上の続きです。
去年の後半、私は宝塚スカイステージに加入しました。
https://www.tca-pictures.net/skystage/
要するに、一日中、宝塚の番組を放送しているチャンネルでして、なぜ入ったかと言えば、もちろん、キキ沼に落ちたからです。
全部見る時間はありませんし、どうしようかなあ、と思ったのですが、見たいものはとりあえず録画すればいい、と自分を納得させました。
そして、去年のスカイステージでは、『ロミオとジュリエット』の過去の舞台映像が放送されていまして、その中には、これまでDVDにもなっていなかったものが、ありました。
私は、上のリンクに、以下のように書きました。
次いで「ロミオとジュリエット」ですが、これはフレンチ・ミュージカルです。演出はまたしても小池修一郎氏。
初演は2010年星組、2011年雪組、2012年月組、2013年星組再演でした。そしてこれまた、外部でも上演しています。
キキちゃん(芹香斗亜さん)は星組で初演を経験。明日海さんは月組で、役代わり主演を務めていました。
明日海さんのロミオは、すばらしく美しかったそうです。
阪急系のホテルでは、どこでもスカイステージを無料で見ることができます。
去年、中村様と観劇のために泊まっていたホテルで、偶然、2012年星組初演のものを見ました!
キキちゃんは、モンタギュー家の若者の一人で、いわゆるモブだったんですが、私、目を皿のようにして見て、結局、中古DVDを買いました。
私がスカイステージに加入したときには、ロミジュリ放送は終わりに近づいていたのですが、月組、雪組も、なんとか録画することが、できました。
私、『ロミオとジュリエット』の音楽は、大好きだったんですが、ただ、これまでどれも、今ひとつな気がしていたのは、肝心の主演、ロミオとジュリエットが、どうも、あまりピンとこなかったからです。
Romeo et Juliette 15. Aimer (English Subtitles)
上は本家フランスのロミオとジュリエットですが、もちろん、ジュリエットは高音がきれいに出ていますし、二人の歌のハーモニーに聞き惚れます。
宝塚のこれまでのロミジュリで、もっとも足らなかったのは、ジュリエットの歌唱力でした。
ロミオはそこそこ歌える方が演じているのですが、ジュリエットはなぜか、みなさん高音が出ていなくて、難しい曲なのかしら? と首をかしげていたんです。
ところが、録画しました2011年雪組、ジュリエット役代わりで、唯一DVDにもなっていなかった夢華あみさんのバージョンを見たとき、そのすばらしさに驚きました。
下手だからDVDになっていなかったのかと思っていたのですが………、ちがっていたんです。
そして、主演の音月桂さんは、言葉を失って見入ってしまうほどに、ロミオそのもの、でした。
この舞台は、まずヴェローナの広場で、モンタギュー、キャピュレット、敵対する両家の若者たちが争っているところから始まります。
しかし、その中に、ロミオはいません。
続く場面で、モンタギュー夫人とキャピュレット夫人が、両家の男たちの不和を嘆き、そして、ようやく、ロミオが登場します。なんと、綿毛のタンポポを手に持って、です。
ロミオはモンタギュー家の跡取りですが、争いごとは好まないタイプで、その美貌ゆえに女たちに追いかけられている様子です。しかし、彼が夢見るのは真実の恋。運命の相手をさがしています。
同じ舞台上、階をちがえて、ジュリエットの居室。
16歳のなにも知らない乙女は、しかし、運命の恋を予感しています。例え死んでも、けっして離れることのない絆で結ばれた相手が、現れるのだと。
Romeo et Juliette 3. Un Jour (English Subtitles)
まだ出会っていない二人は、「いつか」という歌のデュエットによって、その真情を吐露するんです。
これがけっこうな大ナンバーなのですが、音月さんと夢華さんの歌は、フランスの舞台にも負けないほどに、心地よくも、美しいものでした。
次いでキャピュレット家には、一人娘のジュリエットへの求婚者・パリス伯爵が現れ、身分もよく金持ちの求婚者に、両親はすっかり乗り気ですが、ジュリエットは、「愛のない結婚はいやだ」と反発します。
一方、モンタギュー家の若者たちは、ロミオもまじえて、「世界の王」を歌い踊ります。
Romeo et Juliette 6. Les Rois Du Monde (English Subtitles)
日本語の歌詞は、ほぼ、次のような内容です。
「年寄りが寝ている間に、生きている今を感じ、愛しあいたい。俺たち若者は、権力者に手を貸したりしない。新しいルールは俺たちがつくる」
街頭デモだとか、集団での暴走だとか、大人たちに反発し、無茶ぶりを楽しむぞ!、という、時代を超えて、若者たちに通じる歌です。
歌が終わり、マキューシオの誘いで、その夜、ベンヴォーリオとロミオは、敵対するキャピュレット家の仮面舞踏会に、乗り込むことになります。
そして、一人になったロミオが歌います。
Romeo et Juliette 7. J'ai Peur (English Subtitles)
日本語では「僕は怖い」という題名の歌です。
いまぼくは、兄弟より親しい友とともに笑い、遊び、青春を駆けぬけている。
しかし、いつか来る死の影が、ぼくらの背後にしのびよる。
僕は怖い。死ぬのが怖い。
放蕩と無頼に明け暮れた先に待っているのは、明るい夜明けじゃない。
いつか来る終わりが、ぼくには見えるんだ。
おおよそ上のように歌われる、とてもきれいな歌なのですが、実のところこの歌は、事件が起こった後に再び、絶望の中でも歌われます。
正直、音月桂さんのロミオを見るまで、なぜロミオは、ジュリエットと出会う前にこの歌をうたうのか、いまひとつ、必然性を感じていませんでした。
どなたのロミオも、分別くさい感じに見えて、友を憂える予言なのかな、と聞き流し、ストレートに胸に響かなかったんです。
それが………。
音月さんの歌を聞いて初めて、ああ、ロミオは青春の光と影をリアルに見る人なんだ!と、納得がいったんです。
青春のただ中にいるからこそ、死をリアルに感じることって、ありますよね。
年をとるということは、ある意味、鈍感になることですから、死の深淵がぽっかり口をあけていても、あまり真剣に受け取らなかったりします。
一途に恋に死ぬロミオという若者は、感受性が鋭く、影を知っている人であってこそ、リアリティをかもしだせるんだ、と、音月さんのロミオに、心が震えました。
そして………。
わからないのは、なぜ、こんなにもすばらしい、音月さんと夢華さんの『ロミオとジュリエット』が埋もれてしまったのか、ということでして、次回は、そのことを取り上げてみたいと思います。