☆ マイナ保険証でなくても大丈夫
宮崎俊郎(共通番号いらないネット)
2022年10月に河野デジタル大臣が記者会見でマイナンバーカード(以降「マイナカード」と略)と保険証の一本化を突如発表して、にわかに脚光を浴びたのがマイナ保険証問題だった。
マイナカードは2016年から配布が始まり、当初10%台に低迷していたが、2期のポイント付与を経て60%台まで伸長した。そして現在取得率は74%台まで来たが、75%にはいまだ到達していない。つまりまだ4人に1人は持っていないのである。この数字は驚異的である。
4人に1人の持たない人は、ポイントよりもこの制度そのものに対する不信感が上回っているある種の確信犯とも言える。この人たちにいかに「踏み絵」を踏ませるのか。マイナ保険証一本化登場の一つの意味は確信犯を少しでも転向させることにあった。
もう一つの意味はマイナカードの取得率は4分の3になっているのにマイナ保険証の利用率は10%台と低迷しているため、マイナカードを持っているだけでなく、利用させたいという願望が背景にあるのだろう。
番号法上、マイナカードの取得しか認めない制度設計は違法である。あくまでマイナカードは申請に基づいて取得されると番号法では規定されているため、取得は任意であり、強制できない。だからどこまで行ってもマイナ保険証でないと保険医療が受けられないなんてことはありえない話だ。
かりに現行保険証を廃止したとしても、マイナ保険証でない仕組みを残さざるをえない。
当初マイナ保険証を持たない人には「資格確認証」を発行するが、それも本人の申請によるとしていたが、それでは保険資格を確認する手段を持たない人が大量に出てくる危険性が指摘され、保険者から申請なしで送られてくる仕組みに変えざるをえなくなった。しかもいったん発行される資格確認証の有効期限は最大5年となった。これではほとんど保険証と変わらない。
しかし、その後資格確認証が申請なしの自動発行になるのか、5年後の更新ののちさらに5年有効なのか、それらの私たちの疑問に対しては未定だと言葉を濁す。
あくまで資格確認書はマイナ保険証の一時的な「代替物」でしかなく保険証ではないのだ。マイナ保険証一本化後は消えてなくなる存在とでも言わんばかりに。
政府は様々な場面であたかも保険証は最終的にはマイナカードに一本化されるという言説をイメージとして拡散している。これを聞いた市民は未来に対する不安感を増大させ、未来の安心を手に入れるためマイナ保険証に傾く。病院や薬局に行くたびに「次回はマイナ保険証をお持ち下さい」と言われ続けると不安になる。そしてイメージだけでなく、患者にはマイナ保険証だと支払いを安くし、診療機関には診療報酬を高くするという経済的メリットをつけて誘導する。ここまで外堀を埋められても頑張り続けられる人は再度次のフレーズをいつでも心に浮かべてほしい。
「保険証がなくなってもマイナ保険証でないと保険医療が受けられなくなることはありえない」
☆ 本人認証もマイナカード以外の手段をなくすことはできない
6月18日に開催された犯罪対策閣僚会議では、詐欺被害に遭わないために、非対面の本人確認手法はマイナカードの公的個人認証に原則として一本化し、対面でもマイナカード等のICチップ情報の読み取りを本人確認において義務付けるとした。
携帯電話の契約や金融機関等の口座開設などにこの本人認証手法が適用されると、これまで以上に本人認証をめぐるトラブルは増加し、ここでもマイナ保険証一本化と同様の問題が発生してくる。
非対面でたとえマイナカードの公的個人認証に「原則と一して一本化」といってもマイナカード以外の認証手段を認めないということは保険証同様ありえない。しかし携帯各社や金融機関が「原則として一本化」をどう受け止めるかにかかっている。
昨年5~6月に携帯3社は保険証を本人確認書類としての取り扱いを終了すると発表した。写真のない書類は排除され、今回はマイナカードしか認めないという姿勢を打ち出し、じわじわと実質的強制へと進めようとしている。
しかしここでも原則は保険証と同じだ。本人認証の手段は複数あるべきで、民間の認証局における認証も認められなければならない。マイナカード以外の本人認証は必ず認められなければならないのだ。
☆ いくつかの抵抗の手段
これまでもいったんマイナカードを持ってしまった人に対して、最寄りの自治体への返納が可能であることを伝えてきた。しかしたとえマイナカードを返納してもひも付けされたデータを解除しない限り意味がない。
銀行口座とのひも付けなどは申請により解除できていたが、これまで保険証とのひも付けは不可能だった。
政府はようやく重い腰を上げて10月から登録解除を可能とした。
私たちはいったんポイントに魅せられてマイナカードを持ってしまったが、保険証として使いたくないという人に対して登録解除を呼びかけている。
登録解除は保険者に対して申請することで完了するが、その時期や具体的方法についてはいまだ明確ではない。各保険者に対して保険証登録解除について積極的に広報するよう呼びかけてほしい。
また仮に12月2日以降新規保険証が発行されず、マイナ保険証を持たない人には資格確認証が自動的に送付されるが、対象者を選別する煩雑さや対象者特定のミスなどを想定すると被保険者すべてに資格確認証を送付すべきであると考える。
すでに自治体の国保では全被保険者に対して一律に送付する計画を持っていることも伝えられているが、厚労省は認めていない。
一律配布となればまさに保険証と何ら変わらなくなってしまうということから認可できないのであろう。しかし現場の手間からいつて合理的なのは全被保険者配布ではなかろうか。
☆ 最終的な狙いは監視国家の基本ツールに
マイナカード利用の拡大は保険証にとどまらない。政府は2025年3月24日からマイナカードと運転免許証との一体化を開始することを発表した。
マイナ保険証との違いは、従来の運転免許証はそのまま残し、マイナ運転免許証のみ、従来の運転免許証のみ、両方所持の3パターンが出てくることだ。マイナ運転免許証の新規・更新時手数料を安く設定している。
今は現行免許証をなくすとは言っていないが、今後変更される危険性は大いに存在している。
マイナ運転免許証から警察官がリーダーで読み取れる情報は今のところ免許証情報だけだが、今後捜査を理由として本人情報を入手する危険性もあるだろう。
在日外国人を管理する在留力ードとマイナカードとの一体化も前国会で入管法改悪の一環として成立してしまった。
この一体化についても一体化は義務ではなく、現行在留力ードはそのまま利用し続けられる。ただし、これまでの一体化はすべてマイナカードに保険証情報や運転免許証情報を載せる形式だったが、在留力ードについては在留力ードにマイナカードの機能を載せるという新たな形式となる。
マイナンバー制度は発足以来、税・社会保障・災害対策に限定されてきた。
昨年の通常国会における番号法改悪によってその限定が実質的に撤廃され、適用範囲が無限定に拡大していく危険性が出てきた。
この改悪の意味は大きく、マイナンバー制度を私たちの一生を、一挙手一投足を監視・管理する基本的ツールとしていこうとしている。マイナカードは「国内版パスポート」として常時携帯を義務付けたいのだろう。そういう意味から言えば、今回のマイナ保険証問題は、マイナンバー制度の転換点を意味し、「実質的」強制を敢行できるかどうか推進勢力にとっては問われているのだ。だから私たちは諦めるわけにいかない。12月2日まで保険証廃止を撤回させるよう闘いを継続しよう1
『労働者通信 NO.390』(2024.9.30)
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