《11・7予防訴訟をすすめる会による最高裁要請行動から》
◎ 「君が代関連裁判」最高裁判決の社会的影響の大きさ
本年5月30日の最高裁第2小法廷の「申谷再雇用採用拒否事件」判決以降、7月14日の「解雇事件」と「九州ココロ裁判」判決まで9件の「日の丸・君が代」関連の判決が出されました。7月7日のフレームアップ刑事事件である藤田事件判決を含めれば10件の「日の丸・君が代」関連判決が1ヶ月半の間に最高裁で出されたことになります。
第1小法廷~第3小法廷の全てが同じ判旨であり、大法廷判決に準ずるものといわれています。その判旨は、一審原告(教員)の敗訴を判示するものであり、上告人からすれば極めて不当な判決と言えます。しかし、この最高裁判決の影響は大きく、マスコミや研究者による意見などがいくつか出されています。
筑波大学の土屋英雄教授や早稲田大学の西原博史教授は、一連の判決が極めて政治的な判決であることを指摘しています。事実、一連の判決では7人の裁判官が補足意見を述べ、2人が反対意見を出しました。これほど多くの補足意見と反対意見が出されたことは異例のことだと聞きます。
補足意見の中には、ほとんど反対の趣旨が述べられているものもあり、また趣旨が曖昧なものもあります。一連の判決が十分な審理を経ないまま曖昧な判断のもとで出されたのではないかと危惧せざるをえません。
私はこうした不十分で曖昧な審理の結果出された最高裁判決が、現実の政治社会と教育現場にどれほど大きな影響を与えるものであるかを指摘したいと思います。従って、まだ審理中である本件予防訴訟では、十分な審理を経て、公正で慎重な判断を示していただきたく、以下を指摘したいと思います。
その第一は、大阪の情勢です。
5月30日の判決の翌日に、大阪府の教育長が判決についての記者会見を行い、その4日後の6月3日に橋下大阪府知事と大阪維新の会が、「日の丸・君が代」を強制する条例を強行採決しました。
そして今また、同氏と同会は、「教育基本条例」と「職員基本条例」を準備しています。その内容は、教育目標を知事が決定し、その目標に従って各学校と、地域と保護者が「教育」活動を行うようになっています。そればかりか、教育委員会の教育委員までもが知事に従う事が規定されています。そしてこれに従わない者は処分の対象となり、教職員は不起立3回で分限免職される事が規定されています。この条例案は府民の総動員態勢を規定しており、ファシズム条例案であるといった批判が出されています。
このファシズム化の傾斜は、一連の最高裁判決が出されたその影響で一気に加速していっています。この動きは今後さらに大きくなっていく傾向があり、一連の最高裁判決の影響がこうした政治情勢を作り上げていると言えます。
第二は、一連の最高裁判決以降、議会場に「日の丸」の掲揚が強行された自治体が東京都で増えていることです。
23区では10区が議場に掲揚であり、多摩地区では4市あります。そのほとんどが議長の権限で強行するというものです。
地方議会ではいろいろな考えを持った諸政党や個人が、自らの政治的主張を掲げ選挙を経て議員になっていきます。そうした議員による自治体の議会は民主主義の象徴であるといえます。その自治体の議会で「日の丸」掲揚の強行は大政翼賛会の政治情勢を作り上げるものと思われます。一連の最高裁判決がこうした政治情勢を作り上げているのです。
第三に指摘したいのは、テレビ番組による「日の丸」の露出度が極端に多くなっていることです。
これも一連の最高裁判決後の特徴です。
最近のテレビでは「南極大陸」という番組があります。宗谷丸で南極に行き昭和基地を建設した史実をドラマ化したものですが、宗谷丸の船内のいたるところで「日の丸」が壁に張り出されており、とても船内の事実に基づいたものとは言えません。しかもドラマの内容は、日本人意識の昂揚を意図したもので、国威発揚を意図した番組と言えます。この番組だけでなく、刑事ドラマ等でも「日の丸」の露出が極端に多くなっています。
こうした日本人意識や国威発揚の政治的な動きは、教科書採択でも顕著になっています。戦艦大和の記述が1ページ分で掲載されるなど、戦争の美化・肯定の教科書が一部自治体で強引な政治的力によって採択されています。これは一連の最高裁判決以前から続いている動きですが、こうした右傾化の潮流とあいまって最高裁判決が危険な政治的な情勢を作り出していることは確実です。
さらに指摘しておきたいのは、下級審判決をも含めた一連の「日の丸・君が代」訴訟における判決の結果、学校現場における教育が大きく変質させられていることです。
東京大学の勝野正章教授や早稲田大学の西原博史教授は、今回の一連の最高裁判決が、教育権にかかわる判決であったことを指摘しています。つまり、国家・教育委員会による上からの教育が判示されたことを指摘しています。これは明らかに日本国憲法の趣旨のもとで作られた戦後の教育法体系とは異なっています。
戦後の教育法体系は、政治的圧力からの独立を第一に掲げた法体系です。ところが、一連の最高裁判決は形の上では憲法19条を判示して、教育についての判断がなされていませんが、前述の両教授の指摘にもありますように、この判決は教育をめぐる判決であることが実態なのです。
実際の教育現場は、自由な雰囲気がなくなり、陰湿ないじめや、不登校が多発しています。教員と子どもたちの精神疾患が急増しています。
一昔前までは、教育現揚の悪弊を全て教員や日教組への責任転嫁が行われてきました。しかし、現在、日教組は弱体化し、教育に与える影響力は大きく低下してきています。ここ20年前頃から、どこの自治体でも教育委員会と校長の権力が圧倒的に大きく、政治による権力的な管理・統制の支配が教育現場の現実です。従って、今日における教育現場のあらゆる出来事は、その全てが教育行政によってもたらせた結果であると断言できます。政治主導の教育は、一部のエリートを作り出すための教育であり、そこからはじき出された子どもたちが教育の場で悩んでいるのが現実です。
そんな状況の中で、東京の高校の教育現場は、まだ以前からの雰囲気を少しでも残してきました。それを完全に奪い、都教委による支配の教育に変えたのが「10.23通達」でありました。
従って、本件訴訟の情勢は、戦後教育法を変質させ、国家主義的な教育が進行している状況に対して司法の憲法判断を求めるものなのです。決して安易であったり曖昧な状況で判断が出されるものではないのです。
最高裁裁判官の各氏は、現在進行しているこうした教育の状況と、政治情勢を直視し、政治的権力から自由である意思に基づき、公正な判断をしていただくことを要請いたします。
1、平和と民主主義の社会に逆行する方向に与する判決を出さないでください。
2、子どもたちが自由でのびのび育つ教育に反する判決を出さないでください。
3、憲法19条だけでなく、23条26条など教育裁判としての判決を出してください。
◎ 「君が代関連裁判」最高裁判決の社会的影響の大きさ
要請者(上告人兼申立人)永井栄俊
本年5月30日の最高裁第2小法廷の「申谷再雇用採用拒否事件」判決以降、7月14日の「解雇事件」と「九州ココロ裁判」判決まで9件の「日の丸・君が代」関連の判決が出されました。7月7日のフレームアップ刑事事件である藤田事件判決を含めれば10件の「日の丸・君が代」関連判決が1ヶ月半の間に最高裁で出されたことになります。
第1小法廷~第3小法廷の全てが同じ判旨であり、大法廷判決に準ずるものといわれています。その判旨は、一審原告(教員)の敗訴を判示するものであり、上告人からすれば極めて不当な判決と言えます。しかし、この最高裁判決の影響は大きく、マスコミや研究者による意見などがいくつか出されています。
筑波大学の土屋英雄教授や早稲田大学の西原博史教授は、一連の判決が極めて政治的な判決であることを指摘しています。事実、一連の判決では7人の裁判官が補足意見を述べ、2人が反対意見を出しました。これほど多くの補足意見と反対意見が出されたことは異例のことだと聞きます。
補足意見の中には、ほとんど反対の趣旨が述べられているものもあり、また趣旨が曖昧なものもあります。一連の判決が十分な審理を経ないまま曖昧な判断のもとで出されたのではないかと危惧せざるをえません。
私はこうした不十分で曖昧な審理の結果出された最高裁判決が、現実の政治社会と教育現場にどれほど大きな影響を与えるものであるかを指摘したいと思います。従って、まだ審理中である本件予防訴訟では、十分な審理を経て、公正で慎重な判断を示していただきたく、以下を指摘したいと思います。
その第一は、大阪の情勢です。
5月30日の判決の翌日に、大阪府の教育長が判決についての記者会見を行い、その4日後の6月3日に橋下大阪府知事と大阪維新の会が、「日の丸・君が代」を強制する条例を強行採決しました。
そして今また、同氏と同会は、「教育基本条例」と「職員基本条例」を準備しています。その内容は、教育目標を知事が決定し、その目標に従って各学校と、地域と保護者が「教育」活動を行うようになっています。そればかりか、教育委員会の教育委員までもが知事に従う事が規定されています。そしてこれに従わない者は処分の対象となり、教職員は不起立3回で分限免職される事が規定されています。この条例案は府民の総動員態勢を規定しており、ファシズム条例案であるといった批判が出されています。
このファシズム化の傾斜は、一連の最高裁判決が出されたその影響で一気に加速していっています。この動きは今後さらに大きくなっていく傾向があり、一連の最高裁判決の影響がこうした政治情勢を作り上げていると言えます。
第二は、一連の最高裁判決以降、議会場に「日の丸」の掲揚が強行された自治体が東京都で増えていることです。
23区では10区が議場に掲揚であり、多摩地区では4市あります。そのほとんどが議長の権限で強行するというものです。
地方議会ではいろいろな考えを持った諸政党や個人が、自らの政治的主張を掲げ選挙を経て議員になっていきます。そうした議員による自治体の議会は民主主義の象徴であるといえます。その自治体の議会で「日の丸」掲揚の強行は大政翼賛会の政治情勢を作り上げるものと思われます。一連の最高裁判決がこうした政治情勢を作り上げているのです。
第三に指摘したいのは、テレビ番組による「日の丸」の露出度が極端に多くなっていることです。
これも一連の最高裁判決後の特徴です。
最近のテレビでは「南極大陸」という番組があります。宗谷丸で南極に行き昭和基地を建設した史実をドラマ化したものですが、宗谷丸の船内のいたるところで「日の丸」が壁に張り出されており、とても船内の事実に基づいたものとは言えません。しかもドラマの内容は、日本人意識の昂揚を意図したもので、国威発揚を意図した番組と言えます。この番組だけでなく、刑事ドラマ等でも「日の丸」の露出が極端に多くなっています。
こうした日本人意識や国威発揚の政治的な動きは、教科書採択でも顕著になっています。戦艦大和の記述が1ページ分で掲載されるなど、戦争の美化・肯定の教科書が一部自治体で強引な政治的力によって採択されています。これは一連の最高裁判決以前から続いている動きですが、こうした右傾化の潮流とあいまって最高裁判決が危険な政治的な情勢を作り出していることは確実です。
さらに指摘しておきたいのは、下級審判決をも含めた一連の「日の丸・君が代」訴訟における判決の結果、学校現場における教育が大きく変質させられていることです。
東京大学の勝野正章教授や早稲田大学の西原博史教授は、今回の一連の最高裁判決が、教育権にかかわる判決であったことを指摘しています。つまり、国家・教育委員会による上からの教育が判示されたことを指摘しています。これは明らかに日本国憲法の趣旨のもとで作られた戦後の教育法体系とは異なっています。
戦後の教育法体系は、政治的圧力からの独立を第一に掲げた法体系です。ところが、一連の最高裁判決は形の上では憲法19条を判示して、教育についての判断がなされていませんが、前述の両教授の指摘にもありますように、この判決は教育をめぐる判決であることが実態なのです。
実際の教育現場は、自由な雰囲気がなくなり、陰湿ないじめや、不登校が多発しています。教員と子どもたちの精神疾患が急増しています。
一昔前までは、教育現揚の悪弊を全て教員や日教組への責任転嫁が行われてきました。しかし、現在、日教組は弱体化し、教育に与える影響力は大きく低下してきています。ここ20年前頃から、どこの自治体でも教育委員会と校長の権力が圧倒的に大きく、政治による権力的な管理・統制の支配が教育現場の現実です。従って、今日における教育現場のあらゆる出来事は、その全てが教育行政によってもたらせた結果であると断言できます。政治主導の教育は、一部のエリートを作り出すための教育であり、そこからはじき出された子どもたちが教育の場で悩んでいるのが現実です。
そんな状況の中で、東京の高校の教育現場は、まだ以前からの雰囲気を少しでも残してきました。それを完全に奪い、都教委による支配の教育に変えたのが「10.23通達」でありました。
従って、本件訴訟の情勢は、戦後教育法を変質させ、国家主義的な教育が進行している状況に対して司法の憲法判断を求めるものなのです。決して安易であったり曖昧な状況で判断が出されるものではないのです。
最高裁裁判官の各氏は、現在進行しているこうした教育の状況と、政治情勢を直視し、政治的権力から自由である意思に基づき、公正な判断をしていただくことを要請いたします。
記
<要請事項>1、平和と民主主義の社会に逆行する方向に与する判決を出さないでください。
2、子どもたちが自由でのびのび育つ教育に反する判決を出さないでください。
3、憲法19条だけでなく、23条26条など教育裁判としての判決を出してください。
以上
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