◆ 無戸籍婚外子 区に住民票作成命令
事実婚で生まれた二女(二つ)の出生届で「非嫡出子」の記載を拒否したため、二女の出生届が受理されなかった東京都世田谷区の夫婦と二女が、区に二女の住民票への記載などを求めた訴訟の判決が三十一日、東京地裁であった。
大門匡裁判長は「子供に重大な不利益が生じることを考えると、必要な情報が出生届に記載されていれば、住民票を作るべきだ」として区に住民票を作成するよう命じた。一方で区に対する賠償請求は退けた。
訴えていたのは介護福祉士菅原和之さん(四二)と妻、二女。出生届が受理されずに戸籍が作られなくても、自治体の判断で住民票を作成するケースはあったが、自治体の不記載処分を取り消した司法判断は初めて。
大門裁判長は「住民票の作成は、市町村長の裁量に委ねられており、出生届が不受理でも住民票を作ることは禁止されていない」と判断。住民票の作成が行われないと、区立幼稚園への入園や、将来、選挙権を得られないなど不利益が累積すると指摘した。
その上で「区は例外的な場合として住民票を作成すべきだったが、出生届の不受理を理由に作成しなかったのは形式的で違法」と述べた。
菅原さんは判決後の記者会見で「出生届の続柄欄は、親が法律婚をしているかどうかで、子を差別することになる。居住実態があれば自治体は自らの判断で住民票を作成すべきだという判決」と話した。
世田谷区地域窓口調整課の話 判決内容を見て今後の対応を検討する。
(世田谷区 区政へのご意見ページ↓)
https://www2.city.setagaya.tokyo.jp/goiken/iken_kumin_csv.html
● 婚外子に住民票 本人訴訟の父安堵 事実婚の子差別しないで
「この子が何も分からないうちに、すべて終わらせたい。本当にほっとした」。東京都世田谷区に住民票の作成を命じた三十一日の東京地裁の判決後、菅原和之さんは心の底から安堵(あんど)の表情を見せた。
二女(2つ)は戸籍も住民票もない。出生届を出す時、どうしても続柄の「嫡出でない子」の方に、印をつけられなかったからだ。
夫婦は、どちらかが相手の戸籍に統一されることに違和感を覚えて事実婚を選択。結果として二人の娘は「婚外子」。お役所言葉で「嫡出でない子」となった。
印を付けなかったのは親が法律婚をしているかどうかで、子供が区別されるのはおかしいと思ったからだ。「生まれたばかりの子を親が差別することになる」
二十代で市民運動を始めた菅原さん。出会った「婚外子」の人たちの声は切実だった。「会社の面接で『へえー、私生児なんだ』とさげすみの目で見られた」「結婚の直前になって、相手の実家に戸籍を調べられて破談になった」…。
国連の児童権利委員会は二〇〇四年、公的書類の「嫡出でない子」との記載を廃止するよう日本に勧告している。それも世田谷区に訴えたが認められず、最後の手段で提訴に踏み切った。
弁護士費用が出せないため本人訴訟で闘った。膨大な資料を取り寄せ、徹夜で準備書面を書いたこともある。妻(38)は「あなたがやりたいのなら…」と見守った。
住民票がないため、二女は一歳半になるまで予防接種を受けられなかった。他の行政サービスも区から通知が来ないため、自ら申請しなければ受けられない。
「親の都合で子供を差別してほしくない」。菅原さんの“抵抗”は初めての司法判断に結びついた。隣で二女が笑顔ではしゃいでいた。
<解説>多様な婚姻 形態追いつかぬ戸籍制度
出生届が不受理でも住民票の作成を命じた初めての判決は、今後、各地の自治体の対応に影響を及ぼすとみられる。
"私生児"差別への反対運動に加えて、近年は事実婚や夫婦別姓などさまざまな婚姻形態を選択する人が増加。「両親が法律婚か事実婚かで、子供が差別的扱いを受けるのはおかしい」との声は高まりをみせる。
婚外子だけを「子」と記載してきた住民票の続柄は、一九九五年にすべて「子」に統一。戸籍も婚外子を「男」「女」としてきたのを二〇〇四年十一月から「長男」「長女」…と表記するように統一した。
しかし出生届には、いまだに「嫡出子」「嫡出でない子」の別を確認する欄が残る。この欄がなくても両親の名字の違いから分かることだが、法務省民事局は「重要な身分事項だから書く必要がある、としか言いようがない。是非については司法判断や法改正を待つしかない」とのしゃくし定規な立場を崩さない。
戸籍がない場合の住民票作成でも「二重登録を防止するため、戸籍がなければ住民票を作成できない」(総務省市町村課)のが現状だ。
その一方で、「離婚後三百日問題」で戸籍がない子供に、東京都足立区は今年二月、独自の裁量で住民票を交付した。
全国連合戸籍事務協議会代表の石川雅己・千代田区長は「国は時代感覚に鈍感なところがある。少数意見だからと無視せずに議論が必要だ。今後、自治体の検討課題になるだろう」と指摘している。 (出田阿生)
『東京新聞』(2007年6月1日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007060102020643.html
事実婚で生まれた二女(二つ)の出生届で「非嫡出子」の記載を拒否したため、二女の出生届が受理されなかった東京都世田谷区の夫婦と二女が、区に二女の住民票への記載などを求めた訴訟の判決が三十一日、東京地裁であった。
大門匡裁判長は「子供に重大な不利益が生じることを考えると、必要な情報が出生届に記載されていれば、住民票を作るべきだ」として区に住民票を作成するよう命じた。一方で区に対する賠償請求は退けた。
訴えていたのは介護福祉士菅原和之さん(四二)と妻、二女。出生届が受理されずに戸籍が作られなくても、自治体の判断で住民票を作成するケースはあったが、自治体の不記載処分を取り消した司法判断は初めて。
大門裁判長は「住民票の作成は、市町村長の裁量に委ねられており、出生届が不受理でも住民票を作ることは禁止されていない」と判断。住民票の作成が行われないと、区立幼稚園への入園や、将来、選挙権を得られないなど不利益が累積すると指摘した。
その上で「区は例外的な場合として住民票を作成すべきだったが、出生届の不受理を理由に作成しなかったのは形式的で違法」と述べた。
菅原さんは判決後の記者会見で「出生届の続柄欄は、親が法律婚をしているかどうかで、子を差別することになる。居住実態があれば自治体は自らの判断で住民票を作成すべきだという判決」と話した。
世田谷区地域窓口調整課の話 判決内容を見て今後の対応を検討する。
(世田谷区 区政へのご意見ページ↓)
https://www2.city.setagaya.tokyo.jp/goiken/iken_kumin_csv.html
● 婚外子に住民票 本人訴訟の父安堵 事実婚の子差別しないで
「この子が何も分からないうちに、すべて終わらせたい。本当にほっとした」。東京都世田谷区に住民票の作成を命じた三十一日の東京地裁の判決後、菅原和之さんは心の底から安堵(あんど)の表情を見せた。
二女(2つ)は戸籍も住民票もない。出生届を出す時、どうしても続柄の「嫡出でない子」の方に、印をつけられなかったからだ。
夫婦は、どちらかが相手の戸籍に統一されることに違和感を覚えて事実婚を選択。結果として二人の娘は「婚外子」。お役所言葉で「嫡出でない子」となった。
印を付けなかったのは親が法律婚をしているかどうかで、子供が区別されるのはおかしいと思ったからだ。「生まれたばかりの子を親が差別することになる」
二十代で市民運動を始めた菅原さん。出会った「婚外子」の人たちの声は切実だった。「会社の面接で『へえー、私生児なんだ』とさげすみの目で見られた」「結婚の直前になって、相手の実家に戸籍を調べられて破談になった」…。
国連の児童権利委員会は二〇〇四年、公的書類の「嫡出でない子」との記載を廃止するよう日本に勧告している。それも世田谷区に訴えたが認められず、最後の手段で提訴に踏み切った。
弁護士費用が出せないため本人訴訟で闘った。膨大な資料を取り寄せ、徹夜で準備書面を書いたこともある。妻(38)は「あなたがやりたいのなら…」と見守った。
住民票がないため、二女は一歳半になるまで予防接種を受けられなかった。他の行政サービスも区から通知が来ないため、自ら申請しなければ受けられない。
「親の都合で子供を差別してほしくない」。菅原さんの“抵抗”は初めての司法判断に結びついた。隣で二女が笑顔ではしゃいでいた。
<解説>多様な婚姻 形態追いつかぬ戸籍制度
出生届が不受理でも住民票の作成を命じた初めての判決は、今後、各地の自治体の対応に影響を及ぼすとみられる。
"私生児"差別への反対運動に加えて、近年は事実婚や夫婦別姓などさまざまな婚姻形態を選択する人が増加。「両親が法律婚か事実婚かで、子供が差別的扱いを受けるのはおかしい」との声は高まりをみせる。
婚外子だけを「子」と記載してきた住民票の続柄は、一九九五年にすべて「子」に統一。戸籍も婚外子を「男」「女」としてきたのを二〇〇四年十一月から「長男」「長女」…と表記するように統一した。
しかし出生届には、いまだに「嫡出子」「嫡出でない子」の別を確認する欄が残る。この欄がなくても両親の名字の違いから分かることだが、法務省民事局は「重要な身分事項だから書く必要がある、としか言いようがない。是非については司法判断や法改正を待つしかない」とのしゃくし定規な立場を崩さない。
戸籍がない場合の住民票作成でも「二重登録を防止するため、戸籍がなければ住民票を作成できない」(総務省市町村課)のが現状だ。
その一方で、「離婚後三百日問題」で戸籍がない子供に、東京都足立区は今年二月、独自の裁量で住民票を交付した。
全国連合戸籍事務協議会代表の石川雅己・千代田区長は「国は時代感覚に鈍感なところがある。少数意見だからと無視せずに議論が必要だ。今後、自治体の検討課題になるだろう」と指摘している。 (出田阿生)
『東京新聞』(2007年6月1日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007060102020643.html
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