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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

実教出版日本史教科書の執筆者が語る

2013年09月17日 | こども危機
 ● 歴史の授業と教科書
   実教出版『高校日本史』とはどのような教科書か

加藤公明(東京学芸大学特任教授・実教出版『高校日本史』代表執筆者)

 ● 「を」か「で」か論争について
 37年間、千葉県の公立高校で社会科・地歴科(主に日本史)の教師をしてきました。その間何度となく聞かれたのが、「先生は『を』派ですか、『で』派ですか」という問いです。
 つまり、教科書教えるタイプの教師か、教科書教えるタイプの教師かというわけです。問われるたびに、どうもきっぱりと「を」派ですとも「で」派ですとも言えない自分がいました。
 それは、「教科書を教える」と言った場合、教科書に書かれている時代像や歴史観を教育内容(生徒に教えたいことや考えさせたいこと)として授業をするということであり、「教科書で教える」というのは、教科書に載っている文章や図版、史料を教材(教えるための素材や道具)として授業をするということだからです。
 教育内容も教材も授業を成り立たせるためには必要な要素です。そのうちのどちらかを選択せよと迫られても困ってしまう教師は私だけではないはずです。
 教科書を教科書で授業をすることも当然可能なわけで、「を」ですか「で」ですかという問いはどっちか一方を是とすれば他方は自動的に非となるといった対抗的な選択肢ではないのです。
 しかも、授業で教科書を使うのは教師だけではありません。実際の授業では教科書は生徒たちが文章を読み、図版を見、史料を確認したりするなど、教師よりも生徒たちによって使用される場合の方が多いのです。
 となれば、授業における教科書の使われ方として、生徒を主語にした選択肢も用意されなければなりません。教科書を授業でいかなるものとしてどのように使用するべきかという問いは、「を」か「で」かといった単純な二項対立的な次元で答えられるものではないのです。
 ただ、そうしたことを分かっていただいた上で、改めて授業で教科書はいかなる役割を果たすべきかと問われた時、私はこれまでの自分の実践を振り返り、次のような回答をすることにしています。
 「生徒が、教科書に書かれている時代像や歴史観を参考にしたり、手掛かりにしたり、時には批判の対象にしながら、各自が自分の時代像や歴史観を獲得していく。その際、生徒は教科書の文章や図版・史料をはじめ様々な資料を調べ、そこから事実を見出し、解釈し、その正否をみんなで討論していく。教科書はなによりもまず、そのようにして生徒が歴史を学ぶための素材や道具であるべきである。
 そして、そのような歴史学習が実り豊かに実現できるように授業を計画・準備・進行するコーディネーターこそが教師の果たすべき役割である。」
 ● 実教出版『高校日本史』にこめたもの
 実教出版『高校日本史』にはそんな私の教科書に対する考えや思いが込められています。むろん、i教科書づくりは一人ではできません。他の執筆者・i編集委員の方々と協議しながら、また、実際に教科書を用いて授業されている先生方からさまざまなご意見をいただき、これまでの教科書に工夫・改善を加えて完成させたものです。
 ○ 「なぜ」疑問符のサブタイトル
 どんな工夫・改善をしたかといえば、通史部分のすべての節に疑問文のサブタイトルを付したのもそのうちの一つです。
 『高校日本史A』第2章の7節は「大日本帝国憲法の制定」がタイトルですが、それに「憲法はなぜドイツに学んだのか」というサブタイトルが添えられています。
 そうすることで、読み手の生徒はこの問いに対して教科書はどう答えているのかという視点(問題意識)で、その節の記述内容を自ら読み取っていくことができます。
 ○ 「歴史の窓」身近なものとして
 また、「歴史のまど」と題するコラム記事をすべての節の冒頭に配置しました。
 まず、「歴史のまど」を読むことで生徒はその節で学習する時代について具体的なイメージを持つことができます。
 歴史の学習を難解な概念(言葉)の理解と暗記と思い込んでいる生徒たちの誤解を解消し、具体的で活き活きとした時代像の獲得を目指す学習の出発点=導入教材として活用してほしいと考えたからです。
 ○ 民衆の視点を重視
 そして、民衆の視点で歴史を通観できる記述に心がけました。生徒が歴史を主体的に学べる教科書であるためには、その教科書がどんな観点から歴史を通観させようとしているかが重要です。
 教科書も歴史書である以上、一定の観点がなければ各章(時代)の記述に統一性がなく、どんなに記述が詳細でも、全体として一つの時代像や歴史観を結実させられません。そのような教科書では生徒は結局のところ歴史を学べないと思います。
 『高校日本史』は歴史学の最新最良の成果を活かし、民衆史的な観点を重視して、各時代の民衆の労働や生活、運動を史料を紹介しながら記述しています。
 その他にも、地域の歴史や女性史を重視したり、世界特に東アジアの中で日本を捉え、時代を構造的に理解し、歴史に果たした一人ひとりの人間像がわかる記述を充実させました。
 ● 社会科(地歴科)教育の進展に逆行一東京都教育委員会などの決定
 以上のように、実教出版「高校日本史』は、私をふくめ、実際に教科書を活用して授業をしてきた現場の教師たちの経験と提言をもとに、少しでも生徒にとって学びやすく、彼らが主体的に歴史を考えられる教科書をつくろうとして生み出された教科書です。どうか、一人でも多くの方に手にとっていただき、そのことを確かめていただきたいと思います。
 そして、そのような教科書を、国旗・国歌法をめぐる脚注の一部に自分たちにとって都合の悪い事実(「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」)が書かれているというだけで排除してしまおうとする東京都教育委員会などの決定がいかに非教育的で、よりよい歴史教育の実現、生徒を歴史認識の主体に成長させて平和と民主主義の担い手として育てようとする社会科・地歴科教育の進展に逆行するものであるかを理解していただきたいと思います。(かとうきみあき)
「子どもと教科書全国ネット21ニュース」91号(2013.8)

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