rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

米国の新たな合法的奴隷制度となる獄産複合体

2014-02-19 22:29:32 | 社会

以前 堤 未果 著のルポ貧困大国アメリカIIの内容でも紹介しましたが、日経ビジネスオンラインの2014年1月7日号において、アメリカの今を読むという企画の中で堀田佳男氏が米国の獄産業複合体の実態をレポートしていました。要約すると、

 

1)獄産複合体というのは米国の受刑者が民間企業の労働力として安価に使われ、それによって企業が高い利潤を上げる体制を指す。

2)米国では過去10年間で受刑者数が27%増加した。1972年の受刑者数は30万人であったのが、昨年は240万人を超えて8倍に増えている。人口単位の受刑者数では中国やロシアを上回る数である。(図参照)

3)増加する受刑者を受け入れる公共の施設が足りないために民営の刑務所が100カ所以上に増えており、その維持経営に大手企業と契約して受刑者を労働力として提供する方法が取られている。

4)受刑者の増加は麻薬犯罪の厳罰化(受刑者の半分以上)が背景にあり、殺人や強盗などの重罪犯は減少傾向にあるという。しかし3回重罪を犯すと終身刑というスリーストライク法が多くの州で成立していることで、一生刑務所で安い労働力として働く運命にある囚人も増加しているという。

5)民営刑務所の売り上げは4000億円以上にのぼり、大手企業がロビー活動に多額の寄付を費やし、獄産複合体の活性化を促しているという。

6)監獄の労働は時給25セントと格安で囚人はストも労働争議も許されないので企業にとっては都合が良い。また囚人にとって働く動機は「ルポ貧困大国アメリカ」で述べられていたように監獄内における日常用品(石鹸や歯ブラシなど)が有料であり、しかも市価より高いという現実があるという。

7)日本においては、収監は教育刑であって刑務作業も罰としての意味合いは薄いとされるが、米国ではすでに新しい労働力の供給源としての意味が強くなってきている。これは新たな奴隷制度に近い。

 

といったものになります。この獄産複合体の形成は、それなりに古い歴史があり、それについてまとめられた「北海学園情報リポジトリ」では南北戦争時代に囚人を鎖に繋いで労働させた(チェインギャング)経緯があると紹介されています。その報告によると現在特に男性10万人あたりの黒人の収監率が5,000人近く、なんと20人に一人の黒人が刑務所にいる(成人では10人に一人と言われる)計算になるということです(図)。10人に一人の黒人が収監されて獄産複合体で労働力として安く使われているとすれば、これは正に合法的奴隷制度の確立と言えないでしょうか。

このレポートの著者(上杉忍氏)は懲罰としての刑から社会統制としての収監への変化をフーコーの「監獄の誕生」を引いて説明していますが、この現象は世界的な流れとしても捉えられていて、グローバル資本を強大な専制国家になぞらえた「帝国」の著者A. NegriとM.Hardtの近刊であるDeclaration (水嶋一憲ら訳 日本名「叛逆」NHKブックス1203 2013年刊)においても一節を設けて「セキュリティに縛り付けられた者」として実態としての監獄も概念としての監視社会も「膨張する監獄」として例証されています。

 

私がよく米国の現状を表しているとして参考に出すテレビ番組の「Law & Order」においてもシリーズ8、第18話”Stalker”において、刑務所でテレホンショッピングの応対をしている収監者が一般人のカード番号や個人情報を自由に手に入れて悪用し犯罪に及んだという姿が描かれていて、以前はインドなどにアウトソーシングされていたものが言葉の問題がなく安い賃金で働く収監者にこれらの仕事が任されてきている現実を示していました。

 

最近話題になるケネディアメリカ大使の言動などからは、アメリカ人はモラルが高く、米国はヒューマニズムに富んだ社会なのではないか、と我々日本人は勘違いしてしまいますが、TPPで大々的に日本が受け入れようとしている米国グローバル企業の実態とは合法的奴隷制度により弱者から容赦なく収奪する野獣のような存在であり、それを「良し」とするのが米国社会なのだと我々は肝に銘じておく必要があると思われます(理不尽でも合法であれば正義とする思想についてゆけるか)。


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6 コメント

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Unknown (村本尚立)
2014-03-11 12:48:57
大変に勉強になりました。

アメリカにおいて黒人が数多く収監されているのは知っていましたが、それが労働力を確保するためとは。
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米国は移住したい国ではなくなった (rakitarou)
2014-03-12 19:20:37
コメントありがとうございます。
私が医師になった1980年代では、米国はいつかは勉強(留学)に行きたい国、場合によっては移住したい国でした。実際にニューヨークに留学していた1994年頃はまだ「このまましばらく住んでいてもよいかな。」と思わせる魅力を米国社会は持っていたように思います。しかし、21世紀の特に911以降はもう魅力のある国ではなくなったように感じています。
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Unknown (けんしん)
2014-03-18 07:28:59
なるほどと思いました。凄い奴隷制度ですね、ある目的を持って法律は作られる、その政策者は大企業の幹部たちであるですね。刑務所は大企業の為にあるですか、ため息です(-"-)
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米国の実態を日本人は知るべきですね (Masaharu)
2014-08-19 18:06:13
ブログを興味深く読ませて頂いています。特に堤未果氏の「貧困大国アメリカ」シリーズは日本のマスコミがこれまで触れなかった米国の暗い実態を日本に広く知らしめた名著だと思います。堤氏の新刊「㈱貧困大国アメリカ」は読まれましたか?こちらは農業や自治体を巨大多国籍企業が巧妙に食い尽くしてゆくしくみがかかれており戦慄でした。このブログに警告されているように、日本人はもっと危機感を持つべきですね。
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ミズーリ州の暴動の実態 (rakitarou)
2014-08-20 08:06:51
Masaharu様コメントありがとうございます。今無抵抗の黒人青年を射殺したことでほぼ戒厳令状態となっているセントルイス郊外地区についても、その背景には単なる黒人差別以上の追いつめられた人々の憤りがあると思われます。
獄産複合体も、農業などに対する大企業寡占状態も堤氏が著作で紹介しているマスコミで触れない現代アメリカの現実から来ていると思われ、実は各地で一触即発なのではないかと思います。
既に州兵投入という話も出ていますし、米国における国内のミリシア(民兵)弾圧(国外に対してはテロとの戦いと称していますが)も本格化するのではと注目しています。今後とも宜しくお願いします。
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Unknown (おのま@カナダ)
2016-04-27 22:59:10
アメリカの囚人数が300k(1972年)から2300k(2014)へ急増し、かつ、刑務所の多くが政府ではなく私企業によって運営されているのは何故かという疑問があったのですが、新たな奴隷制度の仕組みであると説明されて疑問が解けました

新たな奴隷制度づくりにクリントン夫妻は貢献してきたし、また貢献してくれることになっているから、大企業は懸命に後押しする

日本の囚人数は80k、これをゼロにすることを目指す国でいきましょう。アメリカ大企業の思惑を跳ね返しましょう
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