文部科学省は2026年度から私学助成の配分基準を見直す
文部科学省は経営難の私立大に規模の縮小を促す。収支が悪化した大学には私学助成金の交付条件として経営改善計画を提出させ、上向かなければ助成の減額も検討する。
少子化が加速する一方で私大は増えており、突然の破綻により学生側が不利益を受ける懸念がある。早期の経営判断を求めた形で、統合・再編の流れが強まる。
2026年度から私学助成の配分基準を見直す。経営改善計画の内容を含めた具体的な制度設計は25年度中に進める。
原則として大学の規模に応じて機械的に配分してきた私学助成の転換点になる。
私学助成金は教育・研究の基盤的経費として文科省が日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)を通じ学校法人へ配る。
24年度予算は2978億円を計上した。大部分は学生数や職員数に単価をかけて算出され、平均で学校法人の収入の1割を占める。
私学助成が減額されるのはこれまで、学校法人に法令違反や著しい定員超過が確認されたケースに限られていた。
文科省は国に提出した計画に沿った経営改善がみられない場合も減額対象とする方向で調整している。
背景には急速に進む少子化と、それとは逆行する私立大の動きがある。
文科省の試算によると21年に62万人いた大学入学者は50年に42万人に減る。対照的に私立大は近年も増え、23年度に622校に達した。24年度は4年制私大の59%が定員割れした。
このため私立大の経営状況は既に厳しい。
567法人の22年度決算を基にした私学事業団の調査によると、4年以内に資金ショートする恐れがあり自力での再生が極めて困難な「レッドゾーン」は16法人(3%)。10年以上先に資金ショートする可能性があるなど経営が困難な「イエローゾーン」も85法人(15%)あった。
私立大が撤退する場合は一般的に、定員や教員を減らして規模を縮小させたうえで最終的に募集を停止する。
学生が在籍する間は大学を運営し、全員の卒業をもって閉学とすることが多い。
しかし学校法人が急きょ経営破綻した場合、学生の転学先や学位の授与が難題になる。
創造学園大(群馬県高崎市)が経営悪化を理由に13年に文科省による解散命令を受け閉校した際には、100人超の学生を他の学校などに転入させる必要が生じた。
文科省は私立大の規模適正化を促す政策を積み重ねてきた。自主的に規模を見直す私大に補助金を出す事業を24年度に始めた。
低所得世帯向けの修学支援制度も24年度から、直近3年間の収容定員充足率が8割を満たす大学でなければ対象外とした。
私学助成は「変動が少ない収入で経営の命綱」(私大幹部)にあたる。配分基準の見直しが運営方針に与える影響はこれまでの政策より大きい。
突然の破綻といった非常時に備え、同省は学生が他校へ円滑に移れるようにする学生保護策も強化する。
一方、私立大は学部生の8割が在籍する重要な教育基盤だ。
警察官や消防士といった公的な職種に占める私大卒業者の割合は大卒者全体の9割を超える。文科省幹部は「地域における人材育成で私大は大きな役割を果たしており、地方創生にも不可欠」とみる。
私大の統合・再編は特に人口減のペースが速い地方でより進む可能性がある。
学びたい専門分野を擁する大学が通学できる範囲になくなるといった事態も想定される。高等教育の受け皿として、学部構造が異なる大学間の連携強化も求められる。
(大元裕行)