弓矢の先に布を巻く。
そこに火を着け、標的に向けて矢を放つ。
少年はテレビで見たこの荒業に憧れていた。
いつか試してやろうと思っていた。
その日がついにやってきた。
試す場所は少年の祖父の庭だった。
祖父と祖母の留守中を見計らってのことだった。
弓と矢は少年が竹で作りあげたものだった。
少年は矢を放つ標的を探した。
目に止まったのは池の対岸に屹立するシュロの木だった。
祖父の庭では二番目に高い木だった。
4メートル以上はあった。
南洋的な形をしたシュロの幹には一面繊維質の毛が覆っていた。
その毛のいやらしさが標的にはうってつけだった。
少年は矢の先に巻いた布にマッチで火を着けた。
布は威勢よく燃え上がった。
その矢を手に取り、少年は思いきり弓を引いた。
ためらいはなかった。
シュロの木めがけてこのときとばかりに矢を放った。
矢は一直線にシュロの木のど真ん中を撃ち抜いた。
脳裏に描いた通りのことが簡単に実現した。
だが、想像できたのはそこまでだった。
バリバリバリ。
火は音を立て、たちどころにシュロの天辺まで燃え上がっていった。
シュロの繊維質の毛が炎の勢いを劇的に増大させた。
少年は慌てた。
消す手段が思い浮かばなかった。
とっさに閃いたのは三件隣りにあるじゅんすけ君の家のバケツだった。
そこには水道の蛇口があり、いつでも水を出すことができた。
これで消すしかない。
少年はじゅんすけ君の家まで一目散に走った。
走っているうちにこれまで抑えこんでいた恐怖が一気に湧きあがってきた。
現実の重圧が雪崩のように押し寄せてきた。
自分にあの猛烈な炎を消せるわけがない。
少年はじゅんすけ君の家の前を通り過ぎてそのまま逃げ去ってしまった。
夕方近くになって、恐る恐る少年は祖父の家に帰ってきた。
火は消えていた。
そこには黒く焼け焦がれたシュロの木が立っていた。
少年の祖父はまだ帰ってきていなかった。
その代わりにとなりのおじさんがカンカンに怒って待ち構えていた。
「もう少しで上の電線に燃え移るとこやったぞ!」
「おまえが逃げていったとこ見とったぞ!」
火は幸いに早い段階でとなりのおじさんがホースで消していた。
大事にはいたらなかったが少年の心には大きな傷が残った。
火を着けたことにではなく、逃げたことにであった。
矢で火を放つ、この偉業をすべて台無しにしてしまった。
とんだ腰抜けの野郎だ。
一年後、シュロの木は枯れずに立っていた。
焼け焦げた毛は落ち、新しい毛に覆われていた。
少年はシュロの木を見るたびに過去を恥じた。
あの日以来、少年は弓矢を手にすることはなかった。
注釈:少年=小学四年生ころの私
今日の話は夢の話ではなくてリアルストーリー!
シュロの木に向けて火矢を放つ少年、う~んカッコイイと思っていたら、
この物語のエンディングはなんとも悲しい結末に・・・ヽ(*'0'*)ツ アッ キガモエテル!!
大火事にならなくてホント良かったですよね~
( ̄へ ̄|||)ウーン オトウサンニ ゲンコツ モラワナカッタカナ
シュロの木が燃えた記憶は鮮明ですが、怒られた記憶がありません。
もしかしたらそれほど怒られなかったのでしょうかね~
隣のオヤジに怒られたのは憶えてますが(笑)