「その女アレックス」で随分気分をブルーにさせられたので、今回は楽しい小説をと思い、三浦しをんの『木暮荘物語』を読む。
おんぼろアパートに暮らす住人たちのほのぼのした物語を期待してというか、ありがちな話なので軽い気持ちで読めるかなあ、なんて特に何も考えずに選んでみた。
三浦しをんさんなら、まだ「まほろ駅前多田便利軒」とか「舟を編む」とか読んでないので、こっちの方を読めばよかったんだど、とにかく「アレックス」のダメージが大きく、ページ数も少ないのを読みたかった(^^;)
小田急線の世田谷代田駅から井の頭線の新代田駅方向へ歩いて5分ほどの住宅地に建つ、木造二階建ての古ぼけたアパート「木暮荘」。
ある日曜の昼下がり、203号室の坂田繭の部屋に来客を告げるブザーが鳴る。
彼氏と部屋でごろごろとしながらおしゃべりをしていた繭は、慌てて部屋着を身に付け、玄関のドアを開ける。
そこには元彼の並木がにこにこして立っていた・・・。
アパートの住人の話がオムニバス形式で語られるんだけど、いきなり三角関係の話だったので、「アレックス」の後にいきなりこんなぬるい話かとちょっとがっかりしてしまう。
しかも繭はその関係がまんざらでもなく、現在交際している伊藤も特に怒るわけでもなく、並木は全くお構いなしで、挙句の果てに川の字になって寝るという暮らしになってしまう。
なんだかちょっと気持ち悪い。
続いての話は、木暮荘の大家である木暮である。
ここから俄然面白くなる。70を過ぎたおじいちゃんなのだが、病気で入院している友人のもとに見舞いに行ったとき、友人から「かあちゃんにセックスを断られた」と聞き、友人がそのまま亡くなったのを機に、激しい性欲に目覚めてしまうという話。
この話が抜群に面白い。その後も住人たちやかかわる人たちのほぼ下ネタがらみの話が続く。
中には天井に空いた穴から、ずっと女子大生の部屋を覗き見してるという、ほとんど変態のサラリーマンの話まである。
なるほど、今回はそういうお話か。
愛とつながりに翻弄される住人達。人とかかわりを持つことで生活が一変してしまう可笑しさと楽しさ。
そして人とつながるということの意味を、ヘンテコな住人達が語りかけてくる。
粘膜と粘膜をこすりあわせる行為と愛情は、別の感情ではないのか。
そんなとんでもな問いかけを、思いがけず恥かしげもなくストレートに突いてくる。
作品の空気感はハートフルっぽいけど、なんとも内容は生々しい。
少々かけ離れた世界に終始心はもやもやしたまま。奇妙な作品である。
ただ登場人物たちを見ていると、本能が求めるものと心が欲するものとのギャップが人生を面白くし、そのギャップを克服することで人生は前に進めるんだなあ、なんてことを感じてしまった。
人生を楽しく生きるコツがここに描かれている・・・、かも(^^)
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