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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 袴田ひで子さんは、世界一の姉だと思う

2024年11月29日 | 人権

  《月刊救援・人権とメディア》
 ☆ 袴田巖氏は生死を超越した真理に到達した高僧と化した

 一九六六年、静岡県で起きた味噌製造会社の専務一家四人殺害事件の元死刑囚、袴田巖氏の再審裁判で、静岡地裁は九月二六日、袴田氏に無罪を言い渡し、一〇月九日、無罪判決が確定した。
 一○月一四日午後、静岡市で開かれた「完全無罪確定を祝う会」に参加した。
 袴田氏は「長い闘いがあった。私もやっと完全な無罪が実った」などと挨拶した。姉の袴田ひで子氏は「皆さんに盛大にお祝いしていただくことで巖には無罪の実感が湧くと思う」と支援者に感謝した。

 私が袴田さんと初めて会ったのは、袴田氏姉弟が一四年一二月、東京・お茶の水の連合会館で第二六回多田謡子反権力人権賞を受賞した時だった。
 袴田氏は「死刑囚になって奪われた選挙権がほしい」と私に語った。その後、浜松の自宅を訪ねた。
 袴田氏は、自分は「王」「刑務所長」などだと述べ、「裁判はもう終わった」「私は世界の最高権力者」などと話した。
 袴田氏が浜松市の「袴田さん支援クラブ」の猪野待子代表らと一緒に会場を去る際、私は「無罪、よかったですね」と声をかけた。すると、私の眼を見て、表情を緩めた。二人で写真を撮った。

 私のことを覚えてくれていた。袴田氏は集会の挨拶の後半で、「フィリピンと日本の共存・繁栄」「バナナの世界」を繰り返し、衆院選告示(一五日)を意識したのか不明だが、「新しい政治を作ろう。社会問題で事実を表面に出す」などと述べた。
 報道各社は、「意味が通じない発言」として、この部分を伝えなかった。
 一六年から八年間、一年のうち二六〇日余、袴田氏の傍にいる猪野氏

「『バナナ』の話は懐かしく聞いた。ドライブ時に行きたいところを聞くと、『バナナの世界』とよく言っていた。昔住んでいた東京・蒲田やボクシングジムがあった新丸子など巌さんの口から出る行先は、遠い昔の楽しかったところだった。巖さんは自分で理想社会を創って生き延びてきた」と話した。

 袴田氏は元プロボクサーで、マニラで国際試合に出場している。
 集会では、静岡地裁が一四年に再審開始を決定した根拠となるDNA型鑑定を行った筑波大の本田克也名誉教授が「四ヒ年半の拘禁に耐え、正義を勝ち取った世界最高の男性だ」「袴田氏は拘禁性の疾患と報道されているが、私はそうは思わない」と述べたのが印象的だった。
 本田氏は私の取材に、「死の恐怖に曝された非常心を脱却して、生死を超越した不動心のレベルにまで五〇年かけて到達することにより、言うなれば悟得に相当する精神状態に至った高僧と化したと言える」と強調した。
 私は本田氏の見解に同意する。私は、袴田氏なりに、世の中を見ていると思う。いわゆる健常者から見ると、非正常と思うが、袴田氏の精神世界の中では一貫性があると思う。
 集会で、日本と世界の政治、フィリピン共和国との関係、バナナ業界に関し、情熱を持って語り続けたのにも意味があると思う。

 静岡県警の津田隆好本部長が二一日、袴田氏宅を訪れて謝罪した。
 また、中日新聞、毎日新聞、朝日新聞は、捜査段階での犯人視報道に関して「袴田さんにお詫びする」と告知記事を掲載。
 二二日には中日新闘の編集局長らが袴田氏宅を訪れ、「警察の言いなりになって分かっていないことを書いた。犯人と決めつけた酷い報道をした」と頭を下げた。

 ひで子氏は二四日、私の取材に「静岡地裁で無罪と言う裁判長の声が神々しいと感じた。その時は涙が出た」と述べた。「巌は無罪になったことがだいたいわかっていると思う。表情が明るくなった」
 ひで子氏はメディアの謝罪について、「犯罪者にされると、世間体を気にして親族でさえ見捨てる。私たちは新聞、テレビを見ず、敢えて世間と離れて生活した。犯人だと思うなら、そう思えと考えた。普通の人はそうはいかない。だから泣き寝入りしてしまう」
 畝本直美検事総長が八日、今も袴田氏を犯人視する談話を出したことについては「役人は役所の考えで言っている。反省していると言えない組織だ。警察は、一旦捕まえたら、犯人であろうがなかろうが、自分たちがストーリーを作って自白させる。その構造は今も続いている。それを見直さないと冤罪はなくならない」と述べた。

 袴田氏の選挙権が四四年ぶりに回復し、二五日、衆議院選挙の期日前投票を行った。ひで子氏は「初めて巌と一緒に投票に行った。選挙権が復活してとてもうれしい」と話した。
 名古屋高裁金沢支部は二三日、福井・女子中学生殺害事件(一九八四年)で有罪判決が確定した前川彰司氏の再審開始を決定した。
 ひで子氏は「前川さんとは三十年前から交流し、励まし合ってきた。その前川さんが、巖の無罪確定後、最初に再審開始になってとても喜んでいる。滋賀・日野事件の阪原弘さんら、各地で再審開始を待ち望んでいる方たちがいるので、支援したい。また再審に関わる法律の改正を急いでやってもらいたい」と語った。

 前川氏は「袴田さん無罪の余波は、今、多方面に追い風となって吹いている。袴田と福井は強く繋がっている。今後、国連にも訴え、司法を変えたい」と話した。
 ひで子氏は「私はすこぶる元気。これまでしなかった観光を楽しみたい。巌は、何をするのでもなく一日でも長生きさせたい」と前を向いた。世界一の姉だと思う。

   (浅野健一)

『月刊救援 667号』(2024年11月10日)


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