▼ 1.原発からの放射能をめぐる法体系
1970年代前半、公害反対運動を反映して環境基本法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法が制定された。
しかし、放射性物質については環境基本法に「放射性物質の適用除外」を定め、以前からある原子力関連法に依拠したままになっていた。
福島原発事故後に放射性物質が環境省の所管になり、同時に「適用除外規定」が削除され、他の法令の同様の規定も削除された。
これにより放射性物質は公害物質と位置付けられたが、他の公害物質にはある排出基準、違反時の罰則、環境基準、総量規制、常時監視体制などは定められていない。
原発事故により放出された放射性物質の環境基準、汚染物質を焼却した煙の排出基準、焼却灰を埋め立てた最終処分場の排水口からの排出基準もない。
ダイオキシンなどの公害物質の罰則付きの排出基準とは大違いである。
唯一の基準は原子炉等規制法の排水中濃度限度(Cs137で90Bq/リットル)と排ガス中濃度限度(Cs137で30Bq/m3)である。
日本の各地の施設や装置は原子炉と同じ基準でしか規制されない、監視体制もない、罰則規定がなく警察の捜査もない。
原子炉等規制法(2005年改訂)では通常の廃棄物として扱えるのはCs134、Cs137で100Bq/kg以下であった。
しかし、事故後に放射性物質汚染対処特別措置法(2011年8月)が制定され、8000Bq/kg以下の汚染物を通常の廃棄物として扱えることになった。
今後、福島原発事故による8000Bq/kg以下の汚染物質は一般社会で使用されることになる。
さらに、原子炉等規制法が改正されれば事故由来でない8000Bq/kg以下の汚染物も通常の廃棄物として処理される危険性がある。
実際、岩手県一関市では住民の反対を無視して8000Bq/kgを超える汚染牧草を生活廃棄物と混合して焼却している。
8000Bq/kg以下の放射性廃棄物は民間の最終処分場に廃棄されている。
例えば、長野県中野市と小諸市の管理型処分場には関東各県などの100Bq/kgを超える放射性廃棄物が埋設され、千葉県君津市にも同様に搬入されている。
また、環境省は福島県内の8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業の盛り土に使用する決定を行った。
毎日新聞の報道によれば5000Bq/kgの汚染土を再利用すれば100Bq/kgに減衰するのに170年かかるという無茶な方針である。
厳しく監視し放射性汚染物を管理していかなくてはならない。
また、環境関連法規に環境基準や排出基準を定めて強力な監視体制を確立するためにも新たな放射能汚染対策法を制定する必要がある。
▼ 2.新規制基準の問題点
新規制基準による原発の再稼働についても不備が多い。
原発導入の時点から、事故に関連して立地条件の適否を判断するために立地審査指針が定められていたが、新規制基準はこれを採用しなかった。
原発事故の際に住民の安全を守る上で重要な立地審査指針をなくしたのは大変問題である。
また、過酷事故対策についても運転員への依存、動的機器の多重性、可搬型設備に依存した安全対策、水蒸気爆発の危険性の無視、水素爆発対策の軽視など大変問題が多い。
耐震性の目安となる基準地震動についても、宮城県沖地震の際の女川原発、能登半島沖地震の志賀原発、中越沖地震の柏崎原発、東日本大震災の女川原発と福島第一原発で実際の揺れが基準を超えている。
これについては、規制委員会の前委員長代理島崎氏が大飯原発機運転差し止め訴訟で「電力会社の使用する入倉・三宅の式は過小評価をもたらす可能性」を指摘した。
また、2015年4月の熊本地震では短期間に震度7の激震が2回起こったが、新規制基準ではこのような繰り返し地震を想定していない。重大な欠陥である。
火山の噴火についても、鹿児島湾北部の姶良カルデラなど巨大噴火について予知ができないとの学者の意見を無視して川内原発を再稼働させている。また、火山灰の影響も過小評価している。
原発に対する武力攻撃対策も不十分なままである。
避難計画についても立地自治体や周辺自治体に避難計画の作成を命じながら、規制庁が点検もせずに、実効性のないまま再稼働を許している。
原発の建設や再稼働に際し、周辺自治体の意向は全く無視され続けている。
(後藤康彦)
(続)
『都高退教ニュース 92号』(2018年4月1日)
1970年代前半、公害反対運動を反映して環境基本法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法が制定された。
しかし、放射性物質については環境基本法に「放射性物質の適用除外」を定め、以前からある原子力関連法に依拠したままになっていた。
福島原発事故後に放射性物質が環境省の所管になり、同時に「適用除外規定」が削除され、他の法令の同様の規定も削除された。
これにより放射性物質は公害物質と位置付けられたが、他の公害物質にはある排出基準、違反時の罰則、環境基準、総量規制、常時監視体制などは定められていない。
原発事故により放出された放射性物質の環境基準、汚染物質を焼却した煙の排出基準、焼却灰を埋め立てた最終処分場の排水口からの排出基準もない。
ダイオキシンなどの公害物質の罰則付きの排出基準とは大違いである。
唯一の基準は原子炉等規制法の排水中濃度限度(Cs137で90Bq/リットル)と排ガス中濃度限度(Cs137で30Bq/m3)である。
日本の各地の施設や装置は原子炉と同じ基準でしか規制されない、監視体制もない、罰則規定がなく警察の捜査もない。
原子炉等規制法(2005年改訂)では通常の廃棄物として扱えるのはCs134、Cs137で100Bq/kg以下であった。
しかし、事故後に放射性物質汚染対処特別措置法(2011年8月)が制定され、8000Bq/kg以下の汚染物を通常の廃棄物として扱えることになった。
今後、福島原発事故による8000Bq/kg以下の汚染物質は一般社会で使用されることになる。
さらに、原子炉等規制法が改正されれば事故由来でない8000Bq/kg以下の汚染物も通常の廃棄物として処理される危険性がある。
実際、岩手県一関市では住民の反対を無視して8000Bq/kgを超える汚染牧草を生活廃棄物と混合して焼却している。
8000Bq/kg以下の放射性廃棄物は民間の最終処分場に廃棄されている。
例えば、長野県中野市と小諸市の管理型処分場には関東各県などの100Bq/kgを超える放射性廃棄物が埋設され、千葉県君津市にも同様に搬入されている。
また、環境省は福島県内の8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業の盛り土に使用する決定を行った。
毎日新聞の報道によれば5000Bq/kgの汚染土を再利用すれば100Bq/kgに減衰するのに170年かかるという無茶な方針である。
厳しく監視し放射性汚染物を管理していかなくてはならない。
また、環境関連法規に環境基準や排出基準を定めて強力な監視体制を確立するためにも新たな放射能汚染対策法を制定する必要がある。
▼ 2.新規制基準の問題点
新規制基準による原発の再稼働についても不備が多い。
原発導入の時点から、事故に関連して立地条件の適否を判断するために立地審査指針が定められていたが、新規制基準はこれを採用しなかった。
原発事故の際に住民の安全を守る上で重要な立地審査指針をなくしたのは大変問題である。
また、過酷事故対策についても運転員への依存、動的機器の多重性、可搬型設備に依存した安全対策、水蒸気爆発の危険性の無視、水素爆発対策の軽視など大変問題が多い。
耐震性の目安となる基準地震動についても、宮城県沖地震の際の女川原発、能登半島沖地震の志賀原発、中越沖地震の柏崎原発、東日本大震災の女川原発と福島第一原発で実際の揺れが基準を超えている。
これについては、規制委員会の前委員長代理島崎氏が大飯原発機運転差し止め訴訟で「電力会社の使用する入倉・三宅の式は過小評価をもたらす可能性」を指摘した。
また、2015年4月の熊本地震では短期間に震度7の激震が2回起こったが、新規制基準ではこのような繰り返し地震を想定していない。重大な欠陥である。
火山の噴火についても、鹿児島湾北部の姶良カルデラなど巨大噴火について予知ができないとの学者の意見を無視して川内原発を再稼働させている。また、火山灰の影響も過小評価している。
原発に対する武力攻撃対策も不十分なままである。
避難計画についても立地自治体や周辺自治体に避難計画の作成を命じながら、規制庁が点検もせずに、実効性のないまま再稼働を許している。
原発の建設や再稼働に際し、周辺自治体の意向は全く無視され続けている。
(後藤康彦)
(続)
『都高退教ニュース 92号』(2018年4月1日)
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