《GDP600兆円目前のカラクリ[明石順平] (日刊ゲンダイ)》
◆ 消費増税とアベノミクスで物価は6.6%も急上昇した
実質賃金についてお話しします。
実質賃金は、名目賃金(金額そのままの賃金)を消費者物価指数で割った値のことです。これにより、本当の購買力が分かります。
例えば、名目賃金が10%上がったとしても、消費者物価指数が10%上がってしまえば、実質賃金の上昇率はゼロであり、購買力は変わりません。賃金は「実質的に言って」上がっていないことになります。
このように物価を考慮しないと本当の賃金の姿は見えません。したがって実質賃金が重視されるのです。実質賃金は、物価の伸びが賃金の伸びを上回ると下がります。
2018年と12年を比較すると、実質賃金の算定基礎となる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は6.6%も伸びています。
その一方で、名目賃金は前回説明した凄まじいインチキを駆使しても6年間で2.8%しか伸びておらず、アベノミクス前と比較して3.6%も低いのです。
物価が上がったのは14年の消費増税に加えて、アベノミクス第1の矢である異次元の金融緩和によって円安インフレが生じたためです。
日銀の試算によると消費増税による物価上昇は2%とのことですので、残りは円安が最も影響したと言っていいでしょう。
15年に原油が急落した影響である程度は円安インフレが抑えられていたのですが、17年以降にまた原油価格が戻し始めたため物価も上昇していきました。
なお、「新規労働者が増えたから平均値が下がり、それで実質賃金が下がった」というよく聞くヘリクツはデマです。
平均値の問題であれば、名目賃金も下がらなければいけませんが、下がっていません。
こういうヘリクツを並べる人は物価急上昇という事実を無視します。そもそも、実質賃金の算定式すら知らないのでしょう。単に物価上昇が名目賃金の上昇を上回ったため、実質賃金が急落したのです。
ところで、「2%の物価目標が達成できない」と盛んに報道されるため、物価は上がっていないと勘違いされているのではないかと思います。ここで言う「2%」は、「前年と比べて」の「2%」で、「アベノミクス開始から」の「2%」という意味ではありません。
しかも、増税の影響は除かれるのです。
アベノミクスの矢が放たれて以降、増税の影響も加味すると、前述のように物価はこの6年間で6・6%も上がっています。「増税+アベノミクス」でわれわれの生活は苦しくなったということです。
次回は、国内消費の驚異的停滞についてお話しします。 (つづく)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/249354
『日刊ゲンダイ』(2019/03/14)
《GDP600兆円目前のカラクリ[明石順平] (日刊ゲンダイ)》
◆ 8.2兆円カサ上げも…民間最終消費支出は戦後最悪の大停滞
民間最終消費支出についてお話しします。
日本のGDPの約6割を占めるのが民間最終消費支出です。これは要するに国内の民間消費の総合計額であり、ここが伸びなければ日本は経済成長できません。
しかしながら、この民間最終消費支出の実質値(物価の影響を取り除いた値)は、2014年から16年にかけて3年連続で減少しました。これは、戦後初の現象です。
さらに、17年は前年比プラスになったのですが、4年も前の13年を下回ってしまいました。この「4年前を下回る」という現象も戦後初です。
これは、前回お話しした実質賃金の低下が大きく影響したと言ってよいでしょう。
給料はほとんど上がらないのに、消費増税と円安で物価だけが上がってしまったため、国内消費が戦後最悪の大停滞を起こしてしまったのです。
このように実質民間最終消費支出が伸びていないということは、国民の生活が全然良くなっていないことを示しています。景気回復の実感がないのは当然でしょう。
また、エンゲル係数も急上昇しています。エンゲル係数というのは、家計の消費支出に占める飲食費の割合です。
この係数が高くなればなるほど、「食べていくのがやっと」の状態に近づいていきますので、生活がどんどん苦しくなっていることを示します。
アベノミクス前の12年と比べると、18年のエンゲル係数は2・2ポイントも上がってしまいました。
アベノミクス前はほぼ横ばいであり、0・1ポイント程度の上下があるだけでしたから、これは大変なことです。
この原因は、増税と円安で食料価格が上がった一方、給料がほとんど上がらなかったからです。
食料価格指数を見ますと、18年はアベノミクス前の12年と比べて10・3ポイントも上がっているのです。
このように国民の生活に密着した数字は極めて悲惨な状況なのですが、民間最終消費支出の方はこれでも思いっきりカサ上げした数字です。
16年12月にGDPが過去22年も遡って改定されました。
表向きには「2008SNA」というGDP算定の国際算定基準への対応のため、という点が強調されています。
しかし、民間最終消費支出の方は、「2008SNA」とは全く関係ない「その他」の要素によって思いっきりカサ上げされました。
一番カサ上げ額が大きいのが15年で、なんと8・2兆円もカサ上げされたのです。
これほど大きくカサ上げしても、前述の通り、戦後最悪の消費低迷を覆い隠すことができていません。
「その他」のかさ上げがなければもっと悲惨な状況になっていたということです。
※ 明石順平 弁護士
1984年、和歌山県生まれ。東京都立大法学部、法大法科大学院卒。労働事件、消費者被害事件を主に担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に「アベノミクスによろしく」「データが語る日本財政の未来」
『日刊ゲンダイ』(2019/03/15)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/249438
◆ 消費増税とアベノミクスで物価は6.6%も急上昇した
実質賃金についてお話しします。
実質賃金は、名目賃金(金額そのままの賃金)を消費者物価指数で割った値のことです。これにより、本当の購買力が分かります。
例えば、名目賃金が10%上がったとしても、消費者物価指数が10%上がってしまえば、実質賃金の上昇率はゼロであり、購買力は変わりません。賃金は「実質的に言って」上がっていないことになります。
このように物価を考慮しないと本当の賃金の姿は見えません。したがって実質賃金が重視されるのです。実質賃金は、物価の伸びが賃金の伸びを上回ると下がります。
2018年と12年を比較すると、実質賃金の算定基礎となる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は6.6%も伸びています。
その一方で、名目賃金は前回説明した凄まじいインチキを駆使しても6年間で2.8%しか伸びておらず、アベノミクス前と比較して3.6%も低いのです。
物価が上がったのは14年の消費増税に加えて、アベノミクス第1の矢である異次元の金融緩和によって円安インフレが生じたためです。
日銀の試算によると消費増税による物価上昇は2%とのことですので、残りは円安が最も影響したと言っていいでしょう。
15年に原油が急落した影響である程度は円安インフレが抑えられていたのですが、17年以降にまた原油価格が戻し始めたため物価も上昇していきました。
なお、「新規労働者が増えたから平均値が下がり、それで実質賃金が下がった」というよく聞くヘリクツはデマです。
平均値の問題であれば、名目賃金も下がらなければいけませんが、下がっていません。
こういうヘリクツを並べる人は物価急上昇という事実を無視します。そもそも、実質賃金の算定式すら知らないのでしょう。単に物価上昇が名目賃金の上昇を上回ったため、実質賃金が急落したのです。
ところで、「2%の物価目標が達成できない」と盛んに報道されるため、物価は上がっていないと勘違いされているのではないかと思います。ここで言う「2%」は、「前年と比べて」の「2%」で、「アベノミクス開始から」の「2%」という意味ではありません。
しかも、増税の影響は除かれるのです。
アベノミクスの矢が放たれて以降、増税の影響も加味すると、前述のように物価はこの6年間で6・6%も上がっています。「増税+アベノミクス」でわれわれの生活は苦しくなったということです。
次回は、国内消費の驚異的停滞についてお話しします。 (つづく)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/249354
『日刊ゲンダイ』(2019/03/14)
《GDP600兆円目前のカラクリ[明石順平] (日刊ゲンダイ)》
◆ 8.2兆円カサ上げも…民間最終消費支出は戦後最悪の大停滞
民間最終消費支出についてお話しします。
日本のGDPの約6割を占めるのが民間最終消費支出です。これは要するに国内の民間消費の総合計額であり、ここが伸びなければ日本は経済成長できません。
しかしながら、この民間最終消費支出の実質値(物価の影響を取り除いた値)は、2014年から16年にかけて3年連続で減少しました。これは、戦後初の現象です。
さらに、17年は前年比プラスになったのですが、4年も前の13年を下回ってしまいました。この「4年前を下回る」という現象も戦後初です。
これは、前回お話しした実質賃金の低下が大きく影響したと言ってよいでしょう。
給料はほとんど上がらないのに、消費増税と円安で物価だけが上がってしまったため、国内消費が戦後最悪の大停滞を起こしてしまったのです。
このように実質民間最終消費支出が伸びていないということは、国民の生活が全然良くなっていないことを示しています。景気回復の実感がないのは当然でしょう。
また、エンゲル係数も急上昇しています。エンゲル係数というのは、家計の消費支出に占める飲食費の割合です。
この係数が高くなればなるほど、「食べていくのがやっと」の状態に近づいていきますので、生活がどんどん苦しくなっていることを示します。
アベノミクス前の12年と比べると、18年のエンゲル係数は2・2ポイントも上がってしまいました。
アベノミクス前はほぼ横ばいであり、0・1ポイント程度の上下があるだけでしたから、これは大変なことです。
この原因は、増税と円安で食料価格が上がった一方、給料がほとんど上がらなかったからです。
食料価格指数を見ますと、18年はアベノミクス前の12年と比べて10・3ポイントも上がっているのです。
このように国民の生活に密着した数字は極めて悲惨な状況なのですが、民間最終消費支出の方はこれでも思いっきりカサ上げした数字です。
16年12月にGDPが過去22年も遡って改定されました。
表向きには「2008SNA」というGDP算定の国際算定基準への対応のため、という点が強調されています。
しかし、民間最終消費支出の方は、「2008SNA」とは全く関係ない「その他」の要素によって思いっきりカサ上げされました。
一番カサ上げ額が大きいのが15年で、なんと8・2兆円もカサ上げされたのです。
これほど大きくカサ上げしても、前述の通り、戦後最悪の消費低迷を覆い隠すことができていません。
「その他」のかさ上げがなければもっと悲惨な状況になっていたということです。
※ 明石順平 弁護士
1984年、和歌山県生まれ。東京都立大法学部、法大法科大学院卒。労働事件、消費者被害事件を主に担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に「アベノミクスによろしく」「データが語る日本財政の未来」
『日刊ゲンダイ』(2019/03/15)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/249438
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