こもれびが
ちらちらと揺れていた
遠くから鳥のさえずりが
聞こえてくる
やわらかな風が心地いい・・・・
天使は 抱きかかえてきた白魔女を
木陰に寝かせた
そして 自分もその隣に
少し離れて横たわった
白魔女は
意識がもうろうとしているのだろうか
自分の横の場所を 手で軽く叩いて
ここだよ・・・・
と 甘えたような声でいった
天使は 白魔女の隣に寝ころんだ
すると
白魔女は 天使に抱きつき
天使の胸に頭を埋めて
また寝てしまった
あんた 天使でしょ
天使は天使の仕事があるはずよ
仕事をしない天使って 天使じゃないから
仕事にいきなさい
へいへい・・・・
じゃ 仕事に行きますよ
最近 光をぶっ放すの 疲れてきたのに・・・・
そっ! 仕事終わったら 帰ってきてね~
それと 私は
あんたが この世に生まれて仕事をするとき
一緒に生まれてくるからね
そして あんたが本当に辛いとき
力になってあげるわよ
ああ~
それは お互いに ということにしよう
天使は そう言いながら
仕事に出かけていった
ー おしまい ー
天使は 右手の人差し指と中指を立てて
顔の左側に それを持ってきた
そして 半眼で
悪魔を見るともなく観ていた
呼吸を整え
決定 (けつじょう) して
主よ 我に力を与えたまえ
我に 愛する者を
守る力を与えたまえ
我に 降魔 (ごうま) の光を
与えたまえ
そう唱えて
自分の正面でその右手で
ゆっくりと大きく五芒星を描いた
するとその五芒星が金色に輝き
悪魔と黒魔女を目がけて
飛んでいった
悪魔と黒魔女は五芒星の中で
はりつけ状態となり
完全にロック・オンされた
悪魔は
苦しい~ 助けてくれ~
反省して
心を入れ直すから
ここから出してくれ~
お前 天使だろ
天使は慈悲の心で
許してくれるものだろ~
と 天使に懇願した
天使は
悪魔との取引は禁物なんだよ
悪魔に慈悲の心を与えると
それを逆手にとられて
ひどいめにあう
でも 慈悲の心を出さないのは
辛いもんだな ・・・・
と 思いながら
右手の人差し指と中指を
額の前に持ってきた
そのとき 天上から
黄金色をした ひとすじの光が
降りてきた
悪魔よ 去れ!
と一言 力強く唱えて
指を 悪魔の方に向けた
すると 天上から
降りてきた黄金の光が
悪魔の方に飛んでいき
悪魔と黒魔女の心臓を
突き抜けていった
その波動で ふたりとも
悲鳴を出すことも出来ず
飛ばされていった
天使は そのあと
両手で三角の印を結び
そのあと 手を開いて
手のひらを
白魔女の方に向けた
すると
やさしい愛の癒しの光が
白魔女を包み込んだ ・・・・
shit!
しばらく
時を待たないといかんのかよ~
天使は 思わず
天使らしくない言葉を
吐き捨てるようにいった
天使の こころの中に一瞬 憎悪の闇ができたが
深く呼吸をし こころを穏やかにして
その闇を消した
欲とか怒りは比較的短い間に
克服することができるけど
不信とか悪見は
かなり時間がかかることが多い
でも まぁ
癒す方の愛の力にもよるが・・・・
はぁ~
あれをやらんとあかんのか~
仕方ねぇなぁ~
天使は 肩を落として
本当に やりたくなさそうに呟いた
そして 悪魔と黒魔女を見て
こういった
あんたらな~
よくも オレの恋を
むちゃくちゃにしてくれたなぁ~
この女
本当にええ女だったんだぞ~
オレを信じてくれたんだ
本当に 惚れとったんやぞ~
すると 悪魔がいった
おまえなぁ~
人の大事なもの っていうのは
人の弱みなんや~
そこを狙うのが悪魔なんや
狙われるおめぇが甘めぇ~わ
それは わかるけどな
なんも オレの恋までむちゃくちゃに
することねぇ~やろ
おまえ ホントに性格悪り~な
なに アホなこといっとる
性格悪いのは悪魔の勲章や~
ほぉ~ そんなに
性格悪い悪魔を生んだ
おまえの母ちゃんの顔がみたいわ
そうだ
そんなに性格悪い おまえ生んだ母ちゃん
でべそ やろ!
ははは~
おまえの母ちゃん でべそ~
と 天使は悪魔に匹敵する悪口を言った
「おまえの母ちゃん でべそ 」
には さすがの悪魔も
カチンときた
おまえ オレの母ちゃんの
へそ みたことあるんか!
見たなら いつどこで見た
いってみろ!
おまえ オレの母ちゃんにヘンなことしたんか !
ついに悪魔は怒り始めた
それを見て 黒魔女は腹を抱えて笑い始めた
天使は こころの中で
へへへ~
引っかかりやがった
これで ここから逃げる
ことはあるまい
でも 悪魔を怒らせたり
はめたりするオレって
ひょっとして 昔
大悪魔やっていたかもしれんな・・・・
などと思いながら 悪魔との間合いを測って
さて やるべか~
と ぼそりと呟いた
ところが 黒魔女は
白魔女の攻撃を受ける瞬間に
悪魔を盾にして攻撃をしのいでいた
それで 白魔女が
ごきげんでいる隙を見て
「 火と水の河 」 という
魔法陣を描いていた
「火と水の河」・・・・
火は怒りを表し
水は尽きぬ欲望を表す
この魔法をかけられた者は
食欲 色欲 物欲 出世欲 など
心の中の欲望を増幅され
その激流に溺れていく
そして
その欲望が満たされない時に
心の中に怒りが現れ
身を焦がしていく
そして
悪魔の手先になっていく
黒魔女は
白魔女に向かって
呪いをかけたことを
悟られないように
黒い杖で魔法陣の中央を突いた
すると
欲望のどす黒い想念が
白魔女を包み込み
怒りの炎がその欲望の外側を
包み込んで燃え始めた
その瞬間
白魔女の目が赤くなり
こころが怒りに支配された
あかん・・・・!
天使は
怒りの目をした白魔女を見て
少しあせったが
白魔女に向かって言った
白魔女よ
聴く耳があれば 聴くがよい
汝(なんじ) は
主が創られし天使の末裔(まつえい)
汝は
白き魔法にて 愛に生きる者
よくよく
そのことを こころ に刻むべし!
天使は 正義の言霊(ことだま) で
力強い念を飛ばして
黒魔女の呪いを切った
すると 今度は悪魔が再び
天使に向かって 疑いの毒矢を打ってきた
白魔女は とっさに天使の前に立ち
その疑いの毒矢を 自分の体で受け止め 天使を守った
今度は そのやじりに悪見という
毒も塗ってあった
悪見・・・・
仏教でいう六大煩悩(ろくだいぼんのう) のうちのひとつ
主に間違った見方・考え方のこと
悪見には 主に
「 身見 ( しんけん ) 」
肉体のみが自分だと思っていること
「 辺見 ( へんけん ) 」
人間はあの世とこの世を輪廻転生している存在であるが
死んだら 何もかも終わりだというような
極端な考え方をすること
「 邪見 ( じゃけん ) 」
間違った宗教知識を持っていること
良い原因・行い があって良い結果がある
ということを信じないこと
などがある
白魔女は
その毒矢にやられてしまった
正気を取り戻した天使は
白魔女の方を振り向き
やさしい笑顔を見せた
その時 白魔女は
最強の魔法 「 太陽の時季 ( とき ) 」
の魔法陣を描き終わった
白魔女は いたずらっぽく微笑んで
おっけ~ぃ~ 描けたわよ~
卵かけご飯の次に
私が好きな
最強の魔法 「 太陽の時季 」
ぶっ放してみようか~
覚悟はいいかな
こいつは 効くよ~
いくよぉ~
発動~っ
といって うれしそうな顔をして
桜の杖で魔法陣の真ん中にある
五芒星の中央を トンと軽く突いた
突然 空から
まぶしい太陽の光が
降りてきて
信じられないほど増幅され
あたり一体が
光の中に包み込まれた
そして 白魔女は杖を振り上げて
我に 太陽の息吹を与えたまえ
我に 愛の力を与えたまえ
と 呪文をとなえて
杖を軽く降った
すると
魔法陣の五芒星が金色に輝き
その中央から
金色と黄緑色の光が
らせんじょうに絡まり合い
悪魔と黒魔女に飛んでいった
悪魔と黒魔女は その光を浴びて
急に魔力を落とした
お~っ
ふぃ~る そ~ ぐっど~
なんて言って
白魔女は サィーディ という
アラブのリズム
しかも
とんでもなく早いテンポの曲を
頭の中で流しながら
その リズムに乗るよう
体をリズミカル揺らしていた
天使は 白魔女の
頭の中で流れているリズムを
テレパシーで読みとっていた
こいつ マジでスゲぇ~
と 天使は思って
こいつ Cool でおもしれぇ~
と つぶやいた
その時・・・・
ふたりの周りが暗くなって
不気味な風が森を通り抜けた
妖精たちは それを察知して
不安な顔をして
大樹の陰に逃げていった
やがて
ふたりの目の前に
ドス黒い暗黒想念の煙
が現れた
その煙の中から
前に天使が戦った悪魔と
白魔女が一緒に魔法の研究をした
黒魔女が現れた
おやおや 落ちこぼれ同士
仲がよいのう~
そう 言って
悪魔は不気味に笑いながら
「 失望の斧 」 と 「 疑いの毒矢 」 を
ふたつ同時に 白魔女めがけて打ち込んだ
とっさに天使は白魔女の前に出て
その斧と毒矢を自分の体で受け止めて
白魔女を守った
え~っ いきなりダブル攻撃かよぉ~
と 天使は言ったが
失望と疑いの毒が天使の心を侵し
天使は白魔女を疑い始めた
天使は 自分の心の中の
失望と疑いのこころ と戦って苦しんでいた
相変わらず 自己犠牲の強い
愚かなヤツよのお~
悪魔は天使をあざ笑った
そのとき 白魔女は
天使の後ろで天使と ともに戦うべく
最強の魔法陣 「 太陽の時季 ( とき ) 」
描こうとしていた
「 太陽の時季 ( とき ) 」・・・・
正義を象徴する降魔の五芒星
愛を象徴する太陽の光
それに 黄緑の癒しの光
それらを かたどった最強の魔法陣
だが
白魔女はそれを描くのに手間取っていた
まだ こころが傷ついていて
描く気力がなかったのだ
しかし 悪魔の攻撃を受けて
白魔女を守りながら 失望と疑いの心と戦っている
天使を見て腹をくくった
そして 白魔女は天使にいった
私 絶対に逃げないから・・・・
私 絶対にあなたと一緒に戦うから・・・・
私 私の魔法のベストを出すから・・・・
だから 私を信じて!
私は絶対に
あなたを独りにしない!
それは 魂の奥底から出てくる
自信に満ちた言葉だった
そして その力強い言葉は
悪魔の悪想念を断ち切った
その言葉を聴いて
天使は正気を取り戻した
天使は
人々や仲間を疑ってはいけない
天使は
人々や仲間を裁いてはいけない
天使は
愛に生きて 愛の中に死んでいく
天使は
すべてを受け入れて慈しんで
生きていく
彼は 傷つき悲しみの中で
この森に迷い込んできた
白魔女は 彼女の魔力で
彼の苦しみを感じていた
でも 彼の苦しみを取り除く魔法は
持ってなかった
だから 彼を抱きしめた
そして
彼の頭を愛しんで撫でていった
ふたりは こもれびの中で
慈しみあい 慰めあった
そして それは愛にかわっていった
私も歳なのかね~
なんか 力が出ないのよ
と 白魔女はいった
ふたりは
寝ころんで足を絡めあっていた
前にね
黒魔女とふたりで
魔法の研究をしたことがあるのよ
それで 私は
その研究に のめり込んじゃってね
本当に一生懸命やったのよ
そして ハッピーになる魔法を
編み出したけど
黒魔女が その魔法をパクってね
黒魔術にしてしまった
それが すごくよく効く魔法で
みんなが 呪いの魔法として
使い始めちゃったんだ
私 みんなにハッピーに
なってもらいたくて作ったのに
なんだか 悲しくなっちゃって・・・・
それで 魔法を使うのが
空しくなったのよ
魔法を一生懸命作っても
みんながパッピーになれない
そんなことなら
もう無理に修行しなくて
楽に生きていればいいって
そう 思うようになったのよ・・・・
白魔女は 無理に微笑みながら
天使に話をした
へぇ~ 天使でも戦うの~
魔女がそういったとき
天使は 魔女の白磁のような背中に
口づけをして強く吸い上げた
その時 魔女はかすかに
声を漏らした
その 白い背中には くっきりと
赤い口づけの跡がついていて
こもれびが
その赤と白を包み込むように
揺れていた
そして 天使は
うつぶせに寝ている
魔女の上に重なるようにのって
足を絡ませて
やさしく髪の毛を撫でていった
そうだよ
天使は人を幸せにするのが
仕事だけど そのために
悪魔と戦わなければならない
時があるんだ
・・・・天使は思い出した
ここに迷い込んでくる前の
戦いは激しかった
通常 天使は独りでは戦わない
信仰を立てて 天上の神と繋がり
仲間とともに組織戦をする
悪魔の武器は 悪想念
念力で天使の霊体を破壊したり
悪想念を魂の中に打ち込んで
魂の中の光を暗黒に変えたりする
一人の天使が
悪魔に悪想念の斧を打ち込まれた
「 失望 」 という名の斧・・・・
その後の悪魔の攻撃は
分かっている
「 失望 」 の斧の後は「 疑い 」 という毒矢
失望させて疑いの思いを
持たせるのが
ヤツらの常套手段だ
悪魔が次の 「 疑い 」 の毒矢を
天使に打とうとしたとき
彼は 自分の体を張って
その毒矢を受け止め
斧を打ち込まれた天使を守った
しかし 失望の斧を受けた天使は
その毒が魂にまわって
失望し恐れをなして
彼を見捨てて逃げていった
「 疑い 」 の毒を受けた彼は
逃げていった天使を疑い始めた
ふと 後ろを見ると
悪魔がしてやったり
という表情で笑っていた
そして 去っていった
その時 彼は
悪魔の術中に落ちたことを知った
悪魔はいつも
心の弱さと
犠牲的精神のお人好しさに
つけこんでくる
彼は
こころの中に仲間を疑う気持ちを
持った自分を許せなかった
人を救うことに疲れた天使が
静かな森に迷い込んだ
その森は
ときおり 穏やかな風が吹き
やさしい陽の光が こもれび となって
地上の小さな花の上に落ちていた
その 小さな花のうしろがには
小さな妖精たちがいた
妖精たちは警戒して
不安げに天使を見てた
こもれびの場所を見つけた天使は
そこに佇んで
ちらちらとゆれる陽の光を
見上げてた
不信 悪意 罵声 恨み 嫉妬 ・・・・
そんなものに疲れ果て
何も考えることが出来ずに
ただ 揺れる陽の光を見ていた
そのとき 妖精の向こう側を
輪郭の少し崩れた白い女が
通りすぎていった・・・・
なんだ あれは?
しばらくしてから
その白い女は
忘れ物を思い出したように
小走りで 天使のところに
もどってきた
あんた だれ・・・・
僕 天使・・・・
なんだか 疲れた天使ね~
うん・・・・
そうね~ わたし
あなたに 魔法をかけてあげるわ
「 日ごとの魔法 」 っていうの
毎日 どんなに こころ が疲れても
この魔法がかかっていれば
大丈夫よ
あとは
きちんと心地よい時間をとって
無理しないでね
そのための「 日ごとの魔法 」よ
そこから始まる
天使と白魔女の愛の物語・・・・