◆ 「もっと子どもとふれあい、いい授業をするための時間がほしい」
一国際調査にあらわれた日本の教職員の願い一
平日の部活動は、授業のあと、15:50~18:15まで行います。曜日によっては、並行して委員会活動なども行われます。朝練習がある曜日は、7:30前には出勤しなくてはなりません。ノートチェックや採点、事務仕事などは部活が終わってからでないとできないため、20:00頃までかかります。持ち帰り仕事も多いです。
テスト最終日から部活が再開するため、定期テストの採点は休日出勤してやるしかありません。また、学期末に作成する通知票の評定や所見も、勤務時間には終わらず、持ち帰ることもできないため、夜遅くまで学校でやるしかありません。結局、平日に教科の授業準備などはほとんどできません。すべて持ち帰り仕事です。
部活以外の仕事もさることながら、部活に関わる仕事もたくさんあります。たとえば、大会などに出場するための書類作成や会計処理、物品の管理があります。大会前には顧問会が数回あります。保護者会も行うので、そのための保護者との打ち合わせや準備もあります。
部活動にかかわる仕事は、実際の指導だけでなく、その他の仕事の量も多いのです。そして、学級で何かトラブルがあれば、その対応と部活の指導を同時に行わなければなりません。
「部活は校務である」というのであれば、教科やクラスの事務仕事が勤務時間内にできるよう、教員の持ち時間数を少なくしてほしいと思います。学級でのトラブルと部活内でのトラブルを解決させるために生徒とかかわる時間をとるのが、とても難しいです。じっくり話を聞き、きちんと対応をしていくためには、時間がかかります。
50人近い部員をかかえ、毎日練習し、土日のどちらかは活動しているような部活であるにもかかわらず、顧問は一人しかおらず、交代で休むこともできません。部活のために休日に出勤し、夏季休業中には大会があったりするため、5日間の夏休も取りきれていません。
「そこまで熱心にやらなくてもいいのでは……」という人もいますが、保護者の期待が大きく、部活をするために学校選択をして来ている生徒も多いため、やらざるを得ない状態に追い込まれています。
外部指導員のための予算も計上されていますが、額が少ないので、多くの部活で分けると、1つの部活に割り当てられる額は小額になってしまいます。それに、1回2時間以上で2,000円では、外部指導員を引き受けていただける方を確保するのは、とても難しいことです。
これは、都内の中学校で吹奏楽部の顧問をしている先生の手記です。いまの部活顧問の平均的な実態だと思います。
◆ 日本の教員の勤務時間は最長
先ごろ、経済協力開発機構(OECD)が34か国・地域の中学校の教員を対象に行った「国際教員指導環境調査(TALIS2013)」の結果が発表されました(日本における調査対象校は全国192校の校長192名と教員3521名)。
その中で、最も大きな話題になったのが、日本の教員の勤務時間の長さでした。
①1週当たりの勤務時間が、参加国の平均38.3時間に対し、日本は53.9時間と最も長いこと、
②「課外活動(スポーツ・文化活動)の指導」に7.7時間(参加国平均2.1時間)、「一般的事務業務」に5.5時間(参加国平均2.9時間)使っている一方、「指導(授業)にあたった時間」は17.7時間(参加国平均19.3時間)と平均よりも少ないことなどが報道されました。
同時に、「日本の先生『自信』最低」などの見出しで、「学級運営」や「教科指導」「生徒の主体的学習参加の促進」について、「自己効力感」を持つ教員の割合が他国より低いことも報道されています。
以下、表にしてみました。
教員の自己効力感に関する調査結果
(数字は、4択のうち、「非常に良くできている」「かなりできている」と回答した教員の割合)
○項目,[日本],(平均)の順
都教委は、「このような結果が出た理由として、日本の教員が他国の教員に比べ、指導において高い水準を目指しているために自己評価が低くなっている可能性、実際の達成度にかかわらず謙虚な自己評価を下している可能性もある」とコメントしています。
私は、それだけではないと思います。というよりも、もっと大きな要因が2つあると思います。
1つは、先ほどの勤務時間調査の結果でもあきらかなように、「課外活動」や「一般的事務業務」に追われて授業の準備や子どもたちとふれあう時間が充分にとれていないことの反映ではないでしょうか。
「部活や会議、書類の提出に追われ、自分の授業の準備はどうしても後回しになる。結局、時間切れで指導書にそってやることが多い。子どもたちに合わせて工夫して授業することができないことを、本当に申し訳なく思う」若い教員の叫びです。
都教委は、今回の調査結果を受けて、学校に依頼している全ての事業を見直し、必要不可欠なものに精選するなど「都立高校における業務縮減」を行うそうですが、小中学校や特別支援学校でも同時に行うこと、冒頭のような部活動の実態を改善するための方策を行うことも、待ったなしの課題だと思います。
そしてもう一つの要因は、ここで聞かれているようなことは、本来、目の前の子どもたちに合わせて、学年や学校の中で教職員みんなで話し合い、工夫しあってすすめていくことだと思うのですが、今はそうではなく、「上」からの指示通りに教育活動を行うことが強制されていることの反映ではないか、と思うのです。
都内でも、「○○区(市)スタンダード」「○○小スタンダード」など、子どもたちには教室での姿勢や発言の仕方、教職員には板書の仕方やチョークの色まで示して、その達成度をチェックする動きが広がっています。
子どもの願いを受けとめながら、まわりの先生たちと話し合い、研究し合って、居心地のよいクラスや学年・学校、楽しくわかる授業をつくるために努力すること、そうやって子どもの笑顔に出会えることが、私たち教職員にとっては何よりのよろこびです。
そのための時間と条件をぜひ保障してほしいとおもいます。(こうじやようこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース』97号(2014.8)
一国際調査にあらわれた日本の教職員の願い一
KY(東京都・中学校教員)
平日の部活動は、授業のあと、15:50~18:15まで行います。曜日によっては、並行して委員会活動なども行われます。朝練習がある曜日は、7:30前には出勤しなくてはなりません。ノートチェックや採点、事務仕事などは部活が終わってからでないとできないため、20:00頃までかかります。持ち帰り仕事も多いです。
テスト最終日から部活が再開するため、定期テストの採点は休日出勤してやるしかありません。また、学期末に作成する通知票の評定や所見も、勤務時間には終わらず、持ち帰ることもできないため、夜遅くまで学校でやるしかありません。結局、平日に教科の授業準備などはほとんどできません。すべて持ち帰り仕事です。
部活以外の仕事もさることながら、部活に関わる仕事もたくさんあります。たとえば、大会などに出場するための書類作成や会計処理、物品の管理があります。大会前には顧問会が数回あります。保護者会も行うので、そのための保護者との打ち合わせや準備もあります。
部活動にかかわる仕事は、実際の指導だけでなく、その他の仕事の量も多いのです。そして、学級で何かトラブルがあれば、その対応と部活の指導を同時に行わなければなりません。
「部活は校務である」というのであれば、教科やクラスの事務仕事が勤務時間内にできるよう、教員の持ち時間数を少なくしてほしいと思います。学級でのトラブルと部活内でのトラブルを解決させるために生徒とかかわる時間をとるのが、とても難しいです。じっくり話を聞き、きちんと対応をしていくためには、時間がかかります。
* * *
50人近い部員をかかえ、毎日練習し、土日のどちらかは活動しているような部活であるにもかかわらず、顧問は一人しかおらず、交代で休むこともできません。部活のために休日に出勤し、夏季休業中には大会があったりするため、5日間の夏休も取りきれていません。
「そこまで熱心にやらなくてもいいのでは……」という人もいますが、保護者の期待が大きく、部活をするために学校選択をして来ている生徒も多いため、やらざるを得ない状態に追い込まれています。
外部指導員のための予算も計上されていますが、額が少ないので、多くの部活で分けると、1つの部活に割り当てられる額は小額になってしまいます。それに、1回2時間以上で2,000円では、外部指導員を引き受けていただける方を確保するのは、とても難しいことです。
* * *
これは、都内の中学校で吹奏楽部の顧問をしている先生の手記です。いまの部活顧問の平均的な実態だと思います。
◆ 日本の教員の勤務時間は最長
先ごろ、経済協力開発機構(OECD)が34か国・地域の中学校の教員を対象に行った「国際教員指導環境調査(TALIS2013)」の結果が発表されました(日本における調査対象校は全国192校の校長192名と教員3521名)。
その中で、最も大きな話題になったのが、日本の教員の勤務時間の長さでした。
①1週当たりの勤務時間が、参加国の平均38.3時間に対し、日本は53.9時間と最も長いこと、
②「課外活動(スポーツ・文化活動)の指導」に7.7時間(参加国平均2.1時間)、「一般的事務業務」に5.5時間(参加国平均2.9時間)使っている一方、「指導(授業)にあたった時間」は17.7時間(参加国平均19.3時間)と平均よりも少ないことなどが報道されました。
同時に、「日本の先生『自信』最低」などの見出しで、「学級運営」や「教科指導」「生徒の主体的学習参加の促進」について、「自己効力感」を持つ教員の割合が他国より低いことも報道されています。
以下、表にしてみました。
教員の自己効力感に関する調査結果
(数字は、4択のうち、「非常に良くできている」「かなりできている」と回答した教員の割合)
○項目,[日本],(平均)の順
■学級運営について◆ 教育本来のよろこびを感じられるように
○学級内の秩序を乱す行動を抑える [52.7](87.0)
○自分が生徒にどのような態度・行動を期待しているか明確に示す [53.0](91.3)
○生徒を教室のきまりに従わせる [48.8](89.4)
○秩序を乱す又は騒々しい生徒を落ち着かせる [49.9](84.8)
■教科指導について
○生徒のために発問を工夫する [42.8](87.4)
○多様な評価方法を活用する [26.7](81.9)
○生徒がわからない時は、別の説明の仕方を工夫する [54.2](92.0)
○様々な指導方法を用いて授業を行う [43.6](77.4)
■生徒の主体的学習参加の促進について
○生徒に勉強ができると自信を持たせる [17.6](85.8)
○生徒が学習の価値を見いだせるよう手助けする [26.0](80.7)
○勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする [21.9](70.0)
○生徒の批判的思考を促す [15.6](80.3)
都教委は、「このような結果が出た理由として、日本の教員が他国の教員に比べ、指導において高い水準を目指しているために自己評価が低くなっている可能性、実際の達成度にかかわらず謙虚な自己評価を下している可能性もある」とコメントしています。
私は、それだけではないと思います。というよりも、もっと大きな要因が2つあると思います。
1つは、先ほどの勤務時間調査の結果でもあきらかなように、「課外活動」や「一般的事務業務」に追われて授業の準備や子どもたちとふれあう時間が充分にとれていないことの反映ではないでしょうか。
「部活や会議、書類の提出に追われ、自分の授業の準備はどうしても後回しになる。結局、時間切れで指導書にそってやることが多い。子どもたちに合わせて工夫して授業することができないことを、本当に申し訳なく思う」若い教員の叫びです。
都教委は、今回の調査結果を受けて、学校に依頼している全ての事業を見直し、必要不可欠なものに精選するなど「都立高校における業務縮減」を行うそうですが、小中学校や特別支援学校でも同時に行うこと、冒頭のような部活動の実態を改善するための方策を行うことも、待ったなしの課題だと思います。
そしてもう一つの要因は、ここで聞かれているようなことは、本来、目の前の子どもたちに合わせて、学年や学校の中で教職員みんなで話し合い、工夫しあってすすめていくことだと思うのですが、今はそうではなく、「上」からの指示通りに教育活動を行うことが強制されていることの反映ではないか、と思うのです。
都内でも、「○○区(市)スタンダード」「○○小スタンダード」など、子どもたちには教室での姿勢や発言の仕方、教職員には板書の仕方やチョークの色まで示して、その達成度をチェックする動きが広がっています。
子どもの願いを受けとめながら、まわりの先生たちと話し合い、研究し合って、居心地のよいクラスや学年・学校、楽しくわかる授業をつくるために努力すること、そうやって子どもの笑顔に出会えることが、私たち教職員にとっては何よりのよろこびです。
そのための時間と条件をぜひ保障してほしいとおもいます。(こうじやようこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース』97号(2014.8)
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