◆ 「特需」の陰で悲鳴をあげる現場 (労働情報)
これを読んでいる方で現在、マイナンバーが周知された簡易書留を受け取られた方はいらっしゃるだろうか。
発送が遅れている。10月に入るや発送が始まるとの宣伝がマスコミ等で盛んに流されたが、すでに首都圏の郵便局ではほとんどの地域で発送は11月中旬以降と予定が変更された。郵便局自体の取り組みの遅れもさることながら、発送元の各自治体レベルでの遅れも原因のようだ。
マイナンバー制度の本格運用は16年1月1日からだが、それまでに発送が終わるかどうか、かなりタイトなスケジュールになってきた。
◆ 郵便配達は二度ベルを?
簡易書留発送枚数約5千500万枚。郵便局特需とも揶揄されるが、それは経営陣にとってはそうでも現場ではかつて経験したことのない未曾有の事態。
例えば、オートロックの高層マンション。都市部ではたとえその複数所帯に書留等対面配達の郵便があっても、いちいち一旦下に降りて玄関ロビーのチャイムを押さなければならないところが増えてきた。最上階に上ってそのまま順繰りにドアフォンを押して配達、といったことができないのだ。それをやったとたんに住民や管理会社から保安上の問題ありとクレームが届く。
郵便配達地域は主にビジネス地域と住宅地域とに分かれるが、配達物数としては圧倒的にビジネス地域が多ても、それは一箇所あたに大量の物数が捌けるので配達時間はたいしてかからない。
それに対して住宅地域はその総配達物数は少なくて、配達箇所数は圧倒的に多く時間もかかる。だいたいこの地域がいわゆる「困難区」と呼ばれる所になる。都市部に限らず全国の郵便局でこの困難区は今や全地域の半数を越える。
「人が足りなくてさあ…」郵便屋さん同士の会話は寄ると触るとこのあいさつ代わりの言葉から始まる。現場の人手不足が全国的に認識され出したのはもう随分前、民営化以前からのものだが、ここに来てそれは深刻度を増している。
今年6月に開催されたJP労組第8回大会でも、全国の代議員の発言のほとんどがこの労働力不足に言及していた。JP労組中央もそれは認識しており「労働力政策」と称し数次にわたる要求書の提出を行い、会社と共同のプロジェクトチームなども発足させているが、その成果は今年の大会代議員報告にあるように、現場からは未だ悲鳴しか聞こえてこない。
36協定違反などは郵政ユニオンも毎年のように全国のいくつもの局所を告発しているが、最近ではユニオンの組合員だけではなく普通の職員が労基署に駆け込むという事例も増えてきている。組合の援助もなくきちんとした資料も揃えずに労基署に駆け込んでも体よくあしらわれるのが常だが、切迫してやむにやまれずという思いなのだろう。
36協定を越えてもいわゆる「特別条項」というものを事前に組合が結んでおり、それを盾にさらに超勤発令は可能なのだが、それは本来突発的な選挙など、想定外の文字通り特別な事態を想定したもの。しかし今や年中特別条項が適用されているという局所も出てきている。
さらに翌配体制そのものが崩れてきている局所も。一定地域の配達を一日休止して他の地域の配達を優先する。翌日はまた他の地域を犠牲にしてと順繰りにやりくりしていく。
人手不足を補う究極の現場対応なのだが、ユニオンなどが指摘した局所は会社も緊急対応するが、それも場当たり的なもので、喉元過ぎればまた現場はパンクしてしまう。
全国的にそのような状況下で、マイナンバー5千500万通の書留が現場に降りてくる。それも11月という、実は年間を通じてもっとも郵便取り扱い物数が増える時期にである。現場はすでにお歳暮繁忙が始まり10月30日には年賀の発売も控えているというのにだ。
◆ 東芝粉飾事件と同じ体質
現場管理者は、本来それを見越してそれなりの準備を整えるべきだが、郵便局の現場管理者はそのような訓練を実施していない。上意下達の指示待ち管理者、昔からその体質は変わらない。
西室泰三現日本郵政社長は東芝出身。つい最近事件になった東芝粉飾決算。この不祥事を起こしたのは東芝の上意下達的会社体質によるものとされたが、実はその体質を東芝に根付かせたのは西室社長時代のことであるという。
西室氏こそが真の「戦犯」なのだと。だとするならば、日本郵政がこの社長を迎えたのは、実に体質に合つた妥当な人事だったということになる。
今現在、マイナンバーの配達がいつ頃になるのか、一部の組合役員クラスを除くと現場管理者に聞いてもよく分からないという答が返ってくるのだから、推して知るべしだ。
年賀営業の数字だけが相変わらず職場を席巻している。マイナンバー周知書留配達の、その優先順位の現場判断を誤れば、さらなる混乱が待ち受けていることは間違いない。
最後にマイナンバー制度の今後の普及について。すでに国家公務員は来年4月からマイナンバーカード(写真及びICチップ付きのもの)を身分証として使用することが決定済み。順次地方公務員及び国立大の職員証などへの普及を目指すという。マイナンバー特需に湧く民間IT企業などもそれにならうだろう。
当然IT産業最大の顧客としての郵便局もいずれその普及の一翼を担うに違いない。
住基カード失敗の教訓は何も総括されないまま、とりあえず郵便屋さんは配達に泣かされ、いずれカードを首からぶら下げさせられることになるかと思うと、2度泣かされることになりそうだ。
『労働情報 922号』(2015/11/1)
下見徳章(「伝送便」編集委)
これを読んでいる方で現在、マイナンバーが周知された簡易書留を受け取られた方はいらっしゃるだろうか。
発送が遅れている。10月に入るや発送が始まるとの宣伝がマスコミ等で盛んに流されたが、すでに首都圏の郵便局ではほとんどの地域で発送は11月中旬以降と予定が変更された。郵便局自体の取り組みの遅れもさることながら、発送元の各自治体レベルでの遅れも原因のようだ。
マイナンバー制度の本格運用は16年1月1日からだが、それまでに発送が終わるかどうか、かなりタイトなスケジュールになってきた。
◆ 郵便配達は二度ベルを?
簡易書留発送枚数約5千500万枚。郵便局特需とも揶揄されるが、それは経営陣にとってはそうでも現場ではかつて経験したことのない未曾有の事態。
例えば、オートロックの高層マンション。都市部ではたとえその複数所帯に書留等対面配達の郵便があっても、いちいち一旦下に降りて玄関ロビーのチャイムを押さなければならないところが増えてきた。最上階に上ってそのまま順繰りにドアフォンを押して配達、といったことができないのだ。それをやったとたんに住民や管理会社から保安上の問題ありとクレームが届く。
郵便配達地域は主にビジネス地域と住宅地域とに分かれるが、配達物数としては圧倒的にビジネス地域が多ても、それは一箇所あたに大量の物数が捌けるので配達時間はたいしてかからない。
それに対して住宅地域はその総配達物数は少なくて、配達箇所数は圧倒的に多く時間もかかる。だいたいこの地域がいわゆる「困難区」と呼ばれる所になる。都市部に限らず全国の郵便局でこの困難区は今や全地域の半数を越える。
「人が足りなくてさあ…」郵便屋さん同士の会話は寄ると触るとこのあいさつ代わりの言葉から始まる。現場の人手不足が全国的に認識され出したのはもう随分前、民営化以前からのものだが、ここに来てそれは深刻度を増している。
今年6月に開催されたJP労組第8回大会でも、全国の代議員の発言のほとんどがこの労働力不足に言及していた。JP労組中央もそれは認識しており「労働力政策」と称し数次にわたる要求書の提出を行い、会社と共同のプロジェクトチームなども発足させているが、その成果は今年の大会代議員報告にあるように、現場からは未だ悲鳴しか聞こえてこない。
36協定違反などは郵政ユニオンも毎年のように全国のいくつもの局所を告発しているが、最近ではユニオンの組合員だけではなく普通の職員が労基署に駆け込むという事例も増えてきている。組合の援助もなくきちんとした資料も揃えずに労基署に駆け込んでも体よくあしらわれるのが常だが、切迫してやむにやまれずという思いなのだろう。
36協定を越えてもいわゆる「特別条項」というものを事前に組合が結んでおり、それを盾にさらに超勤発令は可能なのだが、それは本来突発的な選挙など、想定外の文字通り特別な事態を想定したもの。しかし今や年中特別条項が適用されているという局所も出てきている。
さらに翌配体制そのものが崩れてきている局所も。一定地域の配達を一日休止して他の地域の配達を優先する。翌日はまた他の地域を犠牲にしてと順繰りにやりくりしていく。
人手不足を補う究極の現場対応なのだが、ユニオンなどが指摘した局所は会社も緊急対応するが、それも場当たり的なもので、喉元過ぎればまた現場はパンクしてしまう。
全国的にそのような状況下で、マイナンバー5千500万通の書留が現場に降りてくる。それも11月という、実は年間を通じてもっとも郵便取り扱い物数が増える時期にである。現場はすでにお歳暮繁忙が始まり10月30日には年賀の発売も控えているというのにだ。
◆ 東芝粉飾事件と同じ体質
現場管理者は、本来それを見越してそれなりの準備を整えるべきだが、郵便局の現場管理者はそのような訓練を実施していない。上意下達の指示待ち管理者、昔からその体質は変わらない。
西室泰三現日本郵政社長は東芝出身。つい最近事件になった東芝粉飾決算。この不祥事を起こしたのは東芝の上意下達的会社体質によるものとされたが、実はその体質を東芝に根付かせたのは西室社長時代のことであるという。
西室氏こそが真の「戦犯」なのだと。だとするならば、日本郵政がこの社長を迎えたのは、実に体質に合つた妥当な人事だったということになる。
今現在、マイナンバーの配達がいつ頃になるのか、一部の組合役員クラスを除くと現場管理者に聞いてもよく分からないという答が返ってくるのだから、推して知るべしだ。
年賀営業の数字だけが相変わらず職場を席巻している。マイナンバー周知書留配達の、その優先順位の現場判断を誤れば、さらなる混乱が待ち受けていることは間違いない。
最後にマイナンバー制度の今後の普及について。すでに国家公務員は来年4月からマイナンバーカード(写真及びICチップ付きのもの)を身分証として使用することが決定済み。順次地方公務員及び国立大の職員証などへの普及を目指すという。マイナンバー特需に湧く民間IT企業などもそれにならうだろう。
当然IT産業最大の顧客としての郵便局もいずれその普及の一翼を担うに違いない。
住基カード失敗の教訓は何も総括されないまま、とりあえず郵便屋さんは配達に泣かされ、いずれカードを首からぶら下げさせられることになるかと思うと、2度泣かされることになりそうだ。
『労働情報 922号』(2015/11/1)
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