rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

BSスペシャル欲望の資本主義2025「成長神話の虚実」感想

2025-01-06 14:45:05 | その他

新年恒例の番組である「欲望の資本主義2025」を見たので感想をまとめます。最終章は「まとめ的」な内容がなく、スパッと終わってしまったので一回視聴しただけでは掴みどころがないように感じたのではないかと思いますが、全体を見直してみると、「量的な成長の持続には多極主義(グローバルサウス)の台頭を認める他はない。先進国が経済成長を続けるには、<量の成長>から<価値の成長>に成長の定義を広げねばならない。」という事です。

出演はフィナンシャルタイムズ記者のロビン・ウイグルワース、ロンドン大学経済学者ハジュン・チャン、ニュースクール大学クララ・マッティ、ケンブリッジ大学アンタラ・ハルダル、MITノーベル賞学者ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソンといった識者が代わる代わる出演していますが、余りにコマ切れなのでまとまった論説として捉えがたいものがありました。今回も以下各章ごとに内容を、感想を含めてまとめます。

 

第一章 全てがディールになるとき

 資本主義の勝者が報酬と権利を独り占めしすぎて民衆に再配分をする段階で不平等感が出てしまった。それは先進国と後進国の間でも起こり不満が強くなった。再配分の不手際が成長を抑圧する元にもなった。

 

第二章 合言葉は世界分散(グローバリズムから多極主義へ)

 先進国のみでなく、新興国の株式を含めたオールカントリー(オルカン)インデックス投資が世界の潮流になりつつある。それは「量の成長」からみると量が成長する余地がある新興国を含むから安全投資に見えるが、量の成長は必ずしも一方通行とは限らない。

 

第三章 成長をめぐる迷宮の中で

 各国や社会の制度によって、技術革新が成長につながる内容が異なってきた。AIの発達によって技能が低い仕事の効率化は図れるが、高度な技能の効率化は行われない。今までは中流層の雇用喪失が消費成長の障害になってきた。AIやITが雇用を奪うか創出するかの境界は、先進国産業の3/4を占めるサービス業の生産性にどのようにITが食い込むかにかかる。サイバー空間の様な「無形資産」の成長は無限大なので成長の余地は十分にある。

 

第四章 グローバル化の果ての光景

 人口ボーナスが後進国に移るにつれて、世界のなかで経済成長が起こる地域が移動してきた。グローバリズムは資本、資源、労働といった国際分業によってより安く、より多くの経済成長をビジネスモデルとしてきた。しかしそれは先進国のエゴを生み、後進国社会の成長を阻んできた。米国自体が欧州に対抗して工業成長する際に国家主体の保護主義をアレキサンダー・ハミルトンが取ってきたはず。「国家資本主義」によるグローバルサウスの成長は受け入れざるを得ないのである。

 

第五章 倫理が企業を救う?

 ボン大学のマルクス・ガブリエルは、企業の倫理を重視して、道徳と経済の融合が必要と説きます。一橋ビジネススクールの名和高司教授は、日本は「巧み」に優れ、海外は「しくみ」に優れて海外の方がスピードとスケールで優位なので、いかに「巧み」を仕組みに付け替えてゆくかが大事だと説きます。他番組でやっていた「餃子の王将」が「調理法を巧みに改善」してそれを「制度として全国のチェーン店に拡散徹底」させてゆくやり方はまさにそれかと思いました。また経営者デビッド・アトキンソン氏は、日本は「巧みを価格」に反映できていない、と価値を価格に反映させることをしない事で「成長を自らあきらめている」と解説します。マルクス・ガブリエル氏も量でなく質を成長とみなす転換が必要と説きます。

 

第六章 本当の価値の作り方

 アメリカ型資本主義(グローバリズム)以外の価値をアジアやイスラムなどの異文化の中で見つけてゆくことで新たな価値が生まれる。ヴェトナムの例は労働供給地から消費地としてヴェトナムを成長の土壌とみなす例が紹介。

 

第七章 成長神話は歴史の勝者が作る?

 これは第一章の後くらいに位置付けた方が分かりやすい内容。第二次大戦の勝者がマーシャルプランで欧州の戦後復興の歴史を作り、ワシントン・コンセンサスで民営化や規制緩和などの既定路線を決めて世界に従わせてきた。これは結局権力を持った者が他者の成長を押さえつける役にたってきた。だからこの規制にこだわることなく、新たな成長の定義を行ってよいだろう。

 

最終章 反転する成長の物語

 中国の経済成長を見ても、量の成長は民主主義や自由主義に必ずしもつながらない。量(数値)の成長のみの資本主義は「正義」や「倫理」を重視しない傾向がある。

 ヒトは他者の欲する物を見てそれを模倣して、自分も欲しいと思う。これはルネ・ジラールが提唱する「欲望の三角形」といい、ソースタイン・ヴェブレンも「ヒトは他者の眼で欲望を形作る」と説いた。量でなく、「価値や倫理を欲する事による成長は無限」であって、ヒトがこれらを欲する事で経済の原動力となる道があるのではないか。量や効率性のみを重視したAIやITのみに拘っていたら成長や雇用に限りが生ずる事は必定だろう。


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4 コメント

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NHKの経済番組は問題が多い (hobby4oldboy)
2025-01-10 01:14:36
>経営者デビッド・アトキンソン氏
新自由主義者として悪名高い人なので、あまり発言を真に受けないほうがよいかと。
# 「竹中平蔵並みに」↑です。
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12672097701.html
竹中平蔵や緊縮リベラル様の言う「北欧のような税率に」は間違いです。
「竹中氏もアトキンソン氏も良い感じでネオリベの教義に倣っています。」

https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12655030571.html
「改革して生産性を上げても給料は増えない」~新自由主義者の間違い【下】
「[3]  不完全雇用時の「構造改革」
これはアトキンソン氏ら改革派・新自由主義者の提案です。」
「アトキンソン氏自身は、M&Aや敵対的買収(TOB)を得意とする三田証券で社外取締役に
就いており、レントシーカーとして我田引水のぼろ儲けを狙っていることを隠そうとも
していない。」

https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664064019.html
意図的だったスガ政権の「中小企業潰し」政策。不良債権処理の背後にレントシーカーの暗躍
「バブル崩壊時…「アトキンソンが在籍したソロモン証券(~1992)やゴールドマンサックス
(1992~2007)ら、外資ハゲタカがこの不良債権処理のタームにおいて、何をやってきたのか」
「バブル崩壊後に日本の資産は外資に分捕られていきましたが、その渦中で不良債権ビジネスで
大儲けしたのが、元ゴールドマンのアトキンソン氏」

https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12655030571.html
労働生産性が高まれば給料やGDPが上がる?【誰でもわかるやさしい経済学】
「世界44カ国中41カ国では、確実に「政府支出が増えて、GDPが上がったから、労働生産性が
上がっている」」
「下の図からもGDPと労働生産性が連動していることは一目瞭然だ。
(ついでだが、スガ前首相や東京財団、財務省、アトキンソン氏らネオリベが言っている
「中小企業を潰して大企業に編入させれば労働生産性が向上する」なんて事実も認められない)」

https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12666795467.html
スガ首相のブレーンのデービッド・アトキンソン氏に反論します。① #ネオリベ #工作員
「菅首相のブレーンで、中小企業潰し政策の旗振り役であるデービット・アトキンソン工作員」
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12667976795.html
スガ首相のブレーンのアトキンソン氏に反論します。③ ~詐欺グラフを看破!
「90年代のバブル崩壊後に不良債権ではないものを不良債権だと挙げ連ね、銀行や企業を破綻に
追い込み、ひいてはデフレ不況の引き金をひいたのがアトキンソン氏自身だ」
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12669021826.html
スガ首相のブレーンのアトキンソン氏に反論します。④ ~最終回
「なんでもかんでも採算性で捉え、規制緩和・民営化を進めようとする…ネオリベの思考回路。
「なぜアトキンソン氏が「生産性の比較的高い分野にだけ」は公共投資を許すのか。それは
生産性の低い弱者を切り捨て、上澄みの成長分野のみをM&Aして企業価値を高め、自身の金儲けと
したいからではないのですか。」

>中国の経済成長を見ても、量の成長は民主主義や自由主義に必ずしもつながらない。
中国視点での「民主主義」の概念を御存知でしょうか?(なお「自由主義」が
必ずしも「善」とは言えないのは、前に「新」を付ければ明らかです)。

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2049.html
「中国の社会主義的民主主義体制には、7つの統合された構造、すなわち、制度形態がある。」
「ここでは、選挙制民主主義、協議制民主主義、基層(草の根)民主主義に焦点を当てたい。」
「選挙民主主義は主に人民代表大会に関して行われている。」
「何事も法律となるには全国人民代表大会の承認を得なければならない。」

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2007.html
「欧米の学者によくある誤解は、中国には民主主義が存在しないというものだ。」
「ある国が民主主義であるかどうかは、その国の人民が本当にその国の主人であるか
どうかにかかっている」
「中国は、「全過程の人民民主主義」によってこの基準を満たしている。」
「「全過程の人民民主主義」では、西側諸国のように時々の選挙で投票するだけでなく、
人民代表大会の制度を通じて、市民があらゆる階層で政治過程に参加することができる。
地方人民代表大会(LPC)は、村から省までのあらゆる階層に存在し、国家権力の地域的
機関として機能している。」

あと、中国共産党の党員数は約1億人ですから、政治参加意識が高い人は、ほぼ全員が党員と
考えてよさそう…という事もあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/中国共産党#cite_note-touin-4
南部さやか「中国共産党の党員数、最多の9514万人に…ホワイトカラー層が増加」
『読売新聞』2021年6月30日。

人権問題などについても、中国視点の見解も知った上で判断しないことには…
https://kamogawakosuke.info/2023/03/20/no-1733-中国の人権/
No. 1733 中国の人権
http://kawamomomurmur.blog.fc2.com/blog-entry-592.html
中国のガヴァナンス
http://kawamomomurmur.blog.fc2.com/blog-entry-620.html
毛沢東再考
http://kawamomomurmur.blog.fc2.com/blog-entry-636.html
天安門事件(1989年)の真相
http://kawamomomurmur.blog.fc2.com/blog-entry-856.html
中国を巡る世論
http://kawamomomurmur.blog.fc2.com/blog-entry-1142.html
中国の社会信用評価システム
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新自由主義視点 (rakitarou)
2025-01-10 08:22:52
コメントありがとうございます。アトキンソン氏は竹中的というご指摘はもっともかと思いました。他国に来てNHKの経済番組のご意見番になって会社の社長になっているだけで強引な人物であることはまあ明らかでしょうね。
中国については、現在は「共産党王朝」の時代だと思っています。中国の長い歴史で民主主義であったことなどなく、王朝が腐敗衰退すると新たな革命を天(民衆で力がある者)が起こすの繰り返しなので、今の王朝も時が来れば倒れるだろうと思っています。
返信する
ソースティン・ヴェブレン(1857~1929年) (宗純)
2025-01-11 11:00:46
今回NHKの経済番組でアメリカの社会(経済)学者ヴェブレン(べバレン)を取り上げたのは画期的な出来事でしょう。
ノルウェー移民の両親の12人兄弟姉妹の第6子のヴェブレンの母語は英語ではない。(私も大家族だが第10子の末子で兄と姉だけ。大人とは違い子供は子供に対してきわめて厳しい)
イェール大学で社会ダーウィニズムを学びマルクス経済学と敵対。Ph.D.を得るが厳しい偏見から就職先に苦労する。なにしろ書いている文章が晦渋でしかも長い。しかも学派を作らなかった一匹狼的な理論家ソースティン・ヴェブレンは大恐慌直前に72歳で死ぬが、評価されるのは彼が死んでから。
世界大恐慌発生のメカニズムの理解にはソースティン・ヴェブレンは不可欠だった
ヴェブレンは、物を作る目的の産業(Industry)と、金儲けの手段としての営利企業(Business)との二分で、ビジネスは産業を推進せずに、むしろ産業を侵食していく
ヴェブレンの『技術者と価格体制』(1921年)では技術者の集団(Technocrat)のソヴィエトによって、生産を統制すべきであると主張した(Wikipedia)
ソ連の社会主義経済体制とはカール・マルクスの経済学ではなくて、なんと、「灯台下暗し」でアメリカの経済学者ソースティン・ヴェブレンの理論。ソ連型社会主義経済の土台だったとの愉快な話なのです。
世界の「資本主義」がマルクスの「資本論」時代の商業(生産)から金融へ代わり大拡大するが腐敗堕落が凄まじい、現在はもっと腐敗堕落して情報(監視)資本主義に変化して生き残ったが、とうとう最後の最後、100年前のロシア革命以上の大変革。グレートリセット(大崩壊)のニューノーマルは避けれない。
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士農工商 (rakitarou)
2025-01-11 11:37:07
なるほど・・士はともかく、農工は商より上は正しい価値観だったという事ですね。クリエイティブであることは確かに成長につながります。
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