日鉄によるUSスチール買収計画が一歩前進することになる(ペンシルベニア州の製鉄所)=AP
【ニューヨーク=川上梓】
USスチールは25日、日本製鉄が同社を買収する適格者としてふさわしいかを判断する全米鉄鋼労働組合(USW)との間の仲裁で、会社側の主張が認められたと発表した。
買収に反対していたUSW側の主張は認められず、日鉄に有利な結論となった。買収への機運が高まる可能性がある。
同日、USスチールとUSWが仲裁結果を発表した。1月にUSWが「日鉄はUSスチールの経営権を継承する資格がない」と申し立てたため、8月15日から、USスチールとUSWが共同で選出した米国の3人の弁護士で構成する仲裁委員会が議論してきた。
1カ月超の議論の結果、日鉄がUSスチールを買収する適格者としてふさわしいとの結論が出た。今回の仲裁に法的拘束力はないが、買収に反対するUSWの主張が認められなかったことで日鉄に有利となり、今後の交渉に影響する可能性もある。
USWは申し立てで、日鉄による買収でUSスチールは日鉄の米子会社の傘下に入るため、「組合員の年金や退職金を考える上で財務面の懸念がある」と主張。
労働者への利益分配が適切に実施されているかが検証しにくくなるとしていた。
仲裁委員会はこの点に関し、日鉄の米子会社はUSWが労働協約を結ぶ後継者の条件を満たしており、さらなる措置は必要ないと結論づけた。
仲裁には日鉄関係者も出席した。仲裁委員会は「日鉄は後継者の条件を満たすことを書面で約束した」とした。
USスチールは結論について、日鉄が買収後にUSスチールの製鉄所に投資し、2026年までの労働協約期間中は一時解雇や工場閉鎖を行わないと約束したことや、輸入関税措置に関してUSスチールの利益を守るとしていることが根拠になったとしている。
USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は25日、「仲裁の結論は(日鉄による)買収計画の進捗を後押しするものだ。我々は保留となっている買収計画が前に進むことを楽しみにしている」との声明を発表した。
日鉄も26日、「当社がUSスチールとUSWとの基本労働協約に定められた要件を順守していることが中立的な仲裁で認められたことをうれしく思う」との声明を発表した。
買収を巡っては計画を審査する米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が国家安全保障上の懸念を示していた。日鉄は23日までに計画を再申請した。買収の可否を巡る判断は11月の米大統領選後となる。同社は24年末までの買収完了を目指している。
USWは同日、「結果に全く同意しない」との声明を発表した。仲裁委員会が「米政府の承認なしに買収は成立しない可能性がある」と指摘したことを引用し、「この買収は米政府の承認を得ない限り、完了できない」と改めて反対を主張した。
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、大統領選挙を控えた米国で政治問題となり、先行きが注目されています。最新ニュースと解説をまとめました。
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日経記事2024.09.26より引用