上の続きです。
宙組とキキさんについては、この1年でいろいろなことがありましたし、ありがたいことに、観劇もできています!
ブログを書きたいなあ、とは思ったのですが、生で拝見できただけではなく、あまりに幸運なお席で、奇跡のような出会いをしてしまったりすると、かえって書けないものですねえ。
それもありましたし、人事がはっきりしないと、それだけで胸が痛くなるものなんだと、沼に落ちて初めて知りました。
今回もまだ、先のことがわからなくはあるのですが、なんかもう!!! 予想もしていなかったほどに、すばらしかったです!!! なにがって、もちろん『NEVER SAY GOODBYE 』。
宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』初日舞台映像(ロング)
宝塚カフェブレイク ★芹香斗亜がまっすぐで熱い男をレモンをかじりながら演じてるよ 20220417
『NEVER SAY GOODBYE』は、そもそも16年前、宙組2代目トップスター・和央ようかさんと、初代トップ娘役・花總まりさんが、添い遂げ退団なさったときのさよなら公演でした。
通常、宝塚の退団公演は、劇とショーの2本立てです。しかし、『NEVER SAY GOODBYE』は一本ものの本格的なミュージカルです。
なぜそうなったかといえば、おそらく、なんですが、和央さんは直前の公演で大怪我をなさっていて、お医者さんには、「まだ舞台は無理」といわれていたというお話ですから、動きの激しいショーは避けて、トップお二人の歌唱力を生かしたオリジナル・ミュージカルで、となったんじゃないんでしょうか。
作・演出は小池修一郎先生。
音楽は、アメリカの作曲家・フランク・ワイルドホーン氏でした。
『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』などのブロードウェイ作品を手がけていたワイルドホーン氏と宝塚のご縁がここからはじまり、ワイルドホーン氏は、宝塚以外にも、『MITSUKO〜愛は国境を越えて〜』や『デスノート THE MUSICAL』など、複数の作品を日本で手がけておられるようです。
ついでに言えば、ワイルドホーン氏と和央ようかさんは、これをご縁に、ご結婚なさっておられます。
で、音楽がいい、というのはわかっていたのですが、スペイン内戦のお話、と聞くだけでなんだか、うーん。無理かも! と、唸ってしまったんですね。
その昔、高校生のころ、ヘミングウェイの『誰が為に鐘は鳴る』を読もうとして、何度寝落ちしちまったことか、結局、読み通せませんでした。
「ジョージ・オーウェルが内戦に参加して、ファシストよりもソビエトの方が嫌いになり、『動物農場』や『1984年』を書いたんだよねえ」と、断片的な知識があったがために、よけい、どうなのっ!?!?! ともなりました。
しかし、再演は決まっていて、キキさんがご出演なさるわけですから致し方もなく、初演の中古DVDを買って、見てみました。
結果、これは案外いいかもっ! と変わっちゃったんです。
主人公のジョルジュはポーランド出身のカメラマン。フランスを中心に各国で仕事をしていて、自らデラシネ、根無し草だと自覚しています。
ヒロインのキャサリンは、アメリカ人の社会派・劇作家。小池先生によれば、リリアン・ヘルマンがモデルだそうです。
お話のはじまりは、1936年のハリウッド。
日本でいえば昭和11年。 二・二六事件が起こった年です。
第一次世界大戦ののち、ロシアは史上初のソビエト連邦共産主義独裁国家となり、やがて世界恐慌が起こって、不況が長引く中、ドイツではナチスドイツ、イタリアではムッソリーニのファシスト党が政権をとり、そして、スペインでは左派連合が普通選挙で勝って、ソビエトに続く社会主義のスペイン共和国が成立します。
このとき、すでにソビエトでは、スターリンの大粛正が始まろうとしていて、地獄のような状況だったのですが、世界的には、ナチスドイツにおける、社会主義者やユダヤ人への弾圧が目立ち、ソビエトの対外宣伝が上手かったことも手伝って、多くの知識人が、左翼共産党に夢を抱いていました。
キャサリンはあきらかに、左翼に夢を抱いたアメリカ人劇作家として描かれていますが、ジョルジュはかならずしもそうではなく、しかし、ナチスの力が強くなったことによって祖国ポーランドを失い、根無し草となってしまったという心情が、切々と歌われます。
二人が出会ったのは、『スペインの嵐』というハリウッド映画の製作発表パーティー。
主演女優・エレン、エレンの愛人でカメラマンのジョルジュ、エレンと共演予定の本物の闘牛士・ヴィンセント・ロメロなど、関係者が集っているパーティーに、作家のキャサリンが抗議に現れます。自分の書いたシナリオとちがい、娯楽一辺倒にされてしまって納得がいかない、というんですね。
『スペインの嵐』は現地ロケを予定していて、しかし社会主義のスペインは世情が落ち着かないため延期、と言っていたところ、スペイン共和国広報担当のパオロから、「今度、バルセロナで人民オリンピックがあり、開会式には闘牛士たちも登場して華やかなので、ロケに取り入れてはどうか」という提案があります。
実はこの年、ベルリンオリンピックが開催される予定でしたが、それに対抗して、バルセロナで人民オリンピック(オリンピアーダ・ポピュラール )を計画していた、というのは、史実なんです。
小池先生は、1992年のバルセロナオリンピック開会式で、そのときから50数年前、幻の人民オリンピックに出場するはずだった老人が紹介されるのを見て、強く関心を抱かれたんだそうです。
そして史実は、そのままで、とても劇的です。
幻の開会式の前日、1936年7月18日の夕方のことです。
開会式関連の催し「民俗芸能の夕べ」のリハーサルの最中、モロッコ、セビリアで反乱が起こり、スペイン全土に広がろうとしているので、オリンピックは中止せざるをえない、との速報が舞い込むんです。
反乱を起こしたのはスペイン陸軍で、植民地モロッコにいたフランコを中心とする将軍たちが、各地の駐屯所に指令を発しました。
当初、共和国政府は、これを甘く見ていましたし、実際、海軍と空軍は、ほぼ共和国政府に従いました。
しかし、保守勢力が強かった南部、セビリアを中心とするアンダルシア地方では、反乱軍が勝利します。
闘牛が盛んなのは、実は、このアンダルシアなんです。それも、セビリアとロンダ(崖の上の街として知られています)。
18世紀、現代闘牛の様式確立に大きく寄与したのが、ロンダのロメロ一族でして、3代目のペドロ・ロメロは、ゴヤが肖像画の連作を残し、ヘミングウェイの『日はまた昇る』の登場人物のモデル、ともされています。
ネバセイには、キキさん演じるヴィセント・ロメロを筆頭に、闘牛士が7人出てきますが、ヴィセントをのぞく6人は、アンダルシアが反乱軍の手に落ちたと知ると、その闘牛の故郷へむけての脱出を試みます。
その一人、真名瀬みらさん演じるファンは、はっきり「俺の生まれはセビリアだ」と歌っていますし、6人の出身地も、アンダルシアなのでしょう。
そして、史実として、南部を掌握したフランコ反乱軍は、慰問に闘牛を催したという話です。
一方のバルセロナ。
ジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』には、内戦勃発から時がたち、おそらくは幻のオリンピック期間に開催されるはずだった闘牛のポスターが、古びて、虚しく、貼られたままになっている、という描写があったりします。
ネバセイにおいて、ヴィセント・ロメロただ一人、バルセロナ出身だったとされていることについては、つい、妄想が働いてしまいます。
ロンダのロメロ一族の一人が、許されない恋をして駆け落ち。バルセロナ郊外に落ち着いて、ヴィセントが生まれた、とか。恋の相手、ヴィセントの母は、やはり、セビリア・ロマの美しいフラメンコ・ダンサーでしょう。水音志保ちゃんが好演しましたヴィセントの恋人、テレーサのように。
ネバセイは、幻のオリンピックを、物語の中心にすえています。
ジョルジュを含むハリウッド一行と、ソビエトの招きを受けたキャサリンは、偶然、バルセロナの開会式リハーサルで出会います。
そこへ、反乱勃発の知らせ。ジョルジュとキャサリンは、内戦が始まったスペインに、残ることを決意するのです。
バルセロナは、首都マドリッドに次ぐスペイン第二の都市ですが、実は、独自の言語を持つカタルーニャ(カタロニア)の中心地でもあります。
バルセロナで左派が強かったのは、工業化が進み、労働人口が多い都市であると同時に、右派は自治を認めず、左派は認めていた、ということもあります。
したがいまして、カタルーニャ語を駆使する詩人や劇作家をはじめ、文化人や芸術家、知識人の多くも、左派を支持していました。
これは、ネバセイでは語られていないのですが、スペイン左派の最大勢力はアナキストで、その系統の労働組合運動(アナルコ・サンディカリスム)の拠点が、バルセロナにありました。
アナキズム(無政府主義)は、ロシア革命の先陣をきった思想ですが、革命の進展とともに弾圧されるようになりました。
これは、『アナスタシア』において、主人公真風ディミトリーが、「父はアナキストで収容所で死んだ」と言っていますので、宙組ファンにはなじみです。
スペインでは、1931年に第二共和国が発足して以来、右派と左派の対立は激しく、この年の選挙で、かろうじて左派連立政権が成立したとはいえ、バルセロナのCNT(無政府主義労働者連合)の人々は、多大な危惧を抱いていました。
これまでの右派との衝突で、将軍たちが政権をとったとすれば、自分たちの多数が殲滅されるだろうと、わかっていたからです。
7月18日の夕刻、CNTは、カタルーニャ州自治政府首相に、武器の供与を拒まれ、翌朝にいたるまで、武器の確保に奔走します。一部陸軍下士官の協力も得て、軍の武器庫を襲い、港に停泊中の船舶、銃砲店などから、ありとあらゆる武器をかき集めて、反乱軍の進軍に備えました。
CNTの素早い反応に、治安警備隊、突撃警備といった警察組織も、バルセロナでは、共和国政府側につきます。
当然と言えば、当然のことでした。左派共和国政府は、選挙で選ばれた正当な政府だったのですから。
CNTは、素早く民兵隊を組織し、翌日、人民オリンピックに出場するはずだった外国人選手たちも、その多くがにわか兵士となり、戦いました。
『カタロニア賛歌』に、オーウェルが書いているのですが、バルセロナの民兵隊は途中まで、「上下関係のない、自由な軍隊」だったのだそうです。これは、CNTが中心になって組織したからこそ、でした。彼らは、なによりも自由を重んじていたのです。
小池先生は、このバルセロナのオリンピック選手民兵隊を切り取り、そこへ、ただ一人のバルセロナ出身闘牛士、ヴィセント・ロメロを加えているのですが、スペイン内戦を生きた若者の群像を、リアルに描くに当たって、すばらしい照明の当て方だったと思います。
ジョルジュはヴィセントを通じて彼らと知り合い、そしてそこに、自らの故郷を見出します。
長くなりましたので、続きます。
5月27日、円盤の発売を心待ちにしている、今日この頃です。
BDでネバセイを鑑賞して、また生の舞台の感激を思い出しました。BDを何回も見直したいですが、いろいろありまして、暫くはお預けです。
でも、本当に素敵な作品です。
観劇のときにはウクライナ侵略と重なり、響くものがありました。しかし、3ヶ月過ぎてウクライナの奮闘を思うとあのときよりもっと大きく響き、切なくなります。キキちゃんの台詞「俺は残る」が胸に刺さります。
いつも凄いなとは思うのですが、やはり宝塚歌劇は凄いとあらためて感じました。女性だけのキャストで素晴らしい芝居をするのですから。強い女性がいっぱいです。美輪明宏が丸山だったころに言った言葉。「女性は男性より強い。男性は弱いから神様は力を与えた。」(笑)
『桜華に舞え』でご一緒したときは、まさかここまで沼にはまる日が来ようとは、思ってもいなかったです。「俺は残る」もですが、何回聞いてもすばらしい歌唱指導!!!
だから言いはしない さよならだけは
NEVER SAY GOODBYE