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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

子どもの貧困対策の目的が国に役立つ「人材の育成」で良いのか

2017年04月05日 | 人権
  《子どもと教科書全国ネット21ニュース》
 ◆ 子どもの貧困問題と子どもの権利
荒牧重人(山梨学院大学教授)

 子どもの貧困問題が社会的に注目され、子どもの居場所づくり、学習支援、「子ども食堂」等の取り組みも広がっている。そこでは、子どもに責任を負わせることはできない、貧困の連鎖を立ちきることが必要であるといわれる。
 とりわけ2013年に議員立法で成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律」およびそれに基づく「子供の貧困対策大綱」により多様な形で対策が取り組まれている(もちろん、子どもの貧困は政策によって減ずることができても解消されることはなく、そのためには社会構造自体の変革が必要になろう)。
 ◆ 国の子どもの貧困対策
 貧困対策法では、「子どもの貧困対策は、子ども等に対する教育の支援、生活の支援、就労の支援、経済的支援等の施策を、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない社会を実現することを旨として講ずることにより、推進」することを基本理念にしている(2条)。
 この基本理念にのっとり、「子どもの貧困対策を総合的に策定し、及び実施する責務」を国に課し(3条)、政府に対して、毎年1回「子どもの貧困の状況及び子どもの貧困対策の実施の状況」の公表(7条)、基本的施策として「子どもの貧困対策に関する大綱」の策定(8条)等を義務づけている。
 大綱では、「全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して」という副題のもと、「貧困の連鎖の解消と積極的な人材育成を目指す」という基本的な方針に基づき、合計25項目の指標を設定している。
 その指標改善のために、
   ①教育の支援、
   ②生活の支援、
   ③保護者に対する就労の支援、
   ④経済的支援
   ⑤子供の貧困に関する調査研究等、
   ⑥施策の推進体制等
 の6領域にわたって重点施策を展開することを定めている。

 この貧困対策法と大綱は、国をあげて子どもの貧困問題に取り組むという意味で非常に重要である。
 しかし、施策内容が寄せ集めで総合的に推進できるようにはなりえていない、数値目標が的確に設定されていない、などの指摘がなされている。
 教育の面でいえば、貧困対策の目的が国に役立つ「人材の育成」となり、施策の重点が進学率や就職率の向上に置かれすぎており、子どもの豊かな育ちを保障する視点に欠けている
 ◆ 子どもの貧困の捉え方
 子どもの貧困は、子どもの今と未来を奪うという問題性と対策の必要性をおとなや社会に対して認識させた。
 しかし、子どもの貧困は見えにくい、子どもの声が届きにくい、貧困は支援につながりにくい、貧困施策は利用しにくい、貧困施策は効果が出にくいなど、子どもの貧困問題はなかなか解決の方向に向かわないといわれる。
 いま注目されている相対的貧困率(OECDの作成基準=等価可処分所得〔いわゆる手取り収入〕の中央値の50%に満たない所得で暮らす人々が貧困状態)は、貧困を「測る」ことを可能にし、政策として対応すべき課題であることを認識させた。
 しかし、個々の子どもの貧困の背景、貧困が深刻化している状況の変化、貧困を生み出す社会構造などを明らかにはできない。子どもの貧困をどう捉えるかが見えないままである。
 これに対して国連やユニセフは、子どもの貧困について、単にお金がないというだけではなく子どもの権利条約に明記されているすべての権利の侵害であると捉えている。
 子どもの貧困の測定は所得水準が中心となる一般的な貧困と一緒にすることはできないとして、栄養・飲料水・衛生設備・保健・住居・教育・情報等の基本的なサービスの利用可能性や、社会的阻害・差別や保護の欠如など貧困がもたらす他の側面も問題にする。
 日本の場合、子どもの格差・貧困問題を所得と教育に限定して捉える傾向がうかがえる。
 ◆ 子どもの権利を基盤とした取り組みの必要性と重要性
 子どもは、独立した人格と尊厳を持つ権利の主体である。つまり、子どもは単に「未来の担い手」ではなく、いまを生きる主体である。
 子どもを「社会の宝」に留めてはならず、子どもは社会の一員・構成員として位置づけることが大切である。
 また、子どもとの関係を、育てる一育てられる、教える一教えられる、支援一被支援などを一方的な関係にしないためにも子どもの権利の視点と手法は必要である。
 さらに、子どもの権利は不可分であり、総合的である
 1つあるいは一定部分の権利の実現だけでは不十分であり、総合的な対策を推進するには権利保障が不可欠である。
 〈子どもの力とレジリエンス(回復力)〉
 子どもの権利アプローチの根底には、子どもが本来持っている力を信頼することが必要になる。順応性・適応力・回復力といった子どもが生来持っている力を活かしていくこと、子どもが持っている力を強めていくことが大切である。
 そのためにも、子どもそしてそれを支えるおとなの自己肯定感(「ありのままの」自分を肯定的にとらえ、大切に思う気持ち)を育むことが重要になる。
 身近なおとなが寄り添い、安心やつながりを感じられる居場所があることと、思いを受けとめ話を聴いてくれるおとなの存在が最低限必要である。
 元気を取り戻していく子どもの姿は、周りのおとなも元気にし、地域を回復させていく力にもなる。
 〈子どもの意見表明・参加〉
 子どもの成長にとって親・家庭は非常に重要であるが、子どもがどのような状況に置かれ、何を必要としているかは1人ひとり違うので、子どもの意見に耳を傾けなければ知ることはできない。子どもの意見を聴いて尊重することは、子どもの思いや願いに応え、子どもの最善の利益を確保するために不可欠である。
 子どもの意見表明・参加のもとで、子どもとともに貧困対策や子ども支援を進めていくことは、それらをより効果的なものにするとともに、子ども自身の回復や成長にもつながる。
 〈総合的・継続的・重層的な子ども支援〉
 子どもの権利は不可分のもので、医療・健康・福祉・教育・文化・労働・社会環境・少年司法等に関わって総合的に保障される。また、生まれてから継続的に(切れ目のなく)保障される。さらに、子どもの権利だけが保障されることはなく、とりわけ親・保護者をはじめ子どもに関わる人たちの権利保障を含め重層的に保障されるのである。
 ◆ 子どもの貧困対策と子どもにやさしいまちづくり
 子どもの貧困対策か、総合的な子ども支援策かをめぐっての模索が自治体のなかではあるが、子どもの貧困対策を子どもにやさしいまちづくりのなかで取り組むことが効果的である。
 ユニセフによれば、子どもにやさしいまちとは、自治体が主導する子どもの権利条約の実施のプロセスであり、そのプロセスは地方自治のもとで子どもの権利条約を実施していくことと同義であるという。
 子どもがダメ、親・家庭がダメ、園・保育士/学校・教職員がダメ、地域がダメというような視点と対応を越えて、まち全体を子どもの遊びの場、学びの場、活動の場にしていく子どもにやさしいまちづくりが求められている。
 このまちづくりのなかに子どもの貧困対策を位置づけ、まち全体で子どもの育ち・生活を支えていくことが重要になっている。なお、子どもにやさしいまちはすべての人にやさしいまちであることにも留意しておきたい。
 ◆ おわりにかえて
 全国的に注目されている取り組みの多くは、目の前の子どもの「生きる」こと自体に向き合い、その子どもの「安心」と「最善の利益」を一つひとつ考え応えていくことから生まれている。
 例えば、大阪・釜が崎の子どもの居場所「こどもの里」を営む荘保共子さんは、「子どもたちの生き様から、子どもの持つ力を教えられた。問題解決力・自己治癒力・感じる力・個性の力・人と繋がろうとする力・親を慕う力・レジリアンシー(跳ね返す力)等は輝く子どもの『内なる生きる力』。この子どもたちが持つ力を受け止め、信じるおとながいて、寄り添うことで、子どもたちは『生きるしんどさ』を乗り越えていくことができる」(「子どもの権利研究」28号〔日本評論社〕参照)という。
(あらまきしげと)

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 112号』(2017.2)

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