちが、シベリア鉄道を東から西へ移送されていて、チェコ軍団とぶつかり、小競り合いを起こしたりしたんですね。
 ただでさえ、シベリア鉄道は麻痺状態でして、足止めされたチェコ軍団はいらいら状態、だったんですが、軍事人民委員で最高軍事会議議長のレフ・トロツキーは、チェコ軍団輸送にかかわります鉄道沿線のすべてのソヴィエト(ボルシェヴィキが掌握)に、なにを血迷ったのか、「チェコ軍団を武装解除し、逆らえばその場で銃殺しろ」というとんでもない命令を発したんです。
 しかし、このときのソヴィエト政権にそんな力はなく、反対に各地のソヴィエト政権が、チェコ軍団に倒されました。
 ここで、反ボルシェヴィキだった人々が勢いづきます。反ボルシェヴィキといっても、様々な勢力の混合体で、結束力は弱かったのですが、一応彼らは、白軍と呼ばれました。

 ニコライ二世一家が、監禁されておりましたエカテリンブルクにおいて、1918年7月16日、ボルシェビキのチェーカー(秘密警察)指揮で惨殺されましたことも、チェコ軍団の蜂起と関係があります。
 なにしろ、ごく近くのチェリャビンスクで、チェコ軍団によってソビエトが倒され、白軍が勢いを得ていましたので、元皇帝一家が白軍に奪われ、反ボルシェビキ運動にさらなる拍車がかかることを、ボルシェビキは、怖れずにいられなかったわけなのです。

 そして実際、エカテリンブルクはまもなく、白軍の支配下に入るんですね。
 ボルシェビキは、「ニコライ二世は処刑したが、家族は他の場所へ移した」と公表してまして、当然のことながら、イパチェフ館には白軍の調査が入り、聞き取りも行われました。しかし結局、確かなことはなにもわからずじまいで、アナスタシア生存説が、長らくささやかれることとなります。

  で、再び「The Neva Flows」。
 「父の誇りを信じている」という言葉なんですが、英語では「But I believe he did a proud and vital task」なんですね。「父は誇りにかけて使命を果たした」ということでしょうけれども、ボルシェビキの将官になっているらしいグレブにとって、それはやはり、「父はアナスタシアに同情して逃がしたりはしていない」ということなのでしょうか。
 しかし、ひと目見て忘れられなかった「誇り高い少女」、「噂話」と「夢」には気をつけなければならない、というわけですから、どこかに、虐殺に加担しなかった父を肯定したい思いも、抱いている感じがあります。

 ♪流れるネヴァ川 春は近い 王族は潰えた
    革命に感情はいらない(A revolution is a simple thing)

 ネヴァ川は流れ、春が巡り来て 王族は消えた。
 革命とは、そういった単純なもので、よけいな感傷はいらない

 と、あるいはグレブは、自分に言い聞かせているのでしょうか。

 そしてつまり、ですね。
 グレブはペテルスブルクで掃除婦をしていたアーニャに一目惚れしたようなのですが、これね、ひと目見て「あの誇り高かったアナスタシアに似ている!」と、心引かれた、ってことなんじゃないでしょうか。

 真風ディミトリは、子供のころパレードでアナスタシアを見て憧れていましたが、父親がアナーキストで収容所で殺され、孤児になって、激動のロシアで詐欺師になって生きぬき、アーニャに出会います。

  なにしろ、宝塚版はまだ円盤が出ていませんで、仕方なく、ブロードウェイ版をYouTubeでひろい見しているのですが、ほんとうに、くりかえしてメロディが使われる「Once upon a december」は名曲です!

 Anastasia Broadway Musical Mean to be Quartet at the Ballet

 アーニャとディミトリ、皇太后、グレブがそれぞれに「白鳥の湖」の舞台を見ている上の場面がまた、見事です。
 オデットの踊りにアーニャの歌声、王子ジークフリートにディミトリ、三羽の白鳥に皇太后、ロットバルトにグレブの声がかぶさり、ディミトリとグレブの2重唱から、アーニャ、皇太后を交えた四重唱へ。圧巻です。

 オデットは潤花ちゃん、ジークフリートは亜音有星、ロットバルトが優希しおん。踊り手は若手ですが、評判通り、ロットバルトが素敵でした。

 海外ミュージカルらしく、独唱の人数が少ないのは残念で、天彩峰里ちゃん、独りの歌が聴けなかったのはさみしいかぎりでした。
 リリー役の和希そらくんは、フィナーレまで娘役で、キキちゃんとのデュエダンは最高でした。なんなら、キキちゃんトップのときのトップ娘役は、そらくんで(笑)
 ずんちゃん(桜木みなと)は珍しく老け役でしたが、肩の力が抜けて、楽しそうでした。

 そしてアーニャは、まどかちゃんにぴったりの役でした。
 アニメ声もあまり気にならず、真風ディミトリとの並びも、とてもよくって、これが最後かと思うと、やはり残念な気がします。
 真風さんは明るくはじけ、キキちゃんは重厚で、しかしキキちゃん、フィナーレでは打って変わって美しい笑顔を見せてくれましたので、もう最高!

The Neva Flows reprise (RUS SUB)

 泣ける場面です。
 最後にグレブは、「アナスタシアは伝説になった」みたいなことを言っていたように思うのですが、ソビエト連邦が潰えて、ロマノフの美しい伝説を、ロシアは取り戻したんですよね。
 最後のキキちゃんグレブは、ロシアの心を歌っているように思えました。

 どうしたらいいんでしょう! 
 どうしても東京へ行って「アナスタシア」を見たい! という思いがつのってやみません。
 見たい!!!

コメント (7)
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宝塚キキ沼に落ちて vol13

2020年12月14日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol12 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 去年(2019年)のタカラヅカスペシャルが、専門チャンネルで放送されたみたいです。
 私は、今年のはじめにキキちゃんにはまってから、検索をかけていましたら、「キキちゃん スカーレット」といいますワードが、けっこう上に出てくるのに気づきました。
 さっそく見てみましたら、タカスペの宙組コーナーで、えー、簡単に言ってしまえば、キキちゃんがスカーレット・オハラの扮装で「ソーラン宙組」を歌って踊って、全部もっていった!!! ということでして、どーしても、どーしても、どーしても見たくなり、私は円盤を買いました。

 いや、もう、すばらしくデコルテがきれいだし、真風バトラーと芝居をしている間は、見事に女声で、スカーレット・オハラなキキちゃん。
 「風と共に去りぬ」のいわゆる階段落ちの場面です。スカーレットはバトラー船長と言い争って階段から落ち、暗転。バトラー船長が一人で「愛のフェニックス」を熱唱し終わったところで、階段の上に元気なキキちゃんスカーレットが姿を現し、ドスのきいた男の声で「あー、どっこいしょ、どっこいしょ」。ソーラン節の前奏に乗って、クリノリンの輪っかドレスにはっぴを羽織って、肩をいからせ、勇ましい表情で下りてきます。
 真風バトラーの「スカー、レッ、ト???」というつぶやきの中、センターでソーラン節を歌い出すスカーレットを、やがてはっぴを着終えた真風バトラーが押しのけ、はじき出されたキキ・スカーレットは、2番手の位置にいる小公子・和希そらを押しのけ、輪っかドレスで踊りぬくんです。

 実際、ほかのすべての場面がかすんでしまうほど面白く、私は円盤を買った当初、何十回も、この場面だけ見返していました。
 しかし、少し落ち着いてみますと、望海さんと真彩ちゃんのお歌はすばらしいの一言で、星組さんは「桜華に舞え」の主題歌を歌ってくれてますし、見所は他にもたくさん、ありました。

 それはそうと、ですね。今回この話を出してきましたのは、この宙組コーナー、演出がウエクミ先生、だったんですが、他の組コーナーとは、雰囲気もちがえば、組み合わせもちがいました。
 雪組は、男役二番手さん以下多数、次いでトップ同士・望海さんと真彩さんがからんで、最後は全員。
 花組さんは、最初に二番手の瀬戸さん以下男役3人、次いでトップ同士・柚香さんと華ちゃん、柚香さんとマイティ、そして全員。
 星組はちょっと変則的で、まず二番手愛ちゃんとトップ娘役の瞳ちゃんがデュエット、男役娘役数人が歌って、トップの礼真琴さん独唱、しめは全員、です。

 で、宙組なんですが、まずは「ベルばら」の小公子・小公女を男役娘役3人ずつ、次いで3番手のずんちゃん(桜木みなと)とトップ娘役のまどかちゃんが「王家に捧ぐ歌」より「月の満ちるころ」。そして、キキ&真風の「風と共に去りぬ」です。

 えーと、なにが言いたいかと言いますと、ですね、トップ娘役がトップとも二番手とも組まないで三番手と組み、トップと二番手、男役同士が組んだのは、宙組だけだったんです。
 キキちゃんと真風さんは、もちろんお似合いでした。もしかすると、ほんとに風共ができるかもしれないくらいに、です。
 それは意外でもなんでもなかったんですが、私が驚いたのは、ずんちゃんとまどかちゃんが、びっくりするするほどお似合いだったことです。
 「王家に捧ぐ歌」の新人公演主演コンビだったそうですし、驚くようなことではないのかもしれないのですが、声の質もよく合って、すばらしいデュエットでしたし、「まどかちゃん、真風さんと組むより似合ってない?」と、つい思ってしまったんですね。

 前回お話ししました「神々の土地」は、朝夏まなとさんの退団公演でしたし、真風さんとまどかちゃんは次期トップコンビと決まっていたのですが、役柄としては、まったく交わりようもない役でした。
 真風さんは、ニヒルで、大人で、しかしけっして醒めきってしまっているわけではなく、熱いものをうちに抱いている感じが、素敵でした。
 まどかちゃんは、前回も書きましたが、一見無邪気で、しかし無意識のうちに激しく嫉妬心を燃やし、無鉄砲に突っ走って愛する男を窮地に陥れるという、子供ゆえの怖さを持った少女を、的確に演じていました。

 その「神々の土地」があった上での、「フライングサパ」です。

 "FLYING SAPA" at Umeda Arts Theater – Main Hall in JAPAN <For J-LODlive>

 宝塚では珍しいSFだというので、楽しみにしていたのですが、チケットは手に入らないないだろうし、とあきらめていました。
 ところが、舞台よりも現実の方がSFじみてきまして、思いもかけないコロナ蔓延。コンサートも観劇もスポーツ観戦も、すべてが中止にいたるという悪夢が続き、ようやく8月になって、梅田芸術劇場で上演となりました。
 花組さんも星組さんも、感染が出てなかなか再開できませんでした中、小公演だったことなどもあったんでしょうか、「フライングサパ」は無事開幕。初日、流れてきたツイッターで、キキちゃんと真風さんが、ぼろぼろ泣いていた情景が忘れられません。

 で、地方在住者にとって、これはむしろありがたことなのですが、楽天テレビでの千秋楽ライブ配信があって、見ることができました!
 なにしろコロナ禍の異常な状況でしたので、最初は、華やかなフィナーレやパレードがなく、歌もほとんどないことが、さみしいような気がしました。
 歌は、松風輝さんが歌う子守歌と、キキちゃんが口ずさむ歌と、どちらもつぶやくような歌が流れるだけですし、踊りもまた、アンニュイな雰囲気のもので、宝塚らしく、パッと思いを発散できる感じからは遠かったんです。
 しかし慣れてくれば、スタイリッシュな雰囲気を楽しむのもいいか、とも思い直したんですが、おそらく、生で見ていればもっと、雰囲気にひたりやすかったかと思います。

 SFとしてどうか、と言えば、そうですねえ。現実の方がシュールです。
 独裁的な管理社会って、ソ連が長らくそうでしたし、中国はいま、それが極端にIT化され、ネットで監視の目が張り巡らされ、電子マネーが普及していますから、反体制分子は下手をすると買い物もできなくなってきた、ともいわれます。しかしもちろん、一方で物々交換の世界も残っていたりします。物語のように、アウトサイダーだって生存はできるわけです。
 そんな恐ろしい監視社会で、当初、コロナ感染を隠蔽しようとして、結局は、世界中に散らばってしまっちゃったあげくに、人間のコミニュケーションが普通にできず、楽しみはすべて御法度、というような、異常な社会が出現したわけですよねえ。なんてシュールなんでしょ!!!

 だから、まあ、別に、なんの違和感もなく、「フライングサパ」の世界には、すっと入っていけました。
 宝塚の定番ならば過去のファンタジーなのが、未来を想定したファンタジーになっただけでして、人間関係はいつものウエクミ節。しっかり描けてます。
 ニヒルで大人な真風さんは素敵でしたし、まどかちゃんは体当たりの演技。私は、この作品ではじめて、二人はお似合いだな、と感じました。
 キキちゃんは、精神安定剤のようなお役で、素敵は素敵なんですが、うん、ウエクミ先生、キキちゃん主役だと、どんな感じに描いてくれるんだろうなあ、と、つい、考えてしまいました。

 この「フライングサパ」は、未来の水星を舞台にしていますけれども、萩尾望都のSF作品で、火星を舞台にしたものがあります。
 
 

 この「スター・レッド」、「ポーの一族」と同じくらい好きでした。
 火星を愛してやまない火星生まれの少女、レッド星(セイ)。
 数千年の孤独を生きた異星人・エルグは、レッド星に出会い、最後の最後に、「狂うことにする」と、自分の精神を封じ込めていたいましめをときます。
「存在していれば、なにかが見つかるかもしれないと思った。そしてきみに出会った。一つの星、一つの運命に、恋している少女。きみを独りじめし、数千年の孤独をすべてうめたかった。……星、心からきみを大切に思う」

 惑星の盛衰がからむ遠大な物語で、エルグと星のはるか時空を越えた愛は、忘れがたく胸にしみます。
 私の夢は、このエルグをキキちゃんに演じてもらえたらなあ、ということです。
 しかし、レッド星をやれるようなトップ娘役さんなんて、いますかね? うーん。ぴったりなのはSU-METALですけれども(笑)

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宝塚キキ沼に落ちて vol12

2020年12月11日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol11 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 人事発表があってから、フライングサパの感想を書こうと思っていたのですが、発表がありません。
 いま、大劇場のアナスタシアで、空席が目立っているそうなのですが、これ、大方はコロナのせいでしょうけれども、一部に、宙組ファンがモヤモヤを抱えてテンションがあがらないから、ともささやかれているそうです。

 中途半端に、まどかちゃんの専科移動と、次期宙組トップ娘役に潤花ちゃん、という発表のみがありました。そして、次期大劇場公演でご卒業か、と噂されていました真風さんが、どうも長期になるらしく、では2番手の長いキキちゃんは? と、わけがわからないままでは、モヤモヤするな、という方に無理があります。
 いったい、なんの必要があって、こんな変則的な人事発表のみを、劇団はしたのでしょうか。

 そして、噂ですけれども、まどかちゃんの専科移動は、次期花組娘トップとなって柚香さんの歌介護をするためとか、キキちゃんは2番手のまま退団とか、モヤモヤを通り越してムカムカするような話が、流れ放題です

 私はこれまで、真風さんとまどかちゃんがお似合いだとは、まったく思っていませんでした。

TAKARAZUKA CAFE BREAK ★オーシャンズ11で大暴れ!芹香斗亜 20190628

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宝塚キキ沼に落ちて vol1 - 郎女迷々日録 幕末東西

「桐野利秋in宝塚『桜華に舞え』観劇録後編下」の続きであり、「幕末維新はエリザベートの時代vol1」の続きでもあります。といいますか私、「宝...

宝塚キキ沼に落ちて vol1 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上に書いておりますが、「オーシャンズ11」は、同名のアメリカ映画を宝塚独自にミュージカル化したものでして、小池修一郎氏の脚本・演出で、2011年星組で初めて上演され、2013年花組で再演されました。
 初演の新人公演で真風さんが主人公のダニィ、キキちゃんが相棒のラスティ。花組再演の新人公演では、キキちゃんがダニィ、マイティ(水美舞斗)がラスティ。初演の星組本公演で、真風さんがライナス。花組再演本公演ではキキちゃんがライナス。

 で、真風さんとキキちゃんは宙組でトップと2番手となり、昔星組の新人公演でやったダニィとラスティを、本公演で演じたわけなのですが、キキちゃんの宙組作品の中で、ラスティは屈指のはまり役です。同時に、ダニィとラスティのバディ感は、歴代でもピカイチだったのではないでしょうか。

 私、花組の「オーシャンズ11」は、キキちゃんがライナスをしていることもあって、円盤を買って見てみたのですが、それでつくづく感じたのは、ダニィとその妻のテス、敵役のベネディクトとの三角関係が、花組のものの方が、くっきりとあざやかだった、ということです。
 なにしろ花組のベネディクトは望海風斗さんでしたので、これには宙組のずんちゃん(桜木みなと)は、迫力と感情表現で、どうしても負けていました。
 そして花組でテスを演じていた蘭乃はなさんは、色香ただよう大人の女として、夫のダニィとホテル王ベネディクトの間を揺れ動く気持ちを見事に表現していましたが、まどかちゃんのテスは、いかにも子供っぽく、ダニィが夢中で愛していることが、ちょっと絵的に信じられませんでした。テスのもっと若いころを、夢白あやちゃんが演じていましたが、正直、そちらの方が大人っぽくて、ダニィとお似合いでした。

 「神々の土地」と「フライングサパ」を見るまで、私はどうも、真風さんとまどかちゃんと、それぞれの本当の魅力に気づいていなかったような気がします。
 あるいは、もしかして、二人が別れて、お互いに別の魅力でこれから輝けるのかもしれないのですが、しかし、今回の人事発表は、噂が噂を呼んでいる感じですし、いままでのところ、なんだか、とてもいやな感じしか受けません。

 一部に流れているように、キキちゃんが2番手で退団だというのでしたら、私は二度と宝塚は見ません。

 しかし、これも一部に流れているように、真風さんが長期になったからキキちゃんが宙でトップになれない、というのは、だいぶんちがうのではないか、と思うんです。

 あるいは、妄想と言われるかも知れないのですが、コロナ禍の最中に、潤花ちゃんが宙へ来る、と発表されたときから、私は「これはキキちゃん、宙を出ることになるのでは?」と思ったんです。
 引き金は、月組トップ珠城さんの退団発表だったと思います。それが早すぎたのか遅すぎたのか、コロナがどう関係したのかわかりませんけれども、当初は、100周年を迎えた最中の退団では、なかったのではないでしょうか。

 キキちゃんは、阪急を背負っています。親会社がスポンサーだと、劇団側では、けっこう融通をきかせてもらえるのではないんでしょうか。いくらコロナ不況でも、です。あくまで、私の妄想かもしれないのですけれども。
 ともかくキキちゃんは、阪急を背負っているがゆえに、月移動になるのではないか、と、私はとっさにおもいついちゃったんですね。

 後は玉突きではないんでしょうか。
 月の次期トップ予定の月城かなとさんは、雪組の出身です。
 雪組では望海風斗さんの退団後、彩風咲奈さんがトップになりますが、彩凪翔さんも退団で、二番手候補が朝美絢さんしかいません。朝美さんは、まだ三番手羽も背負っていなかったかと思いますし、月城さんが帰るのが、一番、雪組のためではないのでしょうか。
 また彩風さんにはまだスポンサーがついていなかったので、次期トップ娘役にするつもりだった潤花ちゃんにスポンサー(ヒガシマル醤油)がついたわけですが、月城さんはカミノモトを背負っているので、月城さんが雪に帰れば、潤花ちゃんを出せるわけです。
 私は、スポンサーつきの潤花ちゃんが宙に来たからこそ、キキちゃんが出ることになったのだと、思いました。

 しかし、ですね。雪の新体制に間に合うように月城さんが雪に帰るとなれば、珠城さんの退団公演まで月にはいられず、おそらくキキちゃんは、珠城さんの退団公演から月へ行くのではないか、つまり落下傘ではないのではないか、とまで、妄想しました。
 だとすれば、12月のはじめには、発表があるはずなんです。大劇場アナスタシアの千秋楽でお別れ、ということになりますから。
 で、キキちゃんが月に行くのだとすれば、真風さんの長期は、キキちゃんが抜けた後の宙組の人気維持の必要から、ということになると思うんですね。

 でも、ですね。もしもそういうことなら、そりゃあ、できればキキちゃん、宙でトップの方が落ち着きはしますが、もしも月でトップなのならば、それはそれで、発表した方がいやな噂は打ち消せるのではないか、と思うのですが、発表がありません
 ほんとうに、モヤモヤを通り越してムカムカ、という結果になりそうな気がしまして、つい、いらぬことを書いてしまいました。

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