とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

新作陶器「湖」

2012-11-24 22:47:54 | 日記
新作陶器「湖」




 夜光陶器「湖」

 笙子さんの新作陶器が完成しました。知らせを受けた私は胸躍らせて車を走らせました。慣れない夜道は私を極度に緊張させました。工房に着くと、父娘の姿が見えました。

 何とかできました。・・・では明かりを消します。お父さんがそう言いました。最初は夕焼け色に輝いていた器の表面から次第に模様のようなものが浮き出ました。

 これ以上の色は私にはもう無理です。と笙子さんは言いました。

 すばらしいですね。こんな器は見たことがありません。幻想的ですね、いや、神秘的と言いますか・・・。私はそれ以上の言葉が出てきませんでした。

 そうですか。ありがとうございます。笙子さんは少し微笑みました。

 お母さんが喜んでおられることでしょう。

 そうでしょうか。不満のような気もしてきます。

 いや、そんなことはないと思います。私がそう言うとお父さんが明かりを点けました。すると、また表面が夕焼け色に戻りました。

 畝本さん、こうなっては売れるか売れないかということは、どうでもいいような気持ちになりました。

 いや、きっと注目されると思います。

 親ばかですが、この作品は陶芸家の審美眼を超えた所にあると思います。分かってもらえないと思います。笙子の思いが結晶していますからとても、とても・・・。

 お父さん、私には分かるような気がします。じっと見ていて湖の底から響いてくる声を感じました。

 そうでしたね。貴方のお母さんも・・・。

 ・・・。

 畝本さん、この作品が出来ましたから、もう、私は陶芸から離れます。日本画家として仕事を続けます。そして、宍道湖を描き続けます。私は、笙子さんの姿が何かの光を放っているように感じました。

 
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