=日刊ゲンダイ:二極化・格差社会の真相=
★ 豪州議会で可決された「16歳未満のSNS利用規制」を日本も急ぐべき
斉藤貴男(ジャーナリスト)
16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法案が先月29日、オーストラリア(豪州)議会で可決された。連邦総督の裁可を経て成立する。
新法は事業者にアカウント作成者の厳密な年齢確認を義務付けた。悪質な違反には最大で4950万豪ドル(約50億円)の制裁金が科される。
なお子どもや保護者に対する罰則はない。
欧米では一部の自治体が同様の取り組みを進めているが、国単位ではこれが世界初。
アルバニージー首相は胸を張り、「子どもたちには子ども時代を過ごしてほしい」「事業者には子どもの安全を優先するという社会的責任がある」などと語った。
賛否両論があると聞く。日本でも今後の議論が注目されようが、現時点でも私はあえて断じたい。
かの国に一刻も早く倣わなければならない、と。
そう考える理由はおそらく、豪州議会の多数派と同じだ。巨大システムとしてのSNSは罪深すぎる。
自殺や暴力、搾取その他の各種犯罪、集団“いじめ”との親和性が抜群で、果ては人間の精神までが破壊し尽くされかねない危険に満ちている。
理想とは対極の対症療法でしかありはしない、とは思う。
それでも、せめて脳の発達途上にある子どものうちだけでも、遠ざけておく意義は大きい。SNSなど人類には100万年も早かった。
なるほどマスメディアも劣化の一途をたどってはいる。とはいえ、この分野で食っている職業人の大多数は、己の全人格に懸けて、まだしもジャーナリズムの本義を完全には失っていない。
一方、SNSをつかさどる巨大プラットフォームはといえば、そもそもがジャーナリズムとは無縁だ。
とめどなく拡大する影響力に任せ、金儲けのみを追求している。徹底的な無責任を貫き続けて、恥じようとする気配とてない。
携帯電話が爆発的に普及し始めた頃に読んだIT起業家の本を思い出した。こう書かれていた。
〈倫理的な問題は脇に置いておくとして、親に内緒で子どもに何かを提供したり、行動させたりするには携帯電話が最適の手段、ということになる〉
(市川茂浩「誰も知らなかったケータイ世代」東洋経済新報社、2007年)
巨大プラットフォームがすべてを取り仕切るデジタル万能社会にあって、人間ごときはただ単に支配され、操られるだけの生き物に貶められていくのが必定だ。
ある意味では核兵器より恐ろしい最終兵器ではないか。
オーストラリアに学ぼう。
※ 斎藤貴男ジャーナリスト
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「戦争経済大国」(河出書房新社)、「日本が壊れていく」(ちくま新書)、「『明治礼賛』の正体」(岩波ブックレット)など著書多数。
『日刊ゲンダイ』(2024年12月3日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/364365
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