日本時間2日早朝の外国為替市場で円が再び急騰し、一時153円台をつけた。
市場では政府・日銀が為替介入に動いたとの見方が有力になっている。3日から大型連休後半に入るのを前に、円安進行に釘を刺す狙いがありそうだ。
市場参加者も予想しない攻めの姿勢でさらなる追加介入への警戒感も強まってきた。
米東部時間1日午後のニューヨーク外国為替市場。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長による記者会見が終わり、市場参加者が一息ついているタイミングに騒ぎが起きた。
「これは介入なのか?」。モニターを見ていた在ニューヨークの為替ディーラーは目を見張った。
電子取引上で5兆円程度と大規模な為替取引があったからだ。時刻は日本時間2日朝5時台。通常、この時間帯の商いは薄い。
1ドル=157円台半ばで推移していた対ドルの円相場は日本時間午前5時台に急速に上昇、40分ほどで4円50銭近く円高・ドル安が進んだ。米バノックバーン・グローバル・フォレックスのチーフ市場ストラテジスト、マーク・チャンドラー氏のもとには顧客から問い合わせの電話が殺到した。
1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でパウエル氏は「次の政策金利の動きが引き上げになる可能性は低い」と強調した。これが(金融引き締めに慎重な)ハト派発言だと受け止められ、円相場は1ドル=157円ちょうど付近まで円高・ドル安方向に振れた。
ただし会見が終わると157円台半ばまでじりじりと円安・ドル高が進み始めていた。
そのタイミングで起きた急騰だけに「不自然な動きだ。円買い為替介入が入った可能性は考えられる」(りそなホールディングスの井口慶一シニアストラテジスト)。ある邦銀ディーラーは「意表を突かれるような大きな値動きだった」と振り返る。
24年の円買い介入規模、年間で最大になる可能性
市場関係者によれば、電子ブローキングシステム(EBS)では日本時間2日早朝、取引が5兆円規模に膨らんだ。為替介入の影響があったとみられる。
4月29日の「5兆円介入」とほぼ同じ大きさだ。2回合計で介入規模が10兆円に膨らめば、年間ベースでは22年の実績(約9兆円)を上回り、財務省が公表している1991年以降の円買い介入では最大となる可能性がある。
今回の「介入」も前回と同様、市場の取引が薄い時間帯を狙ったものとの見方が市場で浮上している。
スタンダードチャータード銀行の江沢福紘フィナンシャルマーケッツ本部長は「メーデーで日本の朝方という流動性の薄いところが効果の高いタイミングとして狙われた」と指摘する。
取引量が少ない時間帯であれば、同じ量の円買いでも円相場を大きく押し上げることができる。
ましてや今回は前回の4月29日の翌々日という、市場参加者の多くが想定していないタイミングの介入観測だ。円相場は一時153円近辺と、4円超も円高・ドル安に振れる結果となった。
「(翌日の)米雇用統計後の値動きが見えない中で介入に踏み込んだとすれば、相当アグレッシブな判断だ」(バノックバーンのチャンドラー氏)といった声もあった。
連休後半、3回目の「介入」に警戒感
もっとも、ここで一気に円高基調に転じるとみる市場参加者は少ない。実際、2日午前10時台に円相場は1ドル=156円20銭台まで下落する場面があった。
「輸入企業を中心にまだドル買い需要は残っている」(邦銀ディーラー)という。ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは「投機筋は足元では円売り・ドル買いを手控えているかもしれないが、介入が効かないとの印象を得れば、次回介入時にドルを買い戻す動きは速くなる可能性がある」と指摘する。
3日から日本は再び連休に入る。市場では追加介入への警戒感は強まっている。
岡三証券の武部力也シニアストラテジストは「当局としては相当な覚悟を持った介入だろう。もう一段の介入があっても不思議ではない」と話す。
3日夜には米雇用統計の発表を控える。
「4月29日と今回の『介入』を無駄にしないよう、雇用統計の結果次第ではもう一度介入に動く可能性もある」(伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミスト)との指摘もある。
政府・日銀が想定よりも早く追撃に動いたとの観測は、市場参加者に「第3撃もあり得る」との見方を与える。一方で円高進行が限られたことからドル需要の強さをも印象づけ、円安圧力は依然として根強い。
当局者も市場参加者も気が抜けない大型連休の後半となりそうだ。
(生田弦己、ニューヨーク=三島大地)
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