《『いまこそ』から》
★ 「コンディション レポート」をレポートする
武蔵丘高校 山口美紀
「コンディション・レポート」とは、都教委の説明によれば「高校生のメンタルヘルスに関わるオンラインシステム」である。目的は
①「各学校がこれまでやってきた生徒の見守りや相談体制に、ICTの利活用を加え、教員の負担を軽減するとともに、支援が必要な生徒を早期に発見する」
②「生徒自身が心身の状況について自己理解を深め、自ら健康をコントロールし改善する」
である。生徒は毎日「日常アンケート」に
体温や体調の報告、
今日の気分を天気で表すマークを選択(快晴、晴れ、曇り、雨、大雨)、
「相談しようか迷っていることがある」という項目にYES、NOをつける、
などをして送信する。するとシステムが自動で集計、分析を行い、生徒の変化を把握し、教員の取り組みを支援する、とされている。
生徒向けの説明には、
「コンディションレポートは、こころとからだの健康管理報告ツールです。毎日の体調や気分を記録、管理することができます。
…日常アンケートに未回答のときは「コンレポ(原文のママ)」から通知が行きます。
…気分に関するグラフなど、定期的に過去を振り返り、自身の状態を把握することをおすすめします。」
とある。令和3年に実証研究が7校で行われ効果を確認、今年3月から全都立校に導入された。
が、はかばかしく浸透しないためか、「利活用月間」として5月に3日間全校実施の上で都への報告が義務づけられた。9月にも同じ内容の指示が来ている。
私が疑問だったのは、実証校はこのシステムのどこを評価したのか、特に「教員の負担軽減」の中身は何か、ということだ。
すると、当時はコロナ禍で、毎日検温表を紙で回収、チェックしていたので、その手間がなくなった、生徒の個人情報(紙)を紛失する心配もない、生徒も紙よりこっちがいい、という程度だったことがわかった。
むろん、システムによって生徒の相談につなげられた、という報告もあったが、それはシステムなくして発見できなかったケースなのか、教員はシステム以前と比べて確かな効果を得ているのか、は検証不可能でもあり、わからない。
実証校の中には否定的な報告を上げたところもあったというが、都教委はそのまま受け取らず書き直しを求めたという。
デジタルの技術を用いてビジネスを変革することを目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)は変化の激しい現代において、企業の競争力を維持、向上させるために欠かせないと言われる。だから学校もデジタル化で、と都教委はやっきになっているようだ。
しかしコンレポに関しては壮大な無駄としかいいようがない。
全都立校実施のために、システム外注の初期投資、管理運営規則の整備、教員用の業務マニュアル(パワポ114枚)の作成、説明会、そして各学校での混乱…。
DXのデメリットは、新規のシステム導入に多大な時間と労力がかかることなのである。
だから基軸をずらさず、誰の求めで、何のために、デジタル化するのか、初めに共通理解ができていないと、デジタル化だけが自己目的化して失敗する、とビジネス界でもすでに検証済みだ。
コンレポの利用度は学校によって差があり、管理職が熱心なので毎日生徒に送信を促し、その対応が負担になっている、という学校、利活用月間の3日間すらあまり生徒に宣伝せず、1~2割程度の送信、ふだんはほぼ送信0という学校もある。
都は「生徒の生命にかかわる重大事故の未然防止」のためとしてコンレポの利用拡大を求めている。
しかし生徒の送信は365日24時間可能だが、誰がいつの時点で送信チェックをし、「相談するか迷っている」項目に誰がどう対応するか肝心のところは学校に丸投げで、そもそも毎日の気分を他者に報告したり、定期的に振り返らされたりすることに負担を感じる生徒の存在が見えているのか、生徒にとっても教員にとっても全く的外れな「支援」システムと言わざるを得ない。
紙面が尽きてしまったが、コンレポ以上に大きな問題をはらんでいると思われるのが令和7年に全校実施予定の新システム「教育ダッシュボード」だ。ぜひ検索、注視願いたい。
予防訴訟をひきつぐ会通信『いまこそ 29号』(2023年9月20日)
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