● どうなる学校 教員採用事情(下)
増える「非正規」 不利益は子どもたちに
「非正規教員には研修がなく、専門性も築けない。一年かけて子どもや親との信頼関係を築いても、来年の約束はできない」
今月、大阪府箕面市で開かれた「全国臨時教職員問題学習交流集会」。パネリストで府内の公立特別支援学校教員、玉城千加子さん(50)は、全国から集まった約三百人の同志に非正規教員時代の無念な思いを訴えた。
二十二年間採用試験に挑み続け、四十五歳で受験条件の上限年齢に達し受験資格を喪失、昨年制度化された経験者の特例選考でやっと正規教員になった。新人一年目に職務として受ける「初任者研修」を受講中だ。「五人に一人は非正規。この事態を放置すれば、不利益を受けるのは子どもたち」と言う。
● 教育の継続性に支障
本来正規で補うべき欠員を、経費削減のため常勤や非常勤の講師など非正規教員で代用することが常態化している。全日本教職員組合(全教)の調査では本年度、少なくとも十五道府県でそれぞれ数百-千人の非正規教員が、正規の定数内で配置されていた。
地方公務員法は「臨時職員の任用は一年を超えない」と定めている。非正規が増えれば教員の出入りが激しくなり、「継続的な教育」に支障が出る。
学年担任の半分以上が非正規という神奈川県西部の公立中の正規教員(38)は「一学年三学級の小規模校で、持ち上がりは学年主任だけ。これでは長期的視野で教育ができない」と話す。
一方、非常勤の待遇の悪さからくる生活不安も教育に影響を及ぼす。
同県公立中の非正規教員(25)は、顧問を務める運動部を昨年関東大会まで率いた実力者だが、夏休みなど長期休業中は雇い止めとなる。続けている部活指導も無給だ。
学区内のファストフード店で夜間アルバイトをしていたら校長に「生徒に見られる。客とはいえ生徒に『いらっしゃいませ』と言う立場はいかがなものか」ととがめられた。地方では学区域が広い上に、働き口も限られる。だが、生活するにはアルバイトするしかない。同教員は「どうすればいいのか」と悩む。
部活動にも支障が出ている。非正規教員が運動部顧問を務める場合、大会と教員採用試験が重なるケースがある。三重県の公立中テニス部は、顧問が受験で不在になり、部はある地区大会で予選敗退した。
● 「いつか崩壊」 恐れる現場
全教の先の調査では、正規教員側から「力量のある人が臨時教員のため学校運営の中心を担えない」「多様な勤務体系の教員が混在し人間関係がギクシャクした」などの影響が指摘された。
一方、非正規側からは「職員会議で意見したら『講師は黙ってろ』と校長に言われた」「指導されないので授業法に不安が残る」「『断れば次はない』との不安を見透かされ、経験が浅いのに指導困難校ばかり行かされた」などの声が寄せられた。
神奈川県教委教職員課は「教育の継続性など支障がでていることは認識しているが、財政事情から正規教員を増やせない」と言う。
前出の同県公立中の正規教員(38)は「このままでは志望者が減り、産科医療のように学校システムもいつか崩壊する」と恐れる。
帝京平成大学の三輪定宣教授(教育行財政学)は「正規教員の欠員は正規教員で補うべきだし、すべての教員の身分尊重、研修の充実が図られねばならない。教育に『臨時』などないはずだ。教員人事の不正発覚を機に考え直すべきだ」と訴える。 (井上圭子)
『東京新聞』(2008年8月23日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2008082302000118.html
増える「非正規」 不利益は子どもたちに
「非正規教員には研修がなく、専門性も築けない。一年かけて子どもや親との信頼関係を築いても、来年の約束はできない」
今月、大阪府箕面市で開かれた「全国臨時教職員問題学習交流集会」。パネリストで府内の公立特別支援学校教員、玉城千加子さん(50)は、全国から集まった約三百人の同志に非正規教員時代の無念な思いを訴えた。
二十二年間採用試験に挑み続け、四十五歳で受験条件の上限年齢に達し受験資格を喪失、昨年制度化された経験者の特例選考でやっと正規教員になった。新人一年目に職務として受ける「初任者研修」を受講中だ。「五人に一人は非正規。この事態を放置すれば、不利益を受けるのは子どもたち」と言う。
● 教育の継続性に支障
本来正規で補うべき欠員を、経費削減のため常勤や非常勤の講師など非正規教員で代用することが常態化している。全日本教職員組合(全教)の調査では本年度、少なくとも十五道府県でそれぞれ数百-千人の非正規教員が、正規の定数内で配置されていた。
地方公務員法は「臨時職員の任用は一年を超えない」と定めている。非正規が増えれば教員の出入りが激しくなり、「継続的な教育」に支障が出る。
学年担任の半分以上が非正規という神奈川県西部の公立中の正規教員(38)は「一学年三学級の小規模校で、持ち上がりは学年主任だけ。これでは長期的視野で教育ができない」と話す。
一方、非常勤の待遇の悪さからくる生活不安も教育に影響を及ぼす。
同県公立中の非正規教員(25)は、顧問を務める運動部を昨年関東大会まで率いた実力者だが、夏休みなど長期休業中は雇い止めとなる。続けている部活指導も無給だ。
学区内のファストフード店で夜間アルバイトをしていたら校長に「生徒に見られる。客とはいえ生徒に『いらっしゃいませ』と言う立場はいかがなものか」ととがめられた。地方では学区域が広い上に、働き口も限られる。だが、生活するにはアルバイトするしかない。同教員は「どうすればいいのか」と悩む。
部活動にも支障が出ている。非正規教員が運動部顧問を務める場合、大会と教員採用試験が重なるケースがある。三重県の公立中テニス部は、顧問が受験で不在になり、部はある地区大会で予選敗退した。
● 「いつか崩壊」 恐れる現場
全教の先の調査では、正規教員側から「力量のある人が臨時教員のため学校運営の中心を担えない」「多様な勤務体系の教員が混在し人間関係がギクシャクした」などの影響が指摘された。
一方、非正規側からは「職員会議で意見したら『講師は黙ってろ』と校長に言われた」「指導されないので授業法に不安が残る」「『断れば次はない』との不安を見透かされ、経験が浅いのに指導困難校ばかり行かされた」などの声が寄せられた。
神奈川県教委教職員課は「教育の継続性など支障がでていることは認識しているが、財政事情から正規教員を増やせない」と言う。
前出の同県公立中の正規教員(38)は「このままでは志望者が減り、産科医療のように学校システムもいつか崩壊する」と恐れる。
帝京平成大学の三輪定宣教授(教育行財政学)は「正規教員の欠員は正規教員で補うべきだし、すべての教員の身分尊重、研修の充実が図られねばならない。教育に『臨時』などないはずだ。教員人事の不正発覚を機に考え直すべきだ」と訴える。 (井上圭子)
『東京新聞』(2008年8月23日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2008082302000118.html
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