選挙の投票用紙を数えるスタッフ(7月、英スコットランド)=ロイター
米国や英国をはじめ多くの国・地域で選挙が実施された「選挙イヤー」の2024年は現職の首脳や与党の苦戦が目立った。スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)のケビン・カサスザモラ事務局長に世界の選挙の傾向と背景を聞いた。
――24年の選挙イヤーの結果をどう分析しますか。
「世界的に現職の首脳や与党を『罰する』傾向がみられた。直接的な要因はインフレだ。民主主義国家の現状に対し大きな不満が噴出した。世界的に大きな出来事が起きた際、政治的影響は数年遅れて出る。24年は新型コロナウイルス禍の混乱の余波が表れた」
IDEAのケビン・カサスザモラ事務局長=IDEA提供
――極右が台頭する一方で中道左派の労働党が勝利した英国のような例もあります。左右のイデオロギーにかかわらず政権与党への投票を避ける傾向でしょうか。
「英国などの例外はあるものの、目立つのはやはり極右の台頭だ。有権者が移民の流入や気候変動、技術革新に懐疑的であれば『秩序の回復』を公約する右派勢力が台頭しやすくなる。とりわけ極右勢力に有利な状況にある」
――11月の米大統領選でトランプ氏が勝利した理由は何ですか。
「インフレ以外にも理由はある。金融危機が起きた08年以来、政治体制への不満や怒りがたまっていた。多くの人々が過去40年間の経済動向によって取り残されてしまい、自分たちの利益を考えていない政治体制に怒りをぶつけている」
米国ではトランプ氏が返り咲きを決めた=ロイター
――IDEAは5年前と比べ主要な民主主義指標の1つ以上が後退した国が23年に世界の半数ほどに上ったと指摘しています。
「民主主義の質がいかに広範かつ急速に低下しているかが分かる。民主主義が公平性を実現できていないという考え方が響いている。先行きを予見できないという不確実性の高まりも影響している」
「(指導者の)いわゆる汚職に対する十分な処罰を与えられておらず、民主主義を守るための国際環境も悪化している。以前は民主主義の原則を侵害したと確認されれば、関わった人物には因果応報な結末が待っていた」
――民主主義を取り巻く国際環境の悪化はどのような事例から類推できますか。
「権威主義国家では指導者らが互いに協力し合って自分たちを守る体制を整えている。ベネズエラのマドゥロ政権は選挙で不正を働いたにもかかわらず、中国やロシア、イランなどを頼れるという安心感を基に政権の座に居座り続けている」
3選を果たしたベネズエラのマドゥロ大統領は選挙不正が疑われている=ロイター
「裕福な人々の政治への影響力を制御できない現状にも懸念を抱いている。米国ではイーロン・マスク氏が有権者に100万ドル(約1億5000万円)の小切手を渡し、ビル・ゲイツ氏はハリス米副大統領の陣営に5000万ドルを寄付した」
――民主主義にとってポジティブな結果が出た選挙はありますか。
「インドの総選挙は、民主主義の状態が我々の選挙前の想定よりはるかに良好だったと示した。野党は効果的な選挙キャンペーンを展開でき、与党は(圧勝の事前予測を覆し)大幅に議席を減らした。南アフリカでも同様な傾向がみられた」
「メキシコでは与党不利の世界的な傾向と異なり与党が大勝した。自由で公平な選挙の下、与党が得票率で少なくとも30ポイントの差をつけたのは予想外だった」
(聞き手は小林拓海)