NTT(9432)が変貌しつつある。カナダの調査会社ストラクチャー・リサーチによると、データセンター運営のシェアで世界3番手。
データセンターは人工知能(AI)の普及で需要が爆発的に伸びている。実はNTTは日本を代表するAI関連銘柄の一つなのだ。
省電力・高効率の技術基盤がチャンスに
これまでのところ投資家の視線はアドバンテスト(6857)など半導体銘柄に集中してきたが、22日にはソフトバンクグループ(9984)が米オープンAIと共同で、今後4年間で5000億ドル(約78兆円)を投じて米国でAIインフラを構築する計画を打ち出した。
さらなる加速が見込まれるAIを巡っては省エネや効率性も焦点となる。ここにNTTのチャンスがある。
「2025年にはいよいよIOWN(アイオン)2.0が始動する。コンピューティングの領域に光電融合デバイスを導入して電力消費を下げていく」。
島田明社長は24年11月、研究開発の年次イベントで、AI時代の情報通信インフラを支える「光」の商用化推進へ力を込めた。
今は電気信号が担っている様々なシステムの制御を段階的に光に置き換え、いずれチップの回路内部まで光化して省電力・高効率の処理を実現する――。その土台が次世代通信基盤のIOWNで、通信からデバイスへ版図を広げる構想を描く。
電気信号による通信は光信号と比べて多くの熱を出し、大容量になるほどエネルギーの消費も大きい。
IOWNは1.0の遠距離通信を手始めに、基盤同士をつなぐ2.0、チップ間の3.0、そして最終段階の4.0ではチップ内まで、電気から光へ回路を置き換えようとしている。
20年には世界普及へ技術開発や標準化などを推進する「IOWNグローバルフォーラム」を、ソニーグループ(6758)や米インテルと設立した。
これまでに150超の企業や団体が加わり、米エヌビディアやクアルコムなど半導体大手も名を連ねる。
デバイスで稼ぐ布石も
23年には光電融合の装置開発・製造に向け、全額出資子会社のNTTイノベーティブデバイス(横浜市)を設立した。
通信を土台としつつデバイスでも稼ぐ布石だ。広井孝史副社長はNTTにメーカーの側面が生じうるとして「チャレンジだが需要を捉えられればかなりの収益的なインパクトがあるだろう」と語る。
設計だけにとどまるか製造にまで踏み込むのか、事業化に向けてリスクを取った投資の検討を続ける
だが株価はさえない。24年は8%下げ、時価総額や流動性が高い大型株でつくる株価指数「TOPIXコア30」の30社で4番目に成績が悪かった。
25年も24日時点で5%安と日経平均株価(ほぼ横ばい)に負けており、低空飛行が続く。
株価下落は24年5月の決算発表で、25年3月期の連結純利益(国際会計基準)が1兆1000億円と前期比14%減る見通しを示してから加速した。
NTTドコモと地域通信会社が担う中核の通信事業不調が重荷だ。QUICKによると投資評価を出している証券会社9社のうち「強気」は3社で、長引く低空飛行でも逆張り機運は高まらない。
24年4〜9月期のドコモの純利益は前年同期比4%減の3890億円だった。金融や決済などのサービスは順調だが、23年7月に導入した低料金プラン「irumo(イルモ)」への契約者移行で、ARPU(1契約あたりの月間平均収入)が低下してきた。
シェアを維持、拡大するための販促費用増も利益を圧迫する。
新料金プランの影響は一般に2年ほどで一巡する。SMBC日興証券の菊池悟シニアアナリストは「26年3月期までは通信収入減は確定的で、変動費がほぼないため利益減に直結する。
来期の後半には底入れする」とみる。顧客のつなぎ留めには成功しているとして、ARPUの下げ止まり後に個人向けサービスを伸ばせるかに注目する。
株価調整は一巡か
地域通信事業を手掛けるNTT東日本と西日本もコスト削減を進め、グループとして今期を底とした反転の芽は出てきた。
ドコモも金融や決済などは好調で、通信が反転を探る段階に入る可能性は十分ある。QUICKコンセンサスのアナリスト予想平均をみると、26年3月期の連結純利益は今期の会社計画比7%増の1兆1800億円。来期予想ベースのPER(株価収益率)は10倍台後半で、直近3年間の下限近い水準まで調整が進んできた。
ここから長期の成長を買えるかはIOWNを軸とした脱・通信依存の成否にかかる。
NTTグループの事業戦略と財務を統括する広井孝史副社長は日経ヴェリタスの取材に「AIサーバーなどに我々の技術がどれだけ使われるか。一定の売り上げやポジションは現実にしていかなければならない」と語った。
NTT株の25年3月期会社計画ベースのPER(株価収益率)は11倍強にとどまる。ハイテク企業としての成長期待がほぼ織り込まれていないどころか、国内通信同業のKDDI(9433)やソフトバンク(9434)にも引き離された。
長年の基礎研究と通信事業で培ってきた「光」の蓄積をデータセンターなど成長分野で花開かせる道筋がみえれば、投資家の期待を映すPERは切り上がりうる。
グループ再編も焦点
IOWNと並んで注目されるのがグループ再編の行方だ。18年のNTT都市開発に続き、20年に上場していたNTTドコモを4兆円かけて完全子会社にした。
22年には長距離固定通信のNTTコミュニケーションズ、システム開発のNTTコムウェアをドコモ傘下に集約し、法人営業分野を強化した。
再編の最終パーツとして静かに注目されているのが親子上場するNTTデータグループ(9613)だ。
世界50カ国以上に展開する日本最大のIT(情報技術)サービス会社で、データセンターなどを担う。
NTTの持ち分は約58%にとどまる。24年3月期には配当金136億円がNTT以外の非支配株主に流出した。
「今はNTTデータが伸びてもNTTの評価につながっていない。今後の成長にはNTTデータの事業領域を攻めなければならない」(SMBC日興の菊池氏)との指摘は多い。
完全子会社にすれば利益を全て取り込めるうえ、ドコモが稼ぐ潤沢な現金収入をNTTデータの成長投資に回しやすくなる。
加えて、データセンター運営を通じて蓄積してきた顧客接点は、NTTグループの提供するサービスを実際に売るための突破口になる。売れるニーズをつかみ、業界標準の地位を確立するチャネルにもなるわけだ。
日本経済新聞のネットと対面証券10社の集計では、少額投資非課税制度(NISA)を通じた24年の買付金額で、NTTは1808億円と個別株首位だった。
23年の株式25分割で最低売買金額が下がったことも呼び水となり、株主数は24年9月末時点で244万人と日本最大だ。NTT株の再起動は、個人投資家の投資意欲を刺激する。日経平均株価4万円台の定着に向けたピースの一つでもある。
今年は民営化40年の節目にあたる。
NTT法をめぐっては自民党が議席を減らした24年秋の衆院選を経て廃止機運はしぼんだが、同年の改正で研究成果の開示義務廃止などが実現しており、大きな足かせは外れた。業績底入れと事業変革の確度を確かめる勝負の年になる。
(篠崎健太)
[日経ヴェリタス2025年1月26日号]
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