パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

四半世紀で、教科書の中のジェンダー平等はどう変化したか

2020年05月15日 | こども危機
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ 小学校国語教科書を
   ジェンダーの視点からみる

平林麻美(ひらばやしまみ 東京都公立学校教職員組合女性部長)

 ◆ なぜ教科書点検か
 組合の棚に「えっ女性の姿が見えない一国語・社会の教科書の中のジェンダ一」という冊子がある。
 今からおよそ四半世紀前の1994年に、女性部の先輩方が教科書点検をし、その結果をまとめた冊子である。
 冊子には「教育現場では、教科書の占める位置は大変大きくて重い。子どもたちは毎日カバンの中に入れ、机の上に教科書を広げ、日々教科書を目にする。そして『教科書に書いてある』ということは正しく、もっともなことの根拠に使われてきた。」とあるが、それは25年たった今も全く変わっていない。
 それどころか、教科書の重みはますます増している。どんな内容を教科書に載せるかが社会問題になるほどである。
 東京では2004年の七生養護事件をきっかけに、性教育がバッシングされ始めた。そして「ジェンダーフリー」という言葉が使われなくなっただけでなく、ジェンダー平等の視点も重視されなくなってしまった経緯がある。
 かく言う私たち女性部も、教科書点検をずっとしないできた。しかし、1996年に女性部の先輩方は、教科書会社に次の3点について要望している。
   ①教科書の執筆者を男女同数とすること
   ②教科書の登場人物を男女同数とすること
   ③教材の内容の面で、職業、行動、性格など、性別役割分業や特性論にとらわれず、女子が希望を持って成長できる内容とすること
 これらの要望は現在生かされているのか、当時と現在(2019年)の教科書を点検し比較することにした。
 ◆ 観点ごとのまとめ

 1.作者、主人公の性別比

 作者、訳者は女性55人:男性92人、女性が37%
 主人公は女性28人:男性102人、女性が20%

 1994年は、女性作者が42%だったので、今回の方が減っている。女性主人公は23%だったので、こちらも今回の方が減っているのだ。
 女性主人公が「0」の教科書が6学年分もある。
 学図1年、教出1,2,3年、東書6年、光村6年で、94年と同じ数である。
 この結果は驚きだった。改善はされていないどころか悪くなっていたのだ。

 東京都の中で採択している地区が一番多い光村図書をみると、女性主人公が26%で4ポイント、作者・訳者も47%で8ポイントそれぞれ改善されている。
 そのため改善されていると感じていたが、他の2社は女性主人公が、3社は作者・訳者が、改悪となっていた。
 特に教育出版は、女性主人公が21%から10%へと半分以下となっている。
 さらに、物語の多い2年生で、女性主人公が32作品中4作品しかでてこない。
 また、希望を持って進学してほしい6年生でも、女性主人公が17作品中3作品しかない。
 ここは特に改善を求めたい。

 2.特性論による描かれ方~女らしさ、男らしさの強調~

 光村図書、東京書籍、学校図書は、ジェンダー平等な視点が感じられる作品が新しく入っている点は、評価できる。
 しかしその他では、女性は、守られる存在、優しい、臆病、かわいい、名前のない存在として描かれている。
 母や男性を支えるものとして登場することが多く、「母性」が強調されている。

 一方男性は、冒険心、統率力、勇敢さがあり、自分で判断し、行動している。主体的に生き、活躍する男性のモデルは、数多く出てくる。
 女性が主体的に活躍する話もあったが、まだまだ少数である。
 教科書によっては、色やイラストがジェンダー平等になっている箇所があり・その点は評価できる。
 3.性別役割分業、家父長制

 働く車の話で、内容は男女差なく書かれていてもイラストが全部男性。近年女性進出の多い運転手に女性を描いて欲しかった。
 民話や昔話では、外で仕事をするおじいさん、家を守る内助のおばあさんの話と類型的で、性別役割分業や家父長制が刷り込まれる。
 女性が料理や家事をする場面があるが、男性の料理や家事の場面は少ないし、母親不在の時だけである。
 しかし、おばあさんやおかみさんが主人公になっている話が増え、自立的に生きていたり働いたりする姿が見える話が増えていてそこは良い。
 4.女の仕事、男の仕事

 女性の仕事として扱われているのは、農業、旅館のおかみ、ミシンかけ、糸つむぎなどである。
 家事は母親が行っていると読めるものも多い。母親が外で働いていると分かるものもあるが、職業についての説明は少ない。
 男性の仕事は、女性に比べて多様であると同時に、猟人、漁師など、命をかけるようなものが多い
 女の子にとって将来のモデルとなるようなものがほとんどない。性別に関わらず、子どもたちに将来のモデルを提示する内容のものがほしい。
 5.性の排除

 男性しか出てこない物語が大変多い。祖父、父、息子といった男系の家族の絆を描いたものや男同士の友情を描いたものが多数を占める。
 女性が出ていても、名前がなかったり、台詞がなかったりして、物語の重要な役割とはなっていない。
 子どもたちが対等な人間関係を学んでいくためには、両性を尊重する視点に配慮した作品をもっと必要である。
 6.性の商品化、セクシュアル・ハラスメント

 女性は、化粧する、容姿を気にする、など美しいことを評価する表現は94年と比べて減ってきたが、わざわざ「美しくはないが」と断る記述は、まだみられる。
 勝者と娘を結婚させるパターンが複数みられ、女性は意思や判断力をもたない「物」として扱われている場合がある
 雄熊がかわいい子熊と雌熊を見かけて「ちょいといたずらしたくなっていた」という表現があり、セクシュアル・ハラスメントを感じさせる。
 ◆ 全体的にみた意見

 女と男の自立と共生の視点で国語の教科書をみてきたが、94年で懸念されていた「差別を固定化し、助長する記述」は、まだ多く残っている
 「教科書の執筆者と登場人物を男女同数とすること」という教科書会社への要望は、全く実現していなかった。
 女性が活躍する話や女性同士の友情の話などはとても少ないのが現状だ。

 94年にはなかったもので、ジェンダー平等の視点等で書かれている物語は、
 光村図書の「だってだってのおばあさん」「ミリーのすてきなぽうし」「わたしはおねえさん」、
 教育出版の「子どもたちを救いたい一オードリー=ヘップバーンの願い一」、
 東京書籍の「わたしのかさはそらのいろ」「ゆうすげ村の小さな旅館」「山の図書館」、
 学校図書の「お父さんの手」「わたしたち手で話します」である。
 これら9作品がまだ載っていない教科書に載るとよい。
 これからも、教科書を自立と共生の視点で点検すると同時に、教材の発掘をしていく必要がある。
 《ジェンダー平等の視点等で書かれている物語の紹介》

 ◇ 「わたしのかさはそらのいろ」あまんきみこ著 東京書籍1年
 お母さんが桃色の傘を広げて勧めるが、主人公の女の子は「あおがすきなの。だってはれたひのそらのいろよ」といって、自分の好きな色を主張し傘を買っているのがよい。イラストはどの場面も男女両方同じぐらいの数で取り上げられている。
 ◇ 「ミリーのすてきなぼうし」きたむらざとし著 光村図書2年
 女性主人公のミリーが想像の帽子を楽しむ話。町の人々を表すイラストに男女差がなく、ミリーが家に帰るとパパとママが一緒に夕飯を作っているイラストがある。
 ◇ 「子どもたちを救いたい一オードリー=ヘップバーンの願い一」真鍋和子著 教育出版5年
 58歳からのオードリー=ヘップバーンの活動について書かれている。ナチスドイツが勢力拡大していた頃には、レジスタンスを応援し、戦争中地下室に隠れて生活するなど不自由な生活を強いられるが、戦争中も、戦後もたくましく生きたオードリーの姿が描かれている。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 130号』(2020年4月)

コメント    この記事についてブログを書く
« 韓国政府は日本の半導体部品... | トップ | 大阪府内全ての市町村教委に... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

こども危機」カテゴリの最新記事