シャープの沖津氏(右から3人目)は株主総会後の取締役会で社長に就任した(27日、堺市)
シャープは27日午後、生え抜きの沖津雅浩氏(前副社長)が社長に就いた。
前任の呉柏勲氏は2年で退任した。
同じ台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業出身で4年間の社長在任中にシャープの業績を立て直した戴正呉氏と異なり、存在感を示せなかった。
2年間に多額の赤字を計上し、鴻海との間に隙間風を吹かせたこと以外、目立つ痕跡はない。
「経営者として失格ではないか」「液晶パネル事業の縮小を決断できなかったのは過去の栄光にしがみついていたからでは」――。
27日午前に堺市のシャープ本社で開いた株主総会。呉氏らの経営責任を問う厳しい声が株主から相次いだ。前年より9人少ない151人の株主が出席し、前年と同数の8人が質問した。
呉氏ら前経営陣に関しては「意思決定のスピードが遅い」(野村証券の岡崎優リサーチアナリスト)との評価が固まりつつある。
みずほ証券の中根康夫シニアアナリストは「呉氏は経営の経験が浅かったのではないか」と話す。
シャープ関係者は「呉氏は技術面の知識が乏しく、社員から尊重されていなかった印象。
台湾にいることも多く、入社式などのリモート参加も目立ち、社員の心は離れていた」と打ち明ける。
シャープの株主総会の会場に向かう株主ら(27日午前、堺市)
厳しい指摘の裏には、2016年から20年まで社長を務めた戴氏の存在がある。「黒字化までは社長報酬を受け取らない」と宣言し、役員構成のスリム化などコストカットを推し進めた。
例えば、社長の決裁が必要な予算の額をそれまでの数千万〜1億円から300万円に大幅に引き下げた。年間の販管費を1000億円規模で圧縮したとされ、18年3月期に4年ぶりに連結最終損益を黒字に転換するなど結果を出した。
みずほ証券の中根氏は「戴氏は投資決済金額の見直しにスピード感を持って取り組んだ。
創業者である郭台銘氏との距離も近く、シャープと鴻海のバランスを意識して行動した」と評価する。
対照的に呉氏に対しては鴻海側の冷たい反応が目立った。液晶パネル事業の不振で23年3月期に連結最終損益が2608億円の赤字になった際は、鴻海幹部から「必要に応じて経営陣の交代を要求する」と突き放すような発言が聞かれた。
経営トップの劉揚偉・董事長は24年5月の鴻海の株主総会で、シャープは「新しい取締役と経営チームが形成される」と人事の刷新を示唆していた。
鴻海が呉氏を事実上更迭した理由は明確になっていないが、シャープがテレビ向けのパネルを生産する堺工場をデータセンターに転換する計画では両社に意思疎通の不備がみられた。
堺工場を巡っては、シャープはわずか1週間のあいだにソフトバンクとKDDIのそれぞれと別の枠組みで「合意」したと発表した。
シャープがライバル関係にある通信大手2社を天秤(てんびん)にかけるような発表の裏には、シャープと鴻海が別々の通信大手と個別に交渉を進めていた事情があるとされる。
沖津氏は株主総会で「速い決断を貫き業務にまい進する」と語った(27日、堺市)
株主総会の前日に発表する今回のトップ人事と合わせ、異例の発表が続いたことを勘案すると、鴻海とシャープの関係は郭氏がシャープを「先生」と呼んだ、以前の蜜月関係ではないもよう。
27日の株主総会では両社のシナジー効果を製品や業績などの成果で示すよう求める株主も複数いた。
シャープは27日、鴻海から劉氏を会長に招き、呉氏を副会長とする新体制を発表した。
鴻海がシャープに対し「より積極的な役割を果たす」(劉氏)狙いがある。AI(人工知能)サーバーの受託生産大手の鴻海のノウハウを取り入れ、堺工場を競争力のあるデータセンターにすることが、株主の期待に応える第一歩になる。
(坂本佳乃子、岡本康輝)