時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

小田君 その一

2007-07-09 13:04:04 | 人間シリーズ
小田君は男前だった。
頭も良かった。
面白くて人柄も良かった。
背も高かった。
スポーツも万能だった。
けれども本当はとっても小心者だった。
見た目とは裏腹にとっても繊細な少年だった。
そこが好きだった。
そのアンバランスさがなんともいえない親しみを呼んだ。
小学生のとき、小田君は私たちと遊んでいるときに転倒して口の中を切った。
口からボトボトとこぼれるように出血しているのに、
小田君はなにごともなかったように涼しい顔をして保健室にいった。
結局5針を縫う大怪我となり、次の日の遠足を欠席した。
あくる日の朝、小田君はまた涼しい顔をして学校にやってきた。
小田君のポーカーフェースぶりは小学生ながら超一級品だった。
そんな小田君に、中学生のとき悲劇が起こった。

小田君は校内規則で定められていた徒歩通学をいつもズルしていた。
学校のそばの川原まで自転車で来て、その土手の草むらに自転車を隠してした。
そのことを私は小田君からこっそり聞いていた。
ある日の昼休み、私は小田君たちと校内の裏庭でビー玉遊びをしていた。
野焼きのシーズンで田畑のあちこちから黒い煙が上がっていた。
川原の土手が野焼されていることに気づいたのはそれから数分後のことである。
小田君の自転車が危ない!
私は血相変えて土手の方を見た。
遅かった。
遠くに黒焦げになった骨だけの自転車が放置されていた。
小田君の自転車だった。
痛ましい姿だった。
そのとき、小田君はビー玉遊びに夢中になっていた。
いや、正確には夢中になっているふりをしていた。
ときどき、何気ないそぶりで自転車の方をのぞいていた。
誰も小田君の動揺に気づいてはいなかった。
小田君のポーカーフェースは相変わらず鉄壁だった。
しかし、私は見逃さなかった。
小田君の目の縁に、一瞬、一粒の涙が光ったことを…
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本日仏滅なり | トップ | 疲労コンペイトウ »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
物語 (ルナ)
2007-07-09 13:20:57
小田少年物語を書きますか(笑)

でも、そんなにはっきり自分の過去を覚えて
いられると恥ずかしいですね。
自分の事は意外に忘れてたりして。。
返信する
私の事 (クレソン)
2007-07-09 15:02:49
私のハチャメチャなエピソードを書いたら切りがないかも…
幻滅されたら困るんで自分のことは触れないことにしています。
返信する
ぜひ (ルナ)
2007-07-09 16:03:00
クレソンさんの自叙伝をお書き下さい。
毎日楽しみにPCに向かいますよー
返信する
無理 (クレソン)
2007-07-09 16:30:26
高校以降は超真面目人間に改心しましたが
小中時代はワルさの名人でした。
あの頃は何かに憑かれていたのかもしれません。
返信する

コメントを投稿

人間シリーズ」カテゴリの最新記事