米西部ユタ州でファーボ・エナジーが開発する地熱発電所(同社提供)
【ヒューストン=花房良祐】
米国で次世代の地熱発電技術に注目が集まっている。
温暖化ガスを排出しない安定電源としてバイデン政権も支援する。三菱重工業は地熱発電開発の新興企業に出資しタービンを供給。非鉄金属の大同特殊鋼は地熱発電専用の鋼管部品を開発するなど日本企業も商機を見いだしている。
米国は次世代の地熱発電「地熱増産システム(EGS)」の実用化を目指している。地熱発電は従来、地下の熱水・蒸気を掘り出して蒸気タービンで発電していたが、安定的に発電できる適地が少ない。
EGSは従来より2〜3倍深い地層の高温の岩盤を水圧破砕して水を注入。地熱を利用して蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して発電する。
三菱重工は2月、米ヒューストンを拠点とする地熱発電スタートアップのファーボ・エナジーに少額出資した。
ファーボはシェール開発の掘削技術を応用し、従来は開発できなかった地域で地熱発電を実施する。
垂直に約3000メートル、地中を水平に約1500メートル掘削する。このため、地下深くに眠る熱の貯留層にたどり着きやすい。
従来の地熱発電は垂直に1000〜1500メートル掘っていた。
ティム・ラティマー共同創業者兼最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞に「新技術で米国の地熱発電の開発余地は100倍になる」と話す。
ラティマー氏はじめ同社社員の半分以上はシェール業界の出身だ。
従来型の地熱発電は現在、米国で約400万キロワットある。新技術を使えば約3億キロワットの開発が可能になるという。
地熱は太陽光・風力のように発電量が天候に左右されず、ベースロード(基幹電源)のように安定的に発電できる。
バイデン政権は米国の家庭6500万軒に供給できる潜在力があるとみる。石油業界も既存の開発技術が応用できるため注目している。
ファーボの想定発電コストは1キロワット時あたり10セントという。米国の太陽光発電と比べると8割高いが、原子力発電所より1割安い。米国政府はEGSの発電コストを35年まで4.5セントに低下させることを目標に掲げる。
米西部ユタ州では大型原子炉1機の4割に相当する出力40万キロワットの発電所を開発中。初めての新設案件だ。
まず10万キロワット分を26年に稼働させ、三菱重工グループの発電タービン3基を導入する。残り30万キロワットを28年に稼働させる計画。
西部ネバダ州では地元電力を介して米グーグルのデータセンターに電力を供給する。出力11万5000キロワットで、25年にも掘削を開始する。
ラティマー氏は「日本や東南アジアでの展開を三菱重工と協議している。30年代には米国外の発電所を稼働させたい」と海外展開にも意欲を示す。
ファーボにはこれまで米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やシェール開発会社のデボン・エナジーなどが4億ドル(約600億円)を出資した。
素材メーカーも商機を狙う。大同特殊鋼は米シェブロンと地熱発電専用の鋼管部品を開発し、米国に投入する。
同社はこれまでシェール用の鋼管部品を供給してきたが、従来より深い地層を掘ると硫化水素の濃度が高く金属が腐食しやすい。新素材の合金を開発し高温下の耐食性と強度を高める。
22年度に研究を本格開始し、24年度までの3年間で研究開発費は計約1億800万円となる見込み。日本財団が一部を支援する。
25年5月までに試作品を製造し、27年にも日本の国内工場で大量生産する計画。地熱発電に関心を示すシェブロンなど石油会社への販売を目指す。
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日経記事2024.10.19より引用