豪資源大手クイーンズランド・パシフィック・メタルズは
ニッケル価格の下落の影響を受けている=ロイター
オーストラリアの資源会社クイーンズランド・パシフィック・メタルズ(QPM)は電気自動車(EV)用金属の価格低迷を受け、ガス採掘事業に力点をシフトする方針を打ち出した。
輸入ニッケル鉱石を加工しEV向けに供給する計画だった。
QPMはニューカレドニアから輸入したラテライト鉱石を加工し、電池材料の硫酸ニッケルと硫酸コバルトを生産するタウンズビル・エネルギー・ケミカルハブ(TECH)プロジェクトの施設整備を進めてきた。
同事業には米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)、韓国の財閥LGや鉄鋼大手ポスコなどからの出資や一定量の購入を約束するオフテイク契約を確保している。
だがQPMは事業を順調に進められていない。背景には電池用金属の価格落ち込みがあり、豪資源他社も打撃を受けている。
QPMのデービッド・レンチ最高経営責任者(CEO)は4月24日、市場が回復するまで、同事業への追加投資を制限する方針を発表した。
レンチ氏は「電池用金属、特にニッケルに関するマクロ環境から、我々の投資継続や今後のニッケル事業への市場の資金調達は極めて困難なのが実態だ」と説明した。
レンチ氏はQPMが今後もTECHプロジェクトに取り組み、購入を確約した提携先や政府との連携を保ち、事業継続の道筋を模索すると付け加えた。
「豪州が再生可能エネルギーへの転換、特にニッケルや電池用金属の持続可能な開発の運営や支援に力を注ぐうえで、こうした事業の進展が欠かせない」
QPMは今回の事業計画変更で、東部州のモランバ・ガス事業の生産拡大に力を注ぐ意向だ。
当初は加工施設向けのエネルギー供給源として、2023年8月に同ガス事業を取得した。
豪東海岸ガス市場でガス・電気の不足がある。レンチ氏は「東部州のエネルギー市場ではモランバ地域の我々の施設を通じた資源供給が必要とされている」と語る。
QPMの発表は長年、原材料輸出国だった豪州が環境エネルギー技術用素材の加工生産や流通で世界的地位を強化しようとするなかで、課題を顕著に示している。
豪ニッケル産業は中国が支援するインドネシア生産者からの供給増に直面し、複数の事業が閉鎖を余儀なくされている。
ニッケル価格は23年1月の1トン3万ドル(約470万円)を上回る水準から今年2月には40%安の1トン約1万6400ドルとなった。
豪資源大手BHPグループは西オーストラリア州のニッケル・ウェスト事業の計画を見直しており、4月中旬、今後の事業凍結の検討について8月までに結論を出すと発表した。
豪産業・科学・資源省はエネルギー・資源に関する四半期調査で、ニッケル市場の世界的供給過多が今後数年続くと予想した。ただ、同省は20年代の終盤に状況は改善するとみている。
同省は24年度のニッケルの輸出収入が36億豪ドル(約3700億円)に下がると予想(前年度は52億豪ドル)する。25年度も下がり、24億豪ドルに落ち込むと想定する。
(シドニー=ショーン・タートン)
[日経ヴェリタス2024年5月12日号、Nikkei Asiaから転載]
日経記事2024.05.16より引用