政府が6月下旬にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案が分かった。
次世代半導体の量産を後押しするために法整備する方針を盛り込んだ。人工知能(AI)や自動運転に必要な半導体を国内調達できるように財政支援する法律を定める案がある。
原案は次世代半導体の量産へ「必要な法制上の措置を検討する」と記した。ラピダスが27年をめどに量産をめざす回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体が念頭にあるとみられる。
政府内には量産への財政支援を担保する法的根拠があれば、民間資金も含めた中長期の投資を呼び込みやすくなるとの意見がある。
財政規律が緩まないよう安定財源の確保を求める趣旨で法整備を主張する声もある。
日本の半導体メーカーは1980年代に世界で過半のシェアを持っていたが、足元では10%を割る。次世代半導体の国内量産体制を構築することは日本の成長力に直結する。
重要産業に欠かせない物資のため経済安全保障上の必要性も高い。
次世代半導体の量産には巨額の資金が要るため各国が国内産業へ財政支援している。
ラピダスは量産に5兆円が必要とみているが、現在は研究開発用の1兆円弱の補助金と民間からの少額出資しか確保していない。政府は原案を基に政府・与党の調整を続ける。
原案は自動運転車両の運行などのプロジェクトを24年度に全国の一般道100カ所以上で実施する方針も書き込んだ。25年度に全都道府県で通年運行の計画策定や実施を目指す目標も示した。バスやトラックの運転手不足の解消につなげる。
リスキリング(学び直し)では企業経営者を対象に地域の産学官の枠組みで29年までに約5000人の能力向上に取り組む方針を入れた。大学と業界が連携したプログラムを創設し、25年度中に約3000人が参加する目標も掲げた。
円安にも言及した。「円安による輸入物価の上昇を通じた家計の購買力への影響等にも注意が必要だ」と指摘し、個人消費にとってリスク要因との見方を示した。2023年にまとめた骨太の方針には円安に関する記載はなかった。
医療保険制度に関しては、高齢化による医療費増大を踏まえ、資金的な余裕のある人がより負担する仕組みを検討する。26年の通常国会に関連法案の提出を目指す。
資産運用立国の実現に向け、公的年金に上乗せする私的年金の個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の掛け金の上限引き上げも調整する。
「拠出限度額および受給開始年齢の上限引き上げについて24年中に結論を得る」と明記した。
財政健全化の指標となる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)に関しては「調整中」との記述にとどめた。政府は25年度に黒字化する目標を据え置く方向で調整する。
岸田文雄首相は4日の経済財政諮問会議で「目標達成が視野に入っており、後戻りさせず経済・財政の一体改革を前進させる」と述べた。
PBは税収と税外収入で社会保障や成長投資といった政策経費を賄えているかを示すもので国債の利払い費は含まない。
長期金利の上昇で利払い費が増加していくことを見据え、まずは社会保障費などの政策経費を借金に頼らずに確保できる状況を目指す。