とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

倭歌子の舞い

2013-06-16 15:51:17 | 日記
倭歌子の舞い


 上村松篁『祇王』

 白拍子の舞は、古く遡ると巫女による巫女舞が原点にあったとも言われている。神事において古くから男女の巫が舞を舞う事によって神を憑依させた際に、場合によっては一時的な異性への「変身」作用があると信じられていた。日本武尊が熊襲征伐において女装を行い、神功皇后が三韓征伐の際に男装を行ったという説話も彼らが巫として神を憑依させた事の象徴であったという。

 このうち、巫女が布教の行脚中において舞を披露していく中で、次第に芸能を主としていく遊女へと転化していき、そのうちに遊女が巫女以来の伝統の影響を受けて男装し、男舞に長けた者を一般に白拍子とも言うようになったという。

 白い直垂・水干に立烏帽子、白鞘巻の刀をさすという男装で歌や舞を披露した。時代が下ると色つきの衣装を着ることも多かった。伴奏には鼓、時には笛などを用いた。後に、猿楽などへと変貌していった。後に早歌(そうが)や曲舞(くせまい)などの起こる素地ともなった。また延年にも取り入れられ、室町時代初期まで残った。

 祇王は清盛の寵愛を一心に受けていた美しい白拍子だった。ある日、自分の芸に自身のある、野望に燃えた美少女の白拍子が、清盛に芸を見てほしいと邸に押しかける。取り合おうとしない清盛に、祇王が優しく口添えした。これがあだとなり・・・その美少女、仏御前の芸を見た清盛はたちまち魅了され、祇王を追い出してしまうことになる。

 そして世間の羨望を一心に集めていた祇王は、たちまちに奈落の底に落とされる。そればかりか、芸を見せに来いとの呼び出しがかかるようになる。母と妹の生活費のために、彼女はプライドを捨てて清盛の屋敷へ上がるようになった。(『Wiki』より)


 ある日の午後、私の携帯が鳴りました。古賀さんでした。ああ、畝本さん、今、笙子さんのお宮にいるんだけど、すぐ来てほしいんだけど・・・。どういうことですか。いやね、喜多川さんや坂本さん、それに笙子さんのご主人がこちらに揃っています。あのね、倭歌子さんが舞姿を披露することになているんです。だから、すぐに・・・。分かりました。そう言いながらこれは大変なことになったと思いました。倭歌子さんが試される。舞いの腕前の吟味が始まる。お宮に着いて、私はすぐに神楽殿に入りました。身重の笙子さんが鼓、ご主人が笛の役をするらしく、身構えていました。そこへ白拍子の衣装に身を包んだ倭歌子さんが現れました。私たちは固唾をのんで見守っていました。舞いが始まりました。

 きりっとしてて風格があり、隙がないですね。相当の腕ですよ、と古賀さん。喜多川さんは倭歌子さんの所作をじっと見守っていました。私は、古賀さんに近づいて息を殺して見守っていました。

 仏御前の心境ですね、彼女。古賀さんが呟きました。

 そんな・・・。私は返す言葉を見失っていました。

 笙子さんの体調が整うまで彼女を中心に稽古を始めましょう。・・・喜多川さんの言葉が私たちに重く被さってきました。続いて喜多川さんが言いました。大器です。いずれ仙女を超える力量を発揮すると思います。・・・笙子さんはその言葉が聞こえていないようでした。いや、自身分かっていたのかも知れません。
 
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