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トランプ氏が欲するグリーンランド、高まる独立機運

2025-01-11 12:16:16 | トランプ政権、米大統領選2024


グリーンランドはかなりの部分が氷河で覆われている=ロイター

 

トランプ次期米大統領が購入に意欲を示すデンマーク領グリーンランドでは、実はデンマークからの独立に向けた機運が高まっている。

焦点は4月までに実施されるグリーンランド自治政府議会選挙で、独立に向けた環境が整うか。選挙戦では独立後の米国やデンマークとの国防や経済関係のあり方も議論される公算が大きい。

 

 

グリーンランドの独立「支持」、「売り物ではない」

 


ケムニッツ氏はグリーンランド自治政府議会を経てデンマーク議会議員に選出された
(デンマーク議会のホームページより)

 

グリーンランド選出のデンマーク国会議員であるアヤ・ケムニッツ氏は10日、日本経済新聞のオンライン取材に応じた。

「グリーンランドの人々は売り物ではない。グリーンランドの将来はグリーンランド人が決める」と述べ、米国によるグリーンランド購入に反対する立場を強調した。

 

デンマークの総人口は約600万人。このうち自治領であるグリーンランドは約5万7000人で、議会定数179人のうち2人を割り当てている。ケムニッツ氏はグリーンランドから選出された国会議員の一人だ。

グリーンランドのデンマークからの独立についてケムニッツ氏は「支持する」と明言するとともに、「デンマーク市民になりたいのか、米国市民になりたいのか、と聞く人もいるが、グリーンランドにとっては第3の道が必要だ」と訴えた。

 

 

防衛、教育などで米国と協力を、中ロとは一線画す

ただ、独立の時期に関しては「時間がかかる。教育システムやビジネスの発展、正直にいえばお金次第だ」

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ケムニッツ氏(中央)は2人いるグリーンランド選出デンマーク国会議員の一人だ=ロイター


ただ、独立の時期に関しては「時間がかかる。教育システムやビジネスの発展、正直にいえばお金次第だ」と明言を避けた。

北極圏に関心を示す中国やロシアとは一線を画したうえで「カナダや米国との緊密な協力は意味がある」と語り、防衛や教育などで米国の一段の協力を得たいとの考えを示した。

 

グリーンランドは未開発の資源が豊富とみられるほか、アイスランドや英国とともに北極海と大西洋の航路を押さえる要衝だ。

北極進出を強める中ロへの対抗を重視するトランプ氏は、第1次政権でもグリーンランド購入に意欲を示した。

 



 

グリーンランドは日本の5倍超の面積があるが、かなりの部分を氷河が覆っている。

1953年まではデンマークの植民地だったものの、その後はデンマークの一部となり、2009年以降は外交・安全保障の分野を除いて広範な自治権を持つ自治領となっている。グリーンランド自治法第8章では将来のデンマークからの独立手順についても定めている。

 

足元では、グリーンランドの住民の過半はデンマークからの独立を支持しているという。近年では、過去のデンマーク政府によるグリーンランド住民向けの非人道的な行為が相次いで明らかになり、独立志向に拍車がかかった。

 

 

デンマーク政府による強制避妊や強制移住など「負の遺産」が影

第1に、かつてグリーンランドでは出生率を抑えるため、女性に子宮内避妊具を装着し、避妊を強制していた。

少なくとも4000人以上の女性が対象になったとされ、被害者の女性らはデンマーク政府に補償を求めている。デンマーク政府とグリーンランド自治政府が調査委員会を設置して真相究明に乗り出した。

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デンマークのフレデリクセン首相=ロイター

 

第2に、第2次世界大戦後の1950年代、デンマーク政府がグリーンランド住民の子どもを家族から引き離し、強制的にデンマーク本土へと移住させたことだ。

グリーンランドがデンマークの一部であることを国連に示すための措置だったが、デンマークのフレデリクセン首相は2022年に存命中の被害者に面会し、謝罪した。

 

現在、デンマークの首都コペンハーゲンで在外研究をしている高橋美野梨北海学園大学准教授は一連の悲劇について「『文化的なジェノサイド(集団虐殺)』といわれ、グリーンランドのデンマークからの独立論と密接に結びついている」と指摘する。

 


トランプ次期米大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏(中央)はグリーンランドを訪れた
=ロイター

 

次期米大統領への当選を決めたトランプ氏が24年12月、グリーンランドの購入に意欲を示したのに先立つ動きで、トランプ氏がグリーンランドの独立論をたきつけたわけではない。ただ、結果的にトランプ氏の発言が独立論を後押ししている可能性はある。

 

 

デンマーク首相は「ばかげている」発言封印、慎重に対応

2019年にトランプ氏がグリーンランド購入に意欲を示した際、「ばかげている」と強い言葉で反発したフレデリクセン氏。今回「グリーンランドは売り物ではない」としつつも、「グリーンランドの将来はグリーンランド住民が決めること」と慎重な発言に終始しているのは、グリーンランドの独立論の高まりを意識しているからにほかならない。

 


エーエデ氏は9日、コペンハーゲンで記者会見を開いた=ロイター

 

グリーンランド自治政府のエーエデ首相はデンマークからの独立を前進させる決意を固めたようだ。

「植民地主義の呪縛を解き放ち、わたしたちが次の一歩を踏み出す時だ」。年初の演説でこう述べた。

 

エーエデ氏は8日にコペンハーゲンでデンマーク国王のフレデリック10世と会談。フレデリクセン氏とも相次いで会談するなど、今後の対応について地ならしを進めているようにも見える。

 

 


グリーンランド自治制のエーエデ氏は8日、デンマーク国王のフレデリック10世と会談した=ロイター

 

 グリーンランドでは定数31人の自治政府議会の選挙が今年4月までに実施される予定だ。

デンマーク・オルボー大学のリク・ラスタッド准教授は「選挙を経て選出された次期首相が独立を問う住民投票をいつ実施するかなどを決めるだろう。独立に向けた動きは『あるかないか』ではなく『いつか』という問題だ」と日本経済新聞の取材に答えた。

 

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デンマーク政府はひとまず静観の構えだ。ポールセン副首相兼国防相は24年12月、トランプ氏の発言の直後にグリーンランドの防衛予算を増額する方針を表明、「運命の皮肉」と語った。

ドローン(無人機)や検査船の購入、犬ぞり隊の追加導入などが内容。ただ、北極海という地政学的上の要衝に位置していながら、国防面の対応が後手に回っていたことを図らずも露呈した形だ。「長年にわたって必要な投資を怠ってきた」とポールセン氏も認めた。

 

 

 

デンマーク政府、トランプ次期米政権と対話の準備

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デンマークのラスムセン外相は米国との対話に意欲を示した=ロイター

 

首相経験者でもあるラスムセン外相は「グリーンランドの野心を十分に認識している。それが現実のものとなれば、グリーンランドは独立国となる」とグリーランドの決断を尊重する立場だ。

米国によるグリーンランド購入論は否定しつつも「米国の野心を満たせるようにどのように協力できるか、米国と対話をする用意がある」と述べ、グリーンランドをめぐりトランプ次期米政権と協議する意向を明らかにした。

 

仮にグリーンランドがデンマークから独立する場合、グリーンランド、デンマーク、米国の3者がどのように協力するかの青写真を描く必要がある。

グリーランドは歳入のかなりの部分をデンマークからの補助金でまかなっている。今後は豊富な鉱物資源の開発や観光などで自己財源を増やすにしても、独立後も一定期間はデンマークによる財政支援が不可欠とみられている。

 

もちろんデンマークもグリーンランド独立の是非を問う国民投票を経て、憲法を改正する必要がある。

 

 


欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長㊧は2024年3月にグリーンランドを訪れ、エーエデ氏㊨と会談した=AP

 

仮にグリーンランドが独立しても、領内に米軍基地を持つ米国は引き続き安全保障面で協力するだろう。

場合によっては援助と引き換えに、米企業が鉱物資源開発を主導するといったシナリオもあり得る。グリーンランドはデンマークの一部でありながら欧州連合(EU)に加盟していない。

 

将来の北大西洋条約機構(NATO)加盟や安全保障協力も交渉テーマにのぼる可能性がある。ちなみにEU関係者によると、グリーンランドはEUに加盟していないものの、EU加盟国であるデンマークの一部として、域外から攻撃を受けた場合の相互防衛の対象になるという。

 

 

独立後のデンマーク、「自由連合協定」のシナリオも

 


トランプ次期米大統領はデンマーク領グリーンランドの併合に強い意欲を示した=ロイター

 

デンマーク内で取り沙汰されているのは、独立グリーンランドがデンマークや米国と「自由連合協定」を結ぶシナリオだ。南太平洋のミクロネシア連邦やパラオが米国と結んでいる協定だ。

主権国家として独立しつつも、米国の軍事力や経済力の強い後ろ盾を得ている。こうした将来の道筋についても今後議論が活発になるとみられるが、デンマーク国会議員のケムニッツ氏は「簡単なやり方はない」とクギを刺した。

 

「トランプ氏が最初にグリーンランド購入に意欲を示した2019年当時と比べると、デンマーク国内ではグリーンランドの将来について真剣に受け止めようという感じになっている」と高橋氏は語る。

軍事力を行使して米国がグリーンランドを吸収する「力による現状変更」は論外としても、トランプ氏がグリーンランドの将来に大きな一石を投じたのは間違いない。

 

 
 
 
 
日経記事2025.1.11より引用
 
 
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