秋に移っていく空をみて思い出した
ちょうど こんな季節から 妻の病状が悪化してきた
肺に転移したガンが大きくなってきた
そして ある日の夜に
右半身が思うように動かないと言い始め
次の日の朝早く 妻に体が動かないと起こされた
急いで病院につれていった
CTを撮ってみると 脳内出血をしていて
右半身が麻痺しているとのこと
2~3日経って こんどは意識がなくなった
眼は開いているが 意識がない
話しかけても返事をしない
子供達には
母親のこんな姿を見せるのは忍びなかったが
ある覚悟をさせるために病院へ連れて行った
子供達も辛かったと思う
2日くらいたって 意識がもどった
しかし 話はできないし 記憶も定かではない
「ぼくは誰?」と聞いても答えない
辛かった・・・・
次の日 仕事を終わって病院へいってみると
看護師さんと妻が話をしていた
少し ほっとした ・・・・
「ぼくは誰?」 って聞いたら
たどたどしく小さな声で
いつも よんでいる ぼくの名前を言って微笑んだ
うれしかった
いままで 名前をよばれたなかでいちばんうれしかった
妻に名前をよんでもらえることだけのしあわせ・・・・
こんなしあわせがあるとは思わなかった
それから 子供達ひとりひとりに半日づつ母親と話す時間を作った
こんなことをするのは 親として本当に辛かった
ぼくは 毎日仕事を終わると病院へ行った
妻のからだが動かない
もう歩けない
あんなに知的な人だったのに
記憶することも定かではなく しゃべることもままならない
夫婦生活が長くなり
妻に対して 気に食わないところがいっぱいあった
妻にないものを求めていた
でも そんなものはもういい
妻が きちんと歩いて 喋れて 健康ならば
そして 生きていてくれれば・・・・
それで充分しあわせだ
そのとき それをつくづく思った
そして 自分の愚かさを悔やんだ
最後に ぼくは妻にそれをあやまった
そのときの妻の目を覚えている
きっと それを忘れることはできないだろう・・・・