市川翠園という女優
「男舞」上村松園
この絵には具体的な名前は記されていない。しかし、静御前、出雲阿国など男装をして舞う芸人が念頭にあったと思われる。舞いの中のある瞬間を巧みにとらえて描いていて、静かな表情が逆に漲る熱情を表現している。
長柄さんの誘いを受けて、私は出雲市のある居酒屋に出かけました。長柄さんはいつもと違って少しきつい表情をしていました。酔いが回ると自然にお互い本音が飛び出してきました。
笙子さんの妹が来てるらしいじゃないか、何者なんだその女は、と長柄さん。
いや、私も初めて妹さんがいることが分かって驚いている。何者かと言われても・・・。ま、とにかく男舞がすごく旨い、京都で巫女をやってたらしい。
それで、その舞いを吟味したというじゃないか。だいたい想像がつくよ、でれっとして見てたんだろう、お前たち。
いや、それは想像に任せる。湖笛の次の舞台の構想を考えるための・・・。
なに、構想を立てる、お前は何様だ。
いや、私は古賀さんに呼ばれて行ったんだ。
どうしてお前なんだ。
どうしてと言われても。
だいたいな、プロの世界にど素人が首突っ込んでどうする積りだ。
いや、俺は口出しはしていない。ただ今まで関わってきた関係上、気にかかるじゃないか。
ふん、お前は心配する資格はない。ぼつぼつ手をひけよ。
そうか、今までずっとそう思ってたんだ。
そうだよ。もういい。たくさん人が集まって、家の周りが賑やかになってきた、それでいいじゃないか。もうほっとけ。みんながやっていく。
そうか、・・・それもそうだな。俺が心配してもなんにもならないな。
そうだ。これからは自然に動いていく。
そうか。そうかもしれないな。
そうだよ。すごい人材が集まってきた。もうあちらで動いていく。
そうか。・・・でも寂しいな。
お前は未練がましいことを言う奴だな、いつまでもうじうじしていて・・・。
そうか。・・・しかし、お前だってそうじゃないか。・・・今まで二人でやってきたんじゃないか。
引き時だとおもってる。お互いいい年だ・・・。
そうか。でも・・・。その時、私の携帯が鳴った。冴子さんからだった。
あ、お楽しみ中ご免なさいね。・・・あのね、倭歌子さんのことだけど・・・、あの人、市川翠園のお弟子さんらしいわよ。相当の踊り手らしい。・・・そんな人を誰が呼んだの。
市川翠園、・・・誰なんですか。
仙女さんのライバル劇団の女優ですよ。だから、気にかかって電話しました。
笙子さんが呼んだと聞いているけど・・・。
喜多川さんじゃないですか。
いや、そうかも知れない。いや、そうだとすると、どうして・・・。
でしょ、私は意図が読めないんです。
もしかして、郁子さんを刺激するという・・・。
いい意味の刺激ということですね。
そうとしか考えられないですね。
おい、おい、また首突っ込んでやがる。もう止めろよ。・・・長柄さんの大きな声がしました。私は、じゃ、また後で、と言って電話を切りました。
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この絵には具体的な名前は記されていない。しかし、静御前、出雲阿国など男装をして舞う芸人が念頭にあったと思われる。舞いの中のある瞬間を巧みにとらえて描いていて、静かな表情が逆に漲る熱情を表現している。
長柄さんの誘いを受けて、私は出雲市のある居酒屋に出かけました。長柄さんはいつもと違って少しきつい表情をしていました。酔いが回ると自然にお互い本音が飛び出してきました。
笙子さんの妹が来てるらしいじゃないか、何者なんだその女は、と長柄さん。
いや、私も初めて妹さんがいることが分かって驚いている。何者かと言われても・・・。ま、とにかく男舞がすごく旨い、京都で巫女をやってたらしい。
それで、その舞いを吟味したというじゃないか。だいたい想像がつくよ、でれっとして見てたんだろう、お前たち。
いや、それは想像に任せる。湖笛の次の舞台の構想を考えるための・・・。
なに、構想を立てる、お前は何様だ。
いや、私は古賀さんに呼ばれて行ったんだ。
どうしてお前なんだ。
どうしてと言われても。
だいたいな、プロの世界にど素人が首突っ込んでどうする積りだ。
いや、俺は口出しはしていない。ただ今まで関わってきた関係上、気にかかるじゃないか。
ふん、お前は心配する資格はない。ぼつぼつ手をひけよ。
そうか、今までずっとそう思ってたんだ。
そうだよ。もういい。たくさん人が集まって、家の周りが賑やかになってきた、それでいいじゃないか。もうほっとけ。みんながやっていく。
そうか、・・・それもそうだな。俺が心配してもなんにもならないな。
そうだ。これからは自然に動いていく。
そうか。そうかもしれないな。
そうだよ。すごい人材が集まってきた。もうあちらで動いていく。
そうか。・・・でも寂しいな。
お前は未練がましいことを言う奴だな、いつまでもうじうじしていて・・・。
そうか。・・・しかし、お前だってそうじゃないか。・・・今まで二人でやってきたんじゃないか。
引き時だとおもってる。お互いいい年だ・・・。
そうか。でも・・・。その時、私の携帯が鳴った。冴子さんからだった。
あ、お楽しみ中ご免なさいね。・・・あのね、倭歌子さんのことだけど・・・、あの人、市川翠園のお弟子さんらしいわよ。相当の踊り手らしい。・・・そんな人を誰が呼んだの。
市川翠園、・・・誰なんですか。
仙女さんのライバル劇団の女優ですよ。だから、気にかかって電話しました。
笙子さんが呼んだと聞いているけど・・・。
喜多川さんじゃないですか。
いや、そうかも知れない。いや、そうだとすると、どうして・・・。
でしょ、私は意図が読めないんです。
もしかして、郁子さんを刺激するという・・・。
いい意味の刺激ということですね。
そうとしか考えられないですね。
おい、おい、また首突っ込んでやがる。もう止めろよ。・・・長柄さんの大きな声がしました。私は、じゃ、また後で、と言って電話を切りました。
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