時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

Sさんのけじめ

2016-02-01 01:34:13 | 仕事

今日、Sさんの死を知った。

死去を知らせるはがきは一週間以上前にうちに届いていた。

オカンは知っていたが私は知らなかった。

いまごろになってオカンからハガキのことを知らされた。

ハガキを埋もれた郵便物の中から探しだし、文面に目を通す。

亡くなったは昨年の12月22日とある。

葬儀は身内だけでおこない、連絡が遅くなりました、という言訳が綴られている。

私が気づくのが遅かっただけではなかったようだ。

亡くなられてからもうひと月が過ぎていた。

お通夜にいかなかったことの罪悪感が少し和らぐ。

Sさんは66歳であった。

ひとりで工務店を営まれていた。

規模からいうと「町の大工さん」という呼び名が相応しいだろう。

Sさんと最後に会ったのは昨年の7月である。

Sさんの建てた住宅の完了検査に立ち会った。

別れ際に、申請料の支払が遅くなったことの詫びと、三日後に入金しますという報告があった。

支払額は30万円。

Sさんを信じて入金の確認は行っていない。

さらに、その後の変更申請代3万円の入金も確認していない。

あのとき、Sさんは異様に痩せられていた。

病気ではない、といわれていたが、すでに末期だったのかもしれない。

いや、五か月後に亡くなられたわけだから末期だったのだろう。

そういう崖っぷちの状態で、ほんとうに入金があったかは疑わしい。

なにもSさんを疑うわけではない。

状況的に、だれであってもそういう心理になると思う。

人は死を目前にした状態で、商売ごとにそこまで誠実になれるであろうか。

たかが個人経営の小さな商売にそこまで正直になれるであろうか。

自分に置き換えても、誠実を貫けると宣言はできない。

ならば、万が一、入金されていなくても腹は立てるまい、と心に決めた。

とくに、最後の3万円はなかったことにする。

いままでのお礼だと思えばしれた額である。

と、覚悟を決めて、オカンに通帳を持ってこさせる。

恐る恐る通帳を開く。

入金の有無を確かめる。

7月末日、約束通りに30万円の入金を確認する。

ホッとする。

残りの3万円の入金。

正直、これは期待していない。

8月、9月、10月と入金は見当たらない。

やはりなかったか、とあきらめかけたところで入金を確認する。

日付は11月2日。

死の50日前である。

Sさんの律儀に感謝する。

コメント
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