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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

教育を国策遂行手段として再定義しようとする安倍教育改革

2014年05月06日 | こども危機
 ※5月7日(水)午後、文部科学委員会参考人質問(名古屋大学・中島哲彦氏)
 ◆ 安倍政権の教育委員会制度「改革」とその狙い
中嶋哲彦(名古屋大学大学院教授)

 安倍政権は今、自民党が選挙公約に掲げた地方教育行政制度改革を具体化すべく、急テンポな動きを見せている。
 ◆ 首長主導型・文科大臣の統制権強化
 昨年末、中央教育審議会(以下、中教審)が「今後の教育行政の在り方について(答申)」(2013年12月13日)を答申した。
 この答申には、(1)首長主導型教育行政制度への転換=教育委員会制度廃止と、(2)地方教育行政に対する文部科学大臣の統制権強化が答申された。
 中教審はこれまで教育委員会制度存置の立場に立ってきたが、この答申は安倍首相の教育「改革」戦略を最も忠実に具体化したものだ。
 ところが、中教審答申には自民党内部から異論が出され、2014年2月18日には、自由民主党の文部科学部会教育委員会制度改革に関する小委員会が、「教育委員会制度の改革案」(以下、自民党案)をまとめた。
 自民党案には、(1)教育委員会を執行機関として存置しつつ、(2)首長に教育長任免権を付与、(3)教育委員会から首長への所掌事務・職務権限の移譲、(4)首長主導の総合教育施策会議で定める「大綱的な指針」による教育行政の枠づけ、(5)文部科学大臣の統制権強化などが書き込まれた。
 この二つは、教育委員会を執行機関として存置するか否かの違いはあるが、首長主導型教育行政制度を導入するとともに、文部科学大臣の権限強化による教育の国家統制を強化しようとする点では変わるところはない。
 さらに、2014年3月12日に成立した自民党と公明党の与党合意は、自民党案を基本とし、その一部を修正したものだった。
 たとえば、自民党案にあった首長への権限移譲や文部科学大臣の統制権強化はやや緩やかに修正されたように見えるが、上記自民案を基本としていることを忘れてはならない。
 政府・与党は今、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、地方教育行政法)の改正案を準備している。どのような法案にまとめられるか予断は許されない。
 また、与党合意には自民党案には見られなかった新たな問題点も含まれている。たとえば、大綱的指針を策定する総合政策会議の会議や議事録の非公開を可としていることだ。
 これは教育委員会制度「改革」は民意反映を大義名分に掲げたこととも矛盾し、住民の意思を教育と教育行政に反映するルートを遮断するものである。
 また、公明党は文部科学大臣の権限強化に消極的だが、自民党は今後の課題として追求すると表明している。
 ◆ 教育は国策遂行の手段ではない
 安倍政権が教育委員会制度改革を持ち出した背景には、子ども・若者一人ひとりの状況とニーズに応じた学習の保障を通じて、子ども・若者の成長と発達を保障し、その現在と未来におけるしあわせの礎を築こうとする教育の営みそれ自体を解体しようとする意図が見え隠れする。
 安倍政権は、教育制度をグローバル競争を支える競争力人材の育成と、規律訓練による規範意識の注入に解体しようとしているのだ。そして、このような教育的価値の実現を志向すべき教育行政という概念を丸ごと廃棄してしまおうとしているのだろう。そのため、これまで「教育行政」として括られてきた行政事務を、産業・労働行政とイデオロギー・治安維持行政へと解体・分割しようとしているのだ。
 つまり、日本国憲法に定める教育を受ける権利や教育の機会均等原理さえ、この際、廃棄されてしまおうと考えているのだろう。この意図はすでに、自民党の「日本国憲法改正草案」にも現れている。
 自民党が第26条に、第3項として、「国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。」を付け加えようとしている。
これは、教育を国策遂行手段として再定義しようとするもので、これにより教育の権利性は否定されてしまう。
 ◆ 教育委員会の意義と可能性
 教育委員会制度は、(a)教育の地方自治、(b)教育の住民自治(教育の民衆統制)、(c)教育行政の一般行政(首長)からの独立といった原理に基づいて、戦後教育改革の一環として発足した制度だ。
 教育委員会自体による教育への不当な支配が禁止されることはもちろん、政治権力から教育の自主性を守るため政治権力による支配介入を排除する役割が教育委員会に期待された。
 しかし、教育委員会制度が発足して60年余り、(1)教育委員任命制による住民の教育意思からの切断、(2)教育長任命承認制による人事介入(1999年法改正で廃止)、(3)措置要求権(~1999年)または是正要求権・是正指示権(2007年~)による教育行政介入、(4)指導・助言・援助名目の実質的な中央統制など、教育委員会制度の改悪が行われてきた。
 こうすることで、政府・文科省は、教育委員会を地域住民が公教育を自主的に管理する行政機関から、中央集権的教育行政の末端に変質させてきたのである。
 ◆ 妨害を受けた中野区や犬山市の例

 しかも、住民が教育委員会制度を活用して子ども若者に学びと育ちを保障しようとする取り組みは、これまで幾度となく政治権力によって過酷な妨害を受けてきた。
 中野区における教育委員準公選制の誕生から廃止への経緯や、「犬山の子どもは、犬山で育てる」という教育の地方自治の理念に立った「犬山の教育改革」が市内外の政治的介入によって途絶した経緯を思い起こすべきだ。
 犬山市教育委員会が全国学力テスト不参加を決めたとき、市長が参加を強く迫ったが、任期切れで教育委員が入れ替えられるまでの2年間、教育委員会は市長の介入を退け続けた。形骸化が進んでいるとはいえ、教育委員会が首長から独立した執行機関として存在している意義は小さくない。
 ◆ 教育委員会存在意義の再認識を
 安倍政権の教育委員会制度改革は、住民が教育自治・教育の地方自治を再建する手がかりとなりうる教育委員会制度を敵視し、徹底的に叩き壊そうとするものだ。
 教育と教育行政を国民・住民の手に取り戻すため、教育委員会制度をフル活用することで、教育委員会の存在意義が広く国民に再認識されるようにしなければならない。
 その際、教育委員会の真の再生のため、次の課題を自覚的に追求する必要がある。
 安倍政権は、どれほど重要な法案でも、国民的議論が不足または全くないままに、数の力を借りて強引に可決成立に持ち込んでいる。
 地方教育行政法案が国会に上程されれば、強引に可決成立に持ち込もうとするに違いない。安倍政権の教育委員会制度改革、そして教育「改革」戦略全体の本質を国民の前に明らかにし、法案提出を断念させる必要がある。(なかじまてつひご)
 ※本稿執筆後の4月4日に政府は地方教育行政法の「改正案」を国会に提出しました。法案は本稿と少し違う内容があります。
「子どもと教科書全国ネット21ニュース」95号(2014.4)5

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