海底ケーブルの破損を受けバルト海をパトロールするエストニア海軍の艦船(9日)=AP
【ヘルシンキ=児玉章吾】
北欧に面するバルト海で相次ぐ海底ケーブルの破損を受け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が監視網を広げる。
人工知能(AI)を用いて不審船の情報を共有するシステムを取り入れる。関与が疑われるロシアへの抑止力を高める。
北欧などのNATO加盟諸国は14日、フィンランドの首都ヘルシンキで首脳会議を開いた。
2024年11〜12月に相次いだ電力やインターネットの海底ケーブルの破損を受け、フィンランドとエストニアが主催した。
被害を受けたスウェーデン、リトアニアといった北欧諸国やバルト3国に加え、ドイツやポーランドなど8カ国首脳が集まった。
NATOのルッテ事務総長も出席し、海底ケーブルの安全確保策を強化する内容の共同宣言を出した。
NATOとして海底ケーブル破損の問題に対応する背景に、ロシアによる破壊工作の疑いがある。
欧州連合(EU)は24年12月に起きたフィンランドとエストニア間の破損を巡り、米欧からの制裁を逃れるためロシア産原油を秘密裏に運ぶ同国の「影の船団」の関わりを指摘する。
フィンランド当局は影の船団に属するとみられるクック諸島船籍のタンカーを拿捕(だほ)して捜査を進めている。
航路沿いからは長さ4メートル、重さ11トンのいかりが回収された。海底でいかりを100キロほど引きずった形跡が見つかった。
フィンランドのストゥブ大統領は会議後の記者会見で「ロシアの影の船団に断固として対処する」と強調した。
ヘルシンキの大統領官邸で記念撮影する各国首脳やNATOのルッテ事務総長(右から5番目)ら(14日)=AP
NATOに加盟する英国や北欧、バルト3国など10カ国でつくる軍事協力の枠組み「合同遠征軍(JEF)」は1月上旬、不審船の情報共有システムの運用を始めたと発表した。
船舶の位置情報などをAIが分析し、リスクを検知した場合はJEF参加国とNATO加盟国に警告する。JEFは声明で「共通の利益と地域の安定を守るため、NATOや同盟国を支援する」と強調した。
ロシアがウクライナに侵略して以降、欧州ではロシアによる軍事力と非軍事力を組み合わせた「ハイブリッド攻撃」の脅威が高まっている。海底ケーブルへの打撃は非軍事的な脅威の一つとみなされる。
NATOは北大西洋条約の第5条で集団的自衛権を規定する。加盟国への武力攻撃を全加盟国への攻撃とみなして反撃する体制だ。ルッテ氏は会見で「重要な海底インフラの攻撃を容認せず、全力で反撃する」と言及したものの、どの程度の段階で行使するかは明確でない。
ハイブリッド攻撃は原因の特定も困難な例が多い。ストゥブ氏は「妨害行為を全て防ぐことはできず、エネルギーやデータの多様な供給源の確保が重要になる」と説いた。
バルト3国は2月にロシアの送電網との切り離しを予定する。エストニアのミハル首相は計画通りに切り離しを進める考えを示し「ロシアは信頼できるパートナーではない」と主張した。
日経記事2025.1.14より引用