◇ 組合の正当な団体行動へ異常な介入・弾圧が続発
労働運動の世界に、異常事態が生起していることに強く警鐘を鳴らしたい。
日本の労働組合は、憲法28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と規定されている。これが「労働三権」であり、使用者に経済的にも人的にも「従属」せざるをえない労働者が、対等な立場に立って交渉し、労働条件等を決定できる最も重要な「権利」だ。
しかし、この憲法に保障された「労働三権」に対し、この間、司法と警察、経営法曹などが意図的に介入し始めている。主要には「団体行動権」がターゲットにされているが、労働基本権総体に対しての攻撃と思われる。
戦後では1975年の公労協「スト権スト」に対して、国鉄当局が202億円の損害賠償を国労・動労に対し請求したことをはじめ、様々な局面で「街宣活動差し止め」等の仮処分請求や「損害賠償請求」が行われてきたが、今回生起している事態は、どうも異なった意図があるように思える。
◆ 続発する司法の争議介入
12月12日正午より、東京の参議院議員会館で「労働争議への不当な規制を許さない12・12院内集会」が開催された。
主催は、全日本港湾労働組合・全国一般全国協議会・全日本建設運輸連帯労働組合の三単産であり、緊急でありながら100名近くが参加する熱気をもった集会となった。
よびかけ文書には「近年、労働組合の正当な組合活動や争議行為に対して、経営側が活動禁止仮処分裁判や損害賠償請求裁判を乱訴し、裁判所がこれをいとも簡単に受け入れる傾向が目立っています。警察検察の不当な介入事件もふえています。私たち三単産の場合だけでみても、最近の仮処分事件や刑事弾圧事件は従来と異なる特徴を示しています」とある。
当日、上記三単産が報告した組合活動への弾圧を受けている直近事例は11組合だったが、他にも全日建連帯労組は7組合ほどあり、全労連系等を含めればさらに多数にのぼる。
まさに看過できない異常事態が続出している。当日の報告から、いくつかを簡略に紹介したい。
(中略)
◆ 最高裁で負ければ行動権さえ無くなる
昨年10月、川口学園(埼玉女子短大)衣川さんの解雇紛争が都労委で和解解決した。この和解は二つの意味で画期的な和解だろう。
一つは、最高裁で負けても運動で解決をつかみとったことだ。明白な不当解雇にもかかわらず、裁判で争っても最高裁で敗訴が確定し、やむなく涙をのんで運動を終結するケースは数多い。しかし衣川さんと公務公共一般労組や弁護団など支援する皆さんは、運動を継続し、都労委に提訴する中で解決をかちとることができた。和解の内容は非公開とされているが、都労委でも困難の連続であったと聞いている。しかし「相手より一日長く闘えば必ず勝利する」との原則が正しいことが、今回も証明された。とにかく様々なレベルで労働委員会が活用されるのは嬉しいかぎりだ。
そしてもう一つが、「街宣活動禁止」「団交強要の禁止」仮処分という異様な対応を突破できたことだ。この事件は准教授だった衣川清子さんが、会議で批判的な発言をしたことなどを理由に08年4月に解雇され、解雇無効を求めて提訴したが09年9月末に最高裁が上告を棄却し、解雇が確定した。判決が確定後、組合側は争議解決を求め、予告のうえで学園前で数次の宣伝行動(短時間)を行った。これに対し学園側は「授業の迷惑になる」として争議行為の差し止めを求める仮処分を申請。東京地裁は2回にわたって衣川さん本人と加入している東京公務公共一般・首都圏大学非常勤講師組合に対し、学園への無期限の「団体交渉の申し入れ禁止」と「学園・短大から半径200m以内の宣伝活動禁止」を命じた。
仮処分命令は、学園側の言い分を全面的に認めたうえで、「最高裁で解雇が確定しており、組合は団体交渉権を失っている」と判断したのだ。今回の争議解決を受けて東京地裁は、二つの仮処分決定を取り消すこととされており、公務公共一般の小林雅之副委員長は「仮処分決定を取り消すという当初の目的が達成される。組合の運動の大きな成果だ」と話している。
◆ 労働運動全体で反撃しよう
独立の労働ニュース配信社『連合通信』の報道によれば、小林副委員長は「経営側の弁護士たちが街宣活動を禁止する検討を始めた可能性がある」とし、争議団が各社前を回りながら街宣活動や要請を行う「東京総行動」などにも影響が出かねない、としている。
また、12・10に開催された「街宣活動の自由を考えるシンポジウム」ではジャーナリストの北健一さんが「企業による最近の言論弾圧事件とその背景」という詳細なレポートを行った。
武富士、阪急トラベルサポート、KDDーエボルバ、すき家、昭和ゴムなどでの言論弾圧が報告されたが、これらも氷山の一角と思える。
昨年は、最高裁が「委託・請負労働者であっても労働組合法上の労働者である」との判断を行った。
しかし、地裁・高裁段階での労働委員会命令否定は、委託契約であっても労働者性を認めたCBC(中部日本放送)管弦楽団労組事件最高裁判決(1976年)を覆す「団結権・団体交渉権制限」という異常な司法対応であったことを忘れてはならない。また、労働委員会などでは、一部の経営法曹所属弁護士主導による「合同労組否認の団交拒否事件」が続出している。
昨年11月14日に東京都労委は、全労協全国一般東京労組「A」事件(平23不二号)で、全面救済命令を交付した。
この会社は、実験動物の飼育管理などの研究員を企業・大学等に提供する、従業員250名余の中堅企業だったが、経営者が別事業への投資などで多額の会社資金焦げ付きを出し、一時金カットどころか社会保険料等も滞納という事態に至った。
労働組合は、この過程で過半数を超え結成され、一刻も早く会社の存続に向けて団体交渉を実現したかった。しかし弁護士対応は、「東京労組は法適合組合ではなく、その疎明が無い限り、団交に応じない」の一点張りであった。
命令書にはこう記述された。「会社は、(申立人である東京労組)組合員のほとんどが、会社と雇用関係はなく、法適合組合に求められる当事者性の要件を欠如し、団交応諾義務はないと主張するが、およそ法的に成り立つ可能性のない独自かつ特異な見解であり、採用の限りでない」「会社は、そもそも組合らとの団体交渉の意思を有していなかった」「このような会社の対応は、組合の存在を殊更に無視し、組合の団結権を否認するものであるから、本件団体交渉拒否は、組合の組織及び運営に対する支配介入にも該当する」として、労組法7条2号(団交拒否)だけではなく、申立になかった3号(支配介入)違反でもあると断じた。あわせて、最近は他の労委ではなかなか命じられないポストノーティス(謝罪文の掲示)も命じた。
相次ぐ「労働基本権否定」の動きは、連動・連携している危険性を感じる。反原発など様々な課題で共同行動を積み重ねている三単産が、この課題でも積極的に取り組みを開始したことに続いて、多くのユニオンも共同行動に参加して欲しい。今回の院内集会も、国会議員に理解してもらい、国政の立場で、法務省や公安委員会に働きかけを強めてもらう意図だった。また連帯挨拶には、平和フォーラムの藤本事務局長も発言した。
「連合」を含めた総ての労働組合にとって、「労働三権の維持」は最重要課題と言える。今後、さらなる取り組みを継続し、早期に危険な動きにストップをかけていくべく、情報交換、ネットワーク構築、共同行動、要請行動を積み重ねていただきたい。労働弁護団や労働法学者などの皆さんにも、この異様な事態を伝え、共に反撃の輪を拡げていくことを望む。
『労働情報』(2012.1.1&15 830・1号)
水谷研次●東京都労働委員会あっせん員
労働運動の世界に、異常事態が生起していることに強く警鐘を鳴らしたい。
日本の労働組合は、憲法28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と規定されている。これが「労働三権」であり、使用者に経済的にも人的にも「従属」せざるをえない労働者が、対等な立場に立って交渉し、労働条件等を決定できる最も重要な「権利」だ。
しかし、この憲法に保障された「労働三権」に対し、この間、司法と警察、経営法曹などが意図的に介入し始めている。主要には「団体行動権」がターゲットにされているが、労働基本権総体に対しての攻撃と思われる。
戦後では1975年の公労協「スト権スト」に対して、国鉄当局が202億円の損害賠償を国労・動労に対し請求したことをはじめ、様々な局面で「街宣活動差し止め」等の仮処分請求や「損害賠償請求」が行われてきたが、今回生起している事態は、どうも異なった意図があるように思える。
◆ 続発する司法の争議介入
12月12日正午より、東京の参議院議員会館で「労働争議への不当な規制を許さない12・12院内集会」が開催された。
主催は、全日本港湾労働組合・全国一般全国協議会・全日本建設運輸連帯労働組合の三単産であり、緊急でありながら100名近くが参加する熱気をもった集会となった。
よびかけ文書には「近年、労働組合の正当な組合活動や争議行為に対して、経営側が活動禁止仮処分裁判や損害賠償請求裁判を乱訴し、裁判所がこれをいとも簡単に受け入れる傾向が目立っています。警察検察の不当な介入事件もふえています。私たち三単産の場合だけでみても、最近の仮処分事件や刑事弾圧事件は従来と異なる特徴を示しています」とある。
当日、上記三単産が報告した組合活動への弾圧を受けている直近事例は11組合だったが、他にも全日建連帯労組は7組合ほどあり、全労連系等を含めればさらに多数にのぼる。
まさに看過できない異常事態が続出している。当日の報告から、いくつかを簡略に紹介したい。
(中略)
◆ 最高裁で負ければ行動権さえ無くなる
昨年10月、川口学園(埼玉女子短大)衣川さんの解雇紛争が都労委で和解解決した。この和解は二つの意味で画期的な和解だろう。
一つは、最高裁で負けても運動で解決をつかみとったことだ。明白な不当解雇にもかかわらず、裁判で争っても最高裁で敗訴が確定し、やむなく涙をのんで運動を終結するケースは数多い。しかし衣川さんと公務公共一般労組や弁護団など支援する皆さんは、運動を継続し、都労委に提訴する中で解決をかちとることができた。和解の内容は非公開とされているが、都労委でも困難の連続であったと聞いている。しかし「相手より一日長く闘えば必ず勝利する」との原則が正しいことが、今回も証明された。とにかく様々なレベルで労働委員会が活用されるのは嬉しいかぎりだ。
そしてもう一つが、「街宣活動禁止」「団交強要の禁止」仮処分という異様な対応を突破できたことだ。この事件は准教授だった衣川清子さんが、会議で批判的な発言をしたことなどを理由に08年4月に解雇され、解雇無効を求めて提訴したが09年9月末に最高裁が上告を棄却し、解雇が確定した。判決が確定後、組合側は争議解決を求め、予告のうえで学園前で数次の宣伝行動(短時間)を行った。これに対し学園側は「授業の迷惑になる」として争議行為の差し止めを求める仮処分を申請。東京地裁は2回にわたって衣川さん本人と加入している東京公務公共一般・首都圏大学非常勤講師組合に対し、学園への無期限の「団体交渉の申し入れ禁止」と「学園・短大から半径200m以内の宣伝活動禁止」を命じた。
仮処分命令は、学園側の言い分を全面的に認めたうえで、「最高裁で解雇が確定しており、組合は団体交渉権を失っている」と判断したのだ。今回の争議解決を受けて東京地裁は、二つの仮処分決定を取り消すこととされており、公務公共一般の小林雅之副委員長は「仮処分決定を取り消すという当初の目的が達成される。組合の運動の大きな成果だ」と話している。
◆ 労働運動全体で反撃しよう
独立の労働ニュース配信社『連合通信』の報道によれば、小林副委員長は「経営側の弁護士たちが街宣活動を禁止する検討を始めた可能性がある」とし、争議団が各社前を回りながら街宣活動や要請を行う「東京総行動」などにも影響が出かねない、としている。
また、12・10に開催された「街宣活動の自由を考えるシンポジウム」ではジャーナリストの北健一さんが「企業による最近の言論弾圧事件とその背景」という詳細なレポートを行った。
武富士、阪急トラベルサポート、KDDーエボルバ、すき家、昭和ゴムなどでの言論弾圧が報告されたが、これらも氷山の一角と思える。
昨年は、最高裁が「委託・請負労働者であっても労働組合法上の労働者である」との判断を行った。
しかし、地裁・高裁段階での労働委員会命令否定は、委託契約であっても労働者性を認めたCBC(中部日本放送)管弦楽団労組事件最高裁判決(1976年)を覆す「団結権・団体交渉権制限」という異常な司法対応であったことを忘れてはならない。また、労働委員会などでは、一部の経営法曹所属弁護士主導による「合同労組否認の団交拒否事件」が続出している。
昨年11月14日に東京都労委は、全労協全国一般東京労組「A」事件(平23不二号)で、全面救済命令を交付した。
この会社は、実験動物の飼育管理などの研究員を企業・大学等に提供する、従業員250名余の中堅企業だったが、経営者が別事業への投資などで多額の会社資金焦げ付きを出し、一時金カットどころか社会保険料等も滞納という事態に至った。
労働組合は、この過程で過半数を超え結成され、一刻も早く会社の存続に向けて団体交渉を実現したかった。しかし弁護士対応は、「東京労組は法適合組合ではなく、その疎明が無い限り、団交に応じない」の一点張りであった。
命令書にはこう記述された。「会社は、(申立人である東京労組)組合員のほとんどが、会社と雇用関係はなく、法適合組合に求められる当事者性の要件を欠如し、団交応諾義務はないと主張するが、およそ法的に成り立つ可能性のない独自かつ特異な見解であり、採用の限りでない」「会社は、そもそも組合らとの団体交渉の意思を有していなかった」「このような会社の対応は、組合の存在を殊更に無視し、組合の団結権を否認するものであるから、本件団体交渉拒否は、組合の組織及び運営に対する支配介入にも該当する」として、労組法7条2号(団交拒否)だけではなく、申立になかった3号(支配介入)違反でもあると断じた。あわせて、最近は他の労委ではなかなか命じられないポストノーティス(謝罪文の掲示)も命じた。
相次ぐ「労働基本権否定」の動きは、連動・連携している危険性を感じる。反原発など様々な課題で共同行動を積み重ねている三単産が、この課題でも積極的に取り組みを開始したことに続いて、多くのユニオンも共同行動に参加して欲しい。今回の院内集会も、国会議員に理解してもらい、国政の立場で、法務省や公安委員会に働きかけを強めてもらう意図だった。また連帯挨拶には、平和フォーラムの藤本事務局長も発言した。
「連合」を含めた総ての労働組合にとって、「労働三権の維持」は最重要課題と言える。今後、さらなる取り組みを継続し、早期に危険な動きにストップをかけていくべく、情報交換、ネットワーク構築、共同行動、要請行動を積み重ねていただきたい。労働弁護団や労働法学者などの皆さんにも、この異様な事態を伝え、共に反撃の輪を拡げていくことを望む。
『労働情報』(2012.1.1&15 830・1号)
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