《月刊 救援》より
▼ 福島第一源発事故から10年
反・脱原発関連訴訟の現状(2020~2021年)
今年は、福島第一原発(F1)事故(東日本大震災、二〇一一年三月一一日)から一〇年です。一〇年前の同日午後二時四六分東北地方太平洋沖地震か発生した時、福島第一原子力発電所1~3号機が運転中、4~6号機は定期検査中であった。
地震の五〇分後、高さ一四~五メートルの津波がF1発電所を襲った。
結果、1・2・4号機は全電源を喪失した。
3号機も三月一三日二時四二分に全電源を喪失した。
一二日午後には1号機が水素爆発。
3号機が一四日、4号機が一五日に水素爆発。
2号機からも大量の放射性物質が漏洩した。
そもそも日本国内において原子力発電所設置が具体化したのが東海原発に始まり、
その後稼働したのがほとんどが一九七〇年代に淵源を有しており、F1(フクイチ)事故が起きる前には、日本全国で五四機もの原発が稼働していた。
この東日本大震災と、とりわけ大規模原発事故と、F1(フクイチ)事故からの避難者に対する救援・支援が日本全国から取り組まれ、国際的にも連帯の輪が拡がった。
東京都内でも、新宿・高円寺、東京電力本社前、国会・首相官邸前経産省前においても包囲行動が続いた。
同年九月一一日には経産省前テントが設けられ、二〇一六年八月二一日のテント強制撤去後も脱原発の「経産省前テント」の行動は今日も続いています。
▼ 福島原発事故避難訴訟 東京高裁で逆転勝訴
二月一九日、東京高裁(白井幸夫裁判長)は、一審(千葉地裁)か東電のみの責任を認定したのを否定して、国と東電に同等の責任を認め、連帯して四三人に計約二億八千万円を支払うように命じた。
同様の別の裁判の控訴審で東京高裁は一月に国の責任を否定しており、昨年(二〇二〇年)九月の仙台高裁の判決が、国の責任を認めている。
この日の「判決要旨」によれば、「国と東電の責任」について、「事故は国の規制権限不行使と東電による原発の運転などが相まって発生したと認められる」「国の立場が二次的・補完的であるとしても、国の賠償責任の範囲を限定するのは相当ではない」と実に明快である。
▼ 「黒い雨」訴訟、一審で勝訴
二〇二〇年七月二九日、広島地裁(高島義行裁判長)は、原爆投下直後に降った七五年前の「黒い雨」(放射能)を浴びたのに、国の援護対象から外された地域の八四人が訴えた原告らの主張(広島県と広島市に対して被爆者健康手帳などの交付を求める)を認める判決を言い渡した。
この裁判は二〇一五年に提訴。九人の原告が亡くなっている。
判決は「黒い雨」を浴びた外部被曝に加え、「黒い雨」が付着した食物なとの摂取による内部被曝の知見を認めた。
国と広島県、広島市は八月一二日控訴した。今年(二〇二一年)七月一七日に控訴番判決の予定てある。
▼ 子ども脱被曝裁判で不当判決(3・1福島地裁)
F1(フクイチ)原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を問うた「子ども脱被曝裁判」の判決が三月一日午後、福島地裁(遠藤東路裁判長)で言い渡された。
福島県内の市町に「安全な環境での教育」を、国と福島県には「子どもたちに無用な被曝をさせて精神的苦痛を与えたことに対する損害賠償(一人あたり一〇万円)」を求めた原告らの請求を遠藤裁判長は全て棄却。
二〇一四年八月二九日に提訴されたこの裁判はA「行政訴訟」(通称・子ども人権裁判)とB「国家賠償請求訴訟」(通称・親子裁判)と二つの訴訟を併合し、同時進行で進められて来た。
Aでは、福島県内の公立の小中学生(原告)が、福島市や川俣町、郡山市、田村市、いわき市(被告)に対し、安全な環境の施設で教育を実施するように求めた。
判決で遠藤裁判長は、「安全な地域における教育の実施を求める作為の給付請求」を「請求の特定性を欠いている」として、「安全な地域において教育を受ける権利があることの確認請求」も「確認の利益を欠いている」として却下(門前払い)。
▼ 東電刑事裁判
福島原発(F1)事故について、東電の元役員らを全国の一四、七一六人が二〇一二年六月以降、刑事告訴・告発し、検察官は不起訴処分としたが、検察審査会は二度に渡る議決によって二〇一五年七月三一日強制起訴を決定した。
東京電力の元役員(経営陣)の勝俣恒久(当時代表取締役会長)、武黒一朗(当時代表取締役副社長、原子力・立地本部本部長)、武藤榮(当時常務取締役原子力・立地本部副本部長)の三名が被告とされた。
起訴罪名は、津波対策を怠って原発事故を起こし、死傷者を出した業務上過失致死傷罪を問うている。
二〇一九年九月一九日、三八回目の公判で東京地裁(永渕健一裁判長)は、無罪判決を言い渡した。
佐藤和良さん(いわき市在住・福島原発刑事訴訟支援団長)は、この不当判決に対して、次のように指摘している。
司法は、一九九二年伊方原発訴訟の最高裁判決で、「原子炉施設の安全性が確保されないときは従業員や周辺住民の生命に重大な危書を及ぼし、環境を汚染し深刻な災害を引き起こすおそれかあり、このような災害が万が一にも起こらないように原発の安全性を確保しなければならない」としていた。
判決はこの最高裁判決を否定し、過酷事故を起こしても罪にならない、というとんでもない判断をしている、
二〇二〇年九月一一日に検察(指定弁護士)側から控訴趣意書が提出され、今年(二〇二一年)これから控訴審か始まる。
▼ 発電所の設置許可取消し及び稼働停止
原子力発電所は、日本国内においては全国一〇電力会社の中でも沖縄電力を除く、東京電力、関西亀力、九州電力、四国電力、中国電力、北陸電力、中部電力、東北電力、北海道電力の九電力会社と関連の企業による経済産業省による国策そのものなのである。
反・脱原発といっても司法の場では、国に対する「認可取消」の行政訴訟、電力会社に対する「稼働停止」の訴訟が主流である。
昨年(二〇二〇年)一二月四日、関西電力大飯原発3号機4号機の認可を取り消す判決があった。
関西電力大飯原発3・4号機の設置許可に対して、大阪地裁(森健一裁判長)は、原子力規制委の判断に「看過しがたい過誤欠落がある」と認めて二〇一七年五月に出した設置許可を違法として取り消した。国による原発の設置許可そのものを取り消した判決は初めてだ。
判決理由は、関西電力が大飯原発の耐震性判断に必要な地震(基準地震動)を想定する際、過去の地震規模の平均値をそのまま使い実際に発生する地震が平均より大きくなる可能惟を考慮していないということだ。
F1(エフイチ)原発の事故後「再稼働」の動きは前よりも制限的になっている。しかし、CO2排出規制に対して、原発の役割を「見直す」といった、新たな動きも軽視できない。
これからは、原発そのものからの放射能汚染排水、廃炉に伴う作業従事者の新たな被曝など、新型コロナウイルス感染拡大禍、あらためてすぺての人々の生命と健康を等価に護りぬいていく闘いが必要となるであろう。
(山中幸男)
『月刊 救援 第623号』(2021年3月10日)
▼ 福島第一源発事故から10年
反・脱原発関連訴訟の現状(2020~2021年)
今年は、福島第一原発(F1)事故(東日本大震災、二〇一一年三月一一日)から一〇年です。一〇年前の同日午後二時四六分東北地方太平洋沖地震か発生した時、福島第一原子力発電所1~3号機が運転中、4~6号機は定期検査中であった。
地震の五〇分後、高さ一四~五メートルの津波がF1発電所を襲った。
結果、1・2・4号機は全電源を喪失した。
3号機も三月一三日二時四二分に全電源を喪失した。
一二日午後には1号機が水素爆発。
3号機が一四日、4号機が一五日に水素爆発。
2号機からも大量の放射性物質が漏洩した。
そもそも日本国内において原子力発電所設置が具体化したのが東海原発に始まり、
その後稼働したのがほとんどが一九七〇年代に淵源を有しており、F1(フクイチ)事故が起きる前には、日本全国で五四機もの原発が稼働していた。
この東日本大震災と、とりわけ大規模原発事故と、F1(フクイチ)事故からの避難者に対する救援・支援が日本全国から取り組まれ、国際的にも連帯の輪が拡がった。
東京都内でも、新宿・高円寺、東京電力本社前、国会・首相官邸前経産省前においても包囲行動が続いた。
同年九月一一日には経産省前テントが設けられ、二〇一六年八月二一日のテント強制撤去後も脱原発の「経産省前テント」の行動は今日も続いています。
▼ 福島原発事故避難訴訟 東京高裁で逆転勝訴
二月一九日、東京高裁(白井幸夫裁判長)は、一審(千葉地裁)か東電のみの責任を認定したのを否定して、国と東電に同等の責任を認め、連帯して四三人に計約二億八千万円を支払うように命じた。
同様の別の裁判の控訴審で東京高裁は一月に国の責任を否定しており、昨年(二〇二〇年)九月の仙台高裁の判決が、国の責任を認めている。
この日の「判決要旨」によれば、「国と東電の責任」について、「事故は国の規制権限不行使と東電による原発の運転などが相まって発生したと認められる」「国の立場が二次的・補完的であるとしても、国の賠償責任の範囲を限定するのは相当ではない」と実に明快である。
▼ 「黒い雨」訴訟、一審で勝訴
二〇二〇年七月二九日、広島地裁(高島義行裁判長)は、原爆投下直後に降った七五年前の「黒い雨」(放射能)を浴びたのに、国の援護対象から外された地域の八四人が訴えた原告らの主張(広島県と広島市に対して被爆者健康手帳などの交付を求める)を認める判決を言い渡した。
この裁判は二〇一五年に提訴。九人の原告が亡くなっている。
判決は「黒い雨」を浴びた外部被曝に加え、「黒い雨」が付着した食物なとの摂取による内部被曝の知見を認めた。
国と広島県、広島市は八月一二日控訴した。今年(二〇二一年)七月一七日に控訴番判決の予定てある。
▼ 子ども脱被曝裁判で不当判決(3・1福島地裁)
F1(フクイチ)原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を問うた「子ども脱被曝裁判」の判決が三月一日午後、福島地裁(遠藤東路裁判長)で言い渡された。
福島県内の市町に「安全な環境での教育」を、国と福島県には「子どもたちに無用な被曝をさせて精神的苦痛を与えたことに対する損害賠償(一人あたり一〇万円)」を求めた原告らの請求を遠藤裁判長は全て棄却。
二〇一四年八月二九日に提訴されたこの裁判はA「行政訴訟」(通称・子ども人権裁判)とB「国家賠償請求訴訟」(通称・親子裁判)と二つの訴訟を併合し、同時進行で進められて来た。
Aでは、福島県内の公立の小中学生(原告)が、福島市や川俣町、郡山市、田村市、いわき市(被告)に対し、安全な環境の施設で教育を実施するように求めた。
判決で遠藤裁判長は、「安全な地域における教育の実施を求める作為の給付請求」を「請求の特定性を欠いている」として、「安全な地域において教育を受ける権利があることの確認請求」も「確認の利益を欠いている」として却下(門前払い)。
▼ 東電刑事裁判
福島原発(F1)事故について、東電の元役員らを全国の一四、七一六人が二〇一二年六月以降、刑事告訴・告発し、検察官は不起訴処分としたが、検察審査会は二度に渡る議決によって二〇一五年七月三一日強制起訴を決定した。
東京電力の元役員(経営陣)の勝俣恒久(当時代表取締役会長)、武黒一朗(当時代表取締役副社長、原子力・立地本部本部長)、武藤榮(当時常務取締役原子力・立地本部副本部長)の三名が被告とされた。
起訴罪名は、津波対策を怠って原発事故を起こし、死傷者を出した業務上過失致死傷罪を問うている。
二〇一九年九月一九日、三八回目の公判で東京地裁(永渕健一裁判長)は、無罪判決を言い渡した。
佐藤和良さん(いわき市在住・福島原発刑事訴訟支援団長)は、この不当判決に対して、次のように指摘している。
司法は、一九九二年伊方原発訴訟の最高裁判決で、「原子炉施設の安全性が確保されないときは従業員や周辺住民の生命に重大な危書を及ぼし、環境を汚染し深刻な災害を引き起こすおそれかあり、このような災害が万が一にも起こらないように原発の安全性を確保しなければならない」としていた。
判決はこの最高裁判決を否定し、過酷事故を起こしても罪にならない、というとんでもない判断をしている、
二〇二〇年九月一一日に検察(指定弁護士)側から控訴趣意書が提出され、今年(二〇二一年)これから控訴審か始まる。
▼ 発電所の設置許可取消し及び稼働停止
原子力発電所は、日本国内においては全国一〇電力会社の中でも沖縄電力を除く、東京電力、関西亀力、九州電力、四国電力、中国電力、北陸電力、中部電力、東北電力、北海道電力の九電力会社と関連の企業による経済産業省による国策そのものなのである。
反・脱原発といっても司法の場では、国に対する「認可取消」の行政訴訟、電力会社に対する「稼働停止」の訴訟が主流である。
昨年(二〇二〇年)一二月四日、関西電力大飯原発3号機4号機の認可を取り消す判決があった。
関西電力大飯原発3・4号機の設置許可に対して、大阪地裁(森健一裁判長)は、原子力規制委の判断に「看過しがたい過誤欠落がある」と認めて二〇一七年五月に出した設置許可を違法として取り消した。国による原発の設置許可そのものを取り消した判決は初めてだ。
判決理由は、関西電力が大飯原発の耐震性判断に必要な地震(基準地震動)を想定する際、過去の地震規模の平均値をそのまま使い実際に発生する地震が平均より大きくなる可能惟を考慮していないということだ。
F1(エフイチ)原発の事故後「再稼働」の動きは前よりも制限的になっている。しかし、CO2排出規制に対して、原発の役割を「見直す」といった、新たな動きも軽視できない。
これからは、原発そのものからの放射能汚染排水、廃炉に伴う作業従事者の新たな被曝など、新型コロナウイルス感染拡大禍、あらためてすぺての人々の生命と健康を等価に護りぬいていく闘いが必要となるであろう。
(山中幸男)
『月刊 救援 第623号』(2021年3月10日)
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