☆ ベートーヴェン第9交響楽の第4楽章「歓喜の歌」は、「女を勝ちとった男たちの歓喜の歌」?!
毎年、年末になると日本では全国各地でベートーヴェン「第9交響楽」が演奏され、多くの市民たちも合唱に加わって第4楽章「歓喜の歌」を歌うことを楽しむのが恒例になっています。
いつ頃からこれが日本で年末行事になったのか私は知りませんが、欧米では年末に第9交響楽が演奏されることはひじょうに珍しく、年末プログラムとして演奏されるのは、通常はクリスマスに合わせ、「ハレルヤ」コーラスで有名なヘンデル作曲のオラトリオ『メサイヤ(救世主)』が定番になっています。
私の住むメルボルンでは、今年は珍しく、メルボルン交響楽団が11月29日に第9交響楽を演奏したので、私も連れ合いと一緒にそのコンサートに出かけました。
会場のヘイマー・ホールの2500席が満席でした。私もこの20年近く第9をナマで聴いていなかったので、楽しみにしていました。
ただし、以下に述べるような理由で、私はいつも、第4楽章「歓喜の歌」が始まると、メロディーの美しさとリズムの力強さにはいたく感激するのですが、同時に「なぜこんな歌詞が今も歌い続けられているのか…… もういいかげん書き換えてくれよ」という気持ちが湧いてきてしかたがないのです。
よって、第4楽章が終わると聴衆が総立ちなって猛烈な拍手をしましたが、私はどうしても席から立ち上がる気分になれず、連れ合いと2人で座り続けました。
最終楽章の「歓喜の歌」は、ドイツの文豪シラーが「人類愛」を唱える目的で1785年に書いたと言われている詩「歓喜に寄せて」が使われていますが、冒頭の歌詞はベートーベン自身による加筆で、ベートーベンはシラーのこの詩を第4楽章で使うにあたって、かなり編集しています。
とにかく、この素晴らしく力強い合唱は、まず冒頭で以下のように歌い始めます。
O Freunde, nicht diese Tone!
Sondern last uns angenehmere
anstimmen und freudenvollere.
おお友よ、このような音ではない!
我々はもっと心地よい
もっと歓喜に満ち溢れる歌を歌おうではないか
しかし、Freunde は「男友だち」のことで、この歌には「Freundinnen 女友だち」という言葉は1回たりとも出てきません。
そして、この冒頭の歌詞だけではなく、これに続く歌詞も全て「男たち」が主人公です。
例えば、以下のような歌詞があちこちに含まれており、通常の日本語訳もドイツ語の下に記してあるようになっています。
Alle Menschen werden Bruder,
すべての人々は兄弟となる
Wer ein holdes Weib errungen, Mische seinen Jubel ein!
心優しい伴侶を得ることが出来た者は、我らと祝いを共にしよう!
Laufet, Bruder, eure Bahn, Freudig, wie ein Held zum Siegen.
進め、兄弟たちよ、お前たちの道を、喜びに満ちて、勝利に向かう英雄のように
「すべての人々は兄弟となる」という表現の、「すべての人々」の中に女性やLBGTは含まれておらず、文字通り男たちだけが「すべての人々」です。
さらに、「心優しい伴侶を得ることが出来た者は、我らと祝いを共にしよう!」という日本語訳は正確ではなく、実際の意味は「素敵な妻を勝ちとった(あるいは「獲得した」)者たちは、その喜びを共にする!」です。
つまり「女性を勝ちとった俺たち男たちよ、さらに勝利に向かって英雄のごとく前進しようぜ!」と言っているのです。女性は、男が獲得する対象物とみなされているのです。
ですから、この「歓喜の歌」は、実際には、女性を獲得した「男たちの歓喜の歌」と呼ばれるべきものなのです。
合唱には男女それぞれ半数づつ、4人の独唱者も男女2人づつで、それらの女性たちが喜んで男の勝手な歓喜を賛美して、男たちと一緒に喜んで歌っている姿を見るのは、なんとも、なんとも奇妙に私には感ぜられて仕方がないのです。
よって、「人類愛」を唱える目的でシラーが書いたと言われているこの詩を、いかに声高らかに歌い続けても、とりわけ女性が激しく差別されている日本では、いつまでもたっても「人類愛」の目的を達成はできないでしょうね(苦笑)。
ちなみみ、2024年の日本のジェンダー・ギャップ(男女格差を「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で評価した指数)は146カ国中118位で、女性にとっての不平等=差別は文字通り世界最悪クラスの、「ジェンダー後進国」。
まあ、とにかく●名指揮者ダニエル・バレンボイムによる第4楽章のYoutubeのURL を紹介しておきます。
バレンボイムは数年前から健康がすぐれないことから一時公演を停止していましたが、2023年6月に私がベルリンに滞在中にはバレンボイム指揮によるベルリン交響楽団のコンサートがありましたので、チケットを入手して連れ合いと一緒に出かけました。
しかし、病気上がりのせいか弱々しい感じで、いつもの元気な姿ではなく、その後どうしているのか気になっています。
私自身は、実はベートーベンの第9も好きですが(歌詞を別として)、グスタフ・マーラーの交響曲第2番「復活」の、最終の第5楽章で歌われるフリードリヒ・クロプシュトックの歌詞による「讃歌 復活」も好きです。
私はキリスト教信者ではないのですが、ヨハン・セバスチアン・バッハの音楽をはじめ、宗教音楽なしでは暮らせない人間です。
下記のURLは●レオナード・バーンシュタイン指揮、ロンドン交響楽団演奏のマーラー第2番の第5章の、最後の数分間の荘厳且つ熱烈な演奏と合唱です。
『吹禅 Yuki Tanaka 田中利幸』(2024年12月18日)
https://yjtanaka.blogspot.com/2024/12/2024.html
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