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2003年/オランダ/80分
監督:ジャック・ジャンセン
出演:ファイルーズ、他
音楽:ファイルーズ
アップリンクでの「第1回ミュージック・ドク・フェス」で「愛しきベイルート/アラブの歌姫」を観た。ミュ-ジック・ドク・フェスということだったので、観るより聴くという作品を想像していた。だからこれは50年以上レバノンで歌い続けているレバノン人の歌姫ファイルーズ(映画の中ではフェイルーズと聞こえる)の生涯と彼女の歌を映し出していると思って観始めたら全く違っていた。
彼女の歌については何の予備知識もなく、一曲目を聴いた時は妙なポップスみたいな歌が流れ、これは外したかな、とちらっと思ったのだが、それは杞憂に終わり二曲め以降ぐんぐん引き込まれた。
この作品で音楽は作品の一つの重要な要素ではあるけれど全てではない。というより、これはレバノンにおける政治ドキュメンタリーだった。内戦が長く続き、ベイルートは東ベイルートと西ベイルートに分裂、そしてようやく内戦が終結したという戦争の歴史を背景に、その激しい戦争の中でベイルートに留まり続け、歌い続けてきたファイルーズの歌によって心を支えてきた人々の話で構成されている。語る人々は、宗教も宗派も、政治も民族も様々であるが、それらの人々の彼女の歌に寄せる熱い思い、彼女の歌に希望をかける気持ちが画面を通して切々と伝わってくる。そして、ファイルーズの愛に満ちた歌は、弾痕の生々しく残り荒廃した町の中を流れていく。音楽の力、歌の力について、その持つ底知れない力について深く考えさせられる。
*Wikipedia レバノン