◎ 原告意見陳述書
~私は、「日の丸・君が代」を子どもたちに浸透させる教育を行って、
戦争に自ら参加する若者やそれを支持する人々を育てあげる教育を担うことはできません。
~私は、「日の丸・君が代」を子どもたちに浸透させる教育を行って、
戦争に自ら参加する若者やそれを支持する人々を育てあげる教育を担うことはできません。
2015年9月30日
原告 井 前 弘 幸
原告 井 前 弘 幸
私は、昨年4月8日の入学式での「国歌斉唱」という号令の際に着席し、同年6月17日に、教育長及び校長からの「職務命令」に従わなかったという理由で、「戒告」処分を受けました。同じ日、府教委の指示するマニュアル通りの「職務命令」を行わなかったという理由により、校長も「訓戒」処分を受けました。校長は職員会議等において、「職務命令」という文言の使用をあえて回避しました。私は、校長の言動は、教育の場で「職務命令」による強制が当たり前になっていく状況を批判する思いからのものであると確信しています。私自身も同じ思いです。
1958年、文部省は反対の声を押し切って「学習指導要領」を発表し、「特別活動」の学校行事等の項で「国旗を掲揚し、君が代をせい唱させることが望ましい」と定め、以降、「日の丸・君が代」を学校教育を通じて浸透させる政策を強めてきました。
福岡県教委は、1979年、県立若松高校の卒業式で「君が代」をジャズ風にアレンジして伴奏した教員を「教職不適格」として分限免職とし、1985年には、卒業式、入学式での「国家斉唱」不起立を理由に、29校の16名の教員に戒告、49名の教員に文書訓告の処分を強行しました。
文部省は、1977年・1989年の「指導要領」改定、1999年国旗国歌法で政治的強制力を強化し、東京都教委は2003年の10・23通達による474名に及ぶ戒告・減給・停職処分を行ってきました。大阪府・大阪市も、条例以降すでに60名に及ぶ教員を減給または戒告処分にしています。自民党を中心とする国家権力は、戦後のほぼ全期間、教育を通じて「日の丸・君が代」を押しつけようとし、教職員はこの政治的な圧力に抵抗を続けてきたのです。
私が、32年前に大阪府の教員になった当初、日本列島を「不沈空母」にすると語り、日米軍事同盟を基軸にふたたび戦争への道へ突き進もうとする中曽根首相が政権を握りました。以降、臨教審、教育基本法改悪をはじめ政権による教育への介入が強化されますが、教育への政治介入に反対し抵抗することを30年間続けてきたことは、今の安倍政権のもとで完全に正しかったと確信しています。中曽根元首相は、今年5月3日の改憲派国会議員らが開いた改憲推進集会で、未だに改憲がなされないことを詫びましたが、改憲を許さなかった勢力の一角には私たちのような小さなひとりひとりの抵抗があったのだと思っています。
ほとんどの裁判所は、卒業式や入学式での「国歌斉唱」が単なる「儀礼的所作」の強制にとどまり、「起立斉唱」を命じる職務命令が思想良心の自由を間接的に制約するに過ぎないから違憲であるとはいえないと判じ、政治による「国歌斉唱」の強制と「不起立処分」を容認してきました。裁判所のこのような姿勢は、憲法と教育基本法が国家権力による教育への介入を禁ずる原則的な見地に立って司法の責任を果たすことを回避し、ときの国家権力に加担するものだと思います。
2011年6月の「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」は、第1条で「府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱について定めることにより、府民、とりわけ次代を担う子どもが伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する意識の高揚に資するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと並びに府立学校及び府内の市町村立学校における服務規律の厳格化を図ることを目的とする。」と規定しています。
つまり、第1に、子どもたちと保護者である府民の前で、教職員が率先垂範して「国歌斉唱」を行うことにより子どもたち及び府民の「愛国」意識を高めながら、第2に、「国歌斉唱」を通じて教職員が命令に服する態度をとることを徹底するとしています。条例は、大阪維新の会が単独で強行採決しました。
条例は教育そのものを云々するものではありません。大阪維新の会の政治目的を達成するためのものです。それは、条例を強行可決した当時の橋下知事らの言動からも明らかです。
安倍政権による「集団的自衛権」行使容認の閣議決定と戦争への参加を具体化するための「戦争法」によって、教え子たちがふたたび戦場へ送り込まれる危険が間近に迫っています。「戦死」をも厭わないような「愛国意識」を教育を通じて子どもたちに押しつけていくという目論見が、「日の丸・君が代」強制の向こう側に見え隠れし、以前は隠されていた部分がますます明け透けになっています。
大阪の教育の首長支配と教育委員会制度の改悪は、歴史を歪曲し憲法を否定する最悪の「育鵬社」の歴史・公民教科書を大阪市、東大阪市、河内長野市、四条畷市、泉佐野市の中学生(大阪府の全中学生18%)に強制する流れを作り出しています。
私は、「日の丸・君が代」を子どもたちに浸透させる教育を行って、戦争に自ら参加する若者やそれを支持する人々を育てあげる教育を担うことはできません。
以上
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