「買収が成立する可能性はゼロに近い」と話すクリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEO
(14日、ワシントン)
【ワシントン=川上梓】
米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は14日、日本経済新聞社などの取材に応じ、日本製鉄による米USスチールの買収が成立する可能性について「ゼロに近い」と話した。
日鉄は買収で米鉄鋼業の中国に対する競争力を高められると主張するが、同氏は「米国は(日鉄の)支援なしに中国に対抗できる」と反論した。
同日、ワシントン市内で開催された米国鉄鋼協会の年次総会で取材に応じた。ゴンカルベス氏は同協会の会長を務めている。
クリフスは以前、USスチールの買収に名乗りを上げていた経緯があり、日鉄による買収に反対する姿勢を鮮明にしている。買収を再提案する可能性も指摘されてきた。
日鉄によるUSスチールの買収はUSスチールの株主総会で承認されたが、米国政府による審査が長期化し、労働組合も反対している。
ゴンカルベス氏は「バイデン大統領は労働組合を支持し、USスチールの所有権を米国が持ち続けることを明確に表明している」とし「米国の大統領が既に立場を表明している以上、買収が成立する可能性はゼロだ」と話した。
そのうえで「日本政府はこのことを知っている。日鉄がまだ買収を進めると言っているのはあきれるばかりか、米国人を侮辱している」と批判した。
同氏がCEOを務めるクリーブランド・クリフスは全米鉄鋼労働組合(USW)に多くの組合員を抱え、影響力を持つ。
ゴンカルベス氏は「労働者の支持なしに(日鉄による)買収は完了できない。日鉄は聞く耳を持っていない」とも批判した。
さらに自身がバイデン大統領だけでなく、トランプ前大統領からも個人的な支持を受けていると説明し、大統領選の結果にかかわらず、買収を阻止すると話した。
日鉄は、自社によるUSスチール買収は、米鉄鋼業が中国の鉄鋼産業に対する競争力を高めることにつながると主張している。
ゴンカルベス氏は「米国は誰からの支援もなく中国に対抗できる。日鉄による支援は有害だ」と反論した。
日鉄が中国で同国の国営鉄鋼大手、宝武鋼鉄集団と合弁事業を展開していることを挙げ「彼らは中国と一緒に行動しており、(周辺国への過剰な鋼材輸出などを)中国が実施することを許す立場にあるからだ」と説明した。
日鉄は3日、USスチールの買収完了の時期の見通しを当初の4〜9月から延期した。米当局の審査が長引く可能性があるなかで「12月末までを目指す」(日鉄幹部)としているが、完了時期は11月の米大統領選の後になる公算が大きい。
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分析・考察
アメリカ人の鉄鋼ナショナリズムは想像以上にきつい。
アメリカ経済がAIや半導体によってけん引され、鉄鋼のGDPに占める割合はかなり小さくなっているが、やはりアメリカの国力のシンボルだからか、日本に買収されてたまらない。
中国も無防備にアメリカの自動車産業に挑戦している。
だからこそバイデン政権は関税を4倍にすると発表している。アメリカとは戦略的に付き合わないといけない